第5話 「投票」
**登場人物**
- ナカソネ
- タケシタ
- オオヒラ
- カネマル(臨時首相)
- タナカ(市民代表)
- サトウ(ジャーナリスト)
**舞台**
ミサイル戦艦「ムサシ」艦橋。全国各地の投票所
---
**起**
選挙当日。朝六時。
東の空が白み始めている。
新しい一日の始まりだ。
しかし、今日は特別な日だ。この国の運命が決まる日になる。
全国で投票所が開く。
扉が開く音が響く。
係員が準備して、投票箱が設置される。記載台が並ぶ。
全てが整った。
長蛇の列ができていた。
驚くべき光景だ。
投票所の前に、数百人が並んでいる。数えきれない。
どこの投票所も同じだ。
老若男女、様々だ。
白髪の老人がいる。若い母親が赤ん坊を抱いて並んでいた。学生がグループで並んでいる。会社員は一人で立ち、スマホを見ている。
あらゆる階層の人々が並んでいる。
貧しい服装の者。
高級スーツを着た者。
作業着の者。
全員が同じ列に並んでいる。
階級の違いはない。この日だけは、全員が平等だ。
サトウはカメラを持って取材していた。
彼は早朝から動いている。
この歴史的瞬間を記録する。そんなジャーナリストの使命に燃えていた。
「こちら、トーキョー第一投票所です」
彼はマイクに向かって話す。
声が少し震えている。
興奮か、或いは緊張なのか。
「開始から三十分」
時計を見る。
既に多くの人が投票している。
「既に数千人が投票しました」
驚異的としか言えない数だ。
通常の選挙の倍以上なのは確実だった。
サトウは一人の老人に声をかける。
八十代だろうか。
背中が曲がっている。しかし目は澄んでいる。
「失礼します。どちらに投票されましたか」
「交渉だ」
老人はそう答えた。
即答であり、迷いがない。
サトウが続けて尋ねる。
「理由を聞いても?」
なぜその選択をしたのか。理由を知りたかった
老人は真剣な表情だ。
深い皺が刻まれた、多くを経験してきた顔だ。
「血を流したくない」
シンプルな答えだ。
「この歳まで生きて、内戦などゴメンだ」
経験だった。
戦争を知っている世代故の判断だった。
サトウは別の若者に尋ねる。
二十代だが、痩せている。
しかし目は鋭く、爛々とした怒りを秘めていた。
「あなたは……」
「空爆賛成」
彼も即答だった。
明確で、迷いがない。
サトウが驚く。
「なぜです」
理由を知りたい。なぜ破壊を選ぶのか。
若者は怒りを滲ませる。
拳が握られている。体が震えている。
「政府に搾取されてきた」
その言葉には、深い恨みがあった。
「もう我慢の限界だ」
元々限界だったのだ。
それがついに、首都の空爆という手段が明示された事で臨界点を越えた。
ただそれだけの話であった。
サトウは中年の女性にも尋ねる。
四十代だろうか。疲れた顔だが、気品がある。
「あなたは」
女性は悲しそうに、しかし明確に答えた。
「空爆反対です」
「……理由を伺っても?」
声が小さい。
しかし、サトウが理由を問う。
女性は涙ぐむ。ハンカチを握りしめている。
「息子が政府で働いています」
愛する家族がいる。
空爆反対を選ぶには十分な理由だった。
「空爆なんてされたら……」
声が震えている。想像したくない恐怖だろう。
サトウは頷く。
理解する。様々な思いが交錯している。
正義も、恐怖も、怒りも、愛も。
全てが混ざっている。
ムサシの艦橋ではナカソネが投票状況を見ていた。
モニターに各地の映像が映っている。
長蛇の列。投票箱と、記載する人々。
「投票率はどうなっている」
確認したかった。
どれだけの人が来ているのか。
「驚異的です。既に五十パーセントを超えています」
オオヒラの声には興奮が滲んでいる。
異常な数字だ。ニッポンの普段の選挙では考えられない。
タケシタが言う。
「国民の関心の高さがわかります」
感慨だ。国民が目覚めている。
ナカソネは頷く。
「当然だ」
彼は理解している。
「自分たちの運命を決める選挙だからな」
これまでの選挙とは違う。
誰かが決めるのではない。自分たちが決めるのだ。
オオヒラが報告する。
「各地で混乱はありません。整然と進んでいます」
秩序がある。規律がある。
その様子に、ナカソネは安堵する。
「よかった」
万が一。もしかすると暴動が起きるかもしれないと、ひそかに心配していた。
しかし国民は冷静だった。
タケシタが尋ねる。
「結果はどうなると思いますか?」
誰もが知りたい質問だ。
ナカソネは首を振る。
「予想するべきではない」
ナカソネはどこまでも正直だ。
「拮抗しています」
三つの選択肢は、どれも選ばれる可能性がある。
オオヒラがグラフを表示する。
「世論調査では交渉が優勢でしたが……」
「投票は別だ」
ナカソネの指摘は鋭い。
経験からの言葉であった。
軍人として、人としての。
「人は本音で入れる」
世論調査では建前を言う。
しかし投票は違う。
誰も見ていない。本当の気持ちを入れる。
**承**
昼過ぎとなった。
太陽が高い、暑い日だ。
しかし列は途切れない。
投票率は七十パーセントを超えた。
信じられない数字。
異例の高さであり、当然の様に史上最高だ。
首相官邸では、臨時首相のカネマルが報告を受けていた。
重い責任が肩にのしかかっていた。
「投票は順調です」
ミヤザワが報告する。
普段通りに冷静だった。しかし確実に緊張している。
カネマルは頷く。
「不正の報告もありません」
最も重要な確認だった。
ミヤザワが付け加える。
「各地の選挙管理委員会も。公正に運営されています」
肩の荷が少しだけ軽くなる。
不正があれば、全てが無意味になる。
ニッポン国民の善良さに感謝するしかなかった。
「結果が空爆賛成だったら、対応はどのように?」
ミヤザワは尋ねる。
考えるのは恐ろしいが、否定できない可能性だ。
ミヤザワの問いに、カネマルは答える。
「避難を開始する」
一応としか言えない備えではあるが、最悪の事態に備えて準備はしている。
防衛大臣としての、カネマルの最後の仕事がそれだった。
ミヤザワは淡々としている。
「間に合うのですか?」
そもそも首都に空爆が行われるという事は、民意は空爆を支持していることを意味している。
そんな中でどれだけの人間を逃がせるのか、そもそも政府の指示に従うのか。疑問は尽きない。
カネマルは苦笑する。
自嘲だ。しかし決意もある。
「可能な限りを間に合わせるしかない」
その時が来れば、全力でやるしかない。
それしか言えなかったし、現実問題としてそれが全てでもあった。
彼は窓の外を見る。
トーキョーの街が広がっている。
平和な街だ。しかしその平和が。今夜、試される事になる。
トーキョーの街は静かだ。
いつもより静かだ。
車が少ない。人通りも。
皆がテレビを見ている。結果を待っている。
緊張が漂っている。
目に見えない、空気が重たくなるような緊張が。
市民は結果を待っている。
家で。職場で。カフェで。
皆が同じことを考えている。
――どうなるのか?
街頭インタビューが続く。
常に街頭インタビューに写り続けるサトウの顔には、明確な疲労が現れていた。
しかしそんなサトウの言葉に、市民は真剣に答えていた。
ジャーナリストの使命が、少しでも意見を伝えたいという感情が。
剥き出しの使命感と真剣さが、そこにはあった。
サトウは様々な人に話を聞いている。
公園で。駅前で。商店街で。
「交渉に期待しています」
中年の男性だ。穏やかな表情だ。
「空爆は必要悪です」
若い女性。厳しい表情が隠せていない。
「全て反対です。平和的な解決を望みます」
老人だ。祈るような表情。
意見は三つに分かれている。
国民が三分割されていた。
サトウはカメラに向かって総括する。
「国民は深く分断されています」
否定できない事実だ。
「しかし、どの意見も真剣です」
それも事実だ。誰も軽い気持ちではない。
彼は一呼吸置く。
間を取る。分かり切っている話ではあるが、その言葉が重い。
「今夜。結果が判明します」
運命の夜だ。
「そしてニッポンの未来が決まります」
全てが決まる。この国の、この国民の。
ムサシの艦橋ではナカソネが黙想していた。
椅子に座っている。目を閉じている。
祈っているのか。瞑想しているのか。
タケシタが声をかける。
「艦長」
「何だ」
目を開けたナカソネの声は、穏やかだった。
タケシタは躊躇する。
聞きたい。しかし聞きたくない。
矛盾。知りたいはずなのに、答えを聞くのが怖かった。
「もし空爆賛成が多数なら、本当に実行しますか?」
最後の確認を行う。
質問を躊躇したタケシタに、ナカソネは即答した。
「する」
迷いがない一言だった。
「しかし。それでは民間人にも犠牲が」
「わかっている」
同じ質問を何度もされる。その意図は理解している。
その重さを。罪の重さを。
もう十分じゃないかと、そんな気持ちがない訳ではない。
彼は窓に近づく。
海が見える。穏やかな海だ。
しかしその向こうに、トーキョーがある。
「しかし、それが民意ならば。私はやらねばならん。約束だからだ」
宣言通りに決行する。
ナカソネは揺るがない。
タケシタは黙るしかなかった。
これ以上、何も言えない。ナカソネとはそういう男だと、知っていたから。
オオヒラの報告が上がる。
「投票率が八十パーセントを突破しました」
驚異だ。
ナカソネは驚く。
「八十?」
信じられず、思わず聞き返した。
その言葉にオオヒラは頷く。
「史上最高です」
歴史的な記録だ。
国民の真剣さは、投票率が物語っている。
ナカソネは呟く。
「やはり引けん。民意を順守する」
熱した鋼が、冷えて粘りを増すように。
燃える様な熱い気持ちが、冷徹な覚悟へと変質を続ける。
「国民は真剣だ」
**転**
夜八時。
日が沈んでいる。
夜だ。しかし街は明るい。
テレビの光が消えない。
全国が見ている。
投票が締め切られた。
扉が閉まり、係員が投票箱を封印する。
開票が始まる。
投票箱が開けられて、票が取り出される。
一枚、また一枚。
係員が数えていく。
全国が注目する。
家族が集まっている。友人が集まっている。
皆がテレビを見ている。固唾を呑んでいる。
テレビは特別番組を組んでいる。
全局が同じ番組を放送している。開票速報一色だ。
サトウがスタジオで解説していた。
彼も緊張していた。何度も水を飲み、唇を湿らせている。
「開票速報です」
彼は緊張した面持ちだ。声が少し上ずっている。
「まもなく第一報が入ります」
全国が待っている。
スタジオが静まり返る。
スタッフも、カメラマンも。
全員が画面を見ている。
画面に数字が表示される。
最初の数字だ。まだ少ないが、方向性は見えていた。
――空爆賛成が三十二パーセント。
事前予想より少ない。
――空爆反対が十八パーセント。
こちらも少ない。少数派で確定だ。
――交渉が五十パーセント。
サトウが声を上げる。
「交渉がリードしています!」
思わずと言った感じで声を上げた彼は、しかし一呼吸置いて付け加えた。
もしかすると、ジャーナリストとして、決めつけて喋る事に抵抗があるのかもしれない。
「ただし、まだ十パーセントの開票です」
だから、まだわからない。
逆転の可能性は当然ある。
数字が次々と更新される。
画面が変わる。数字が動く。刻々と。
空爆賛成が上昇する。
――三十五パーセント。
じわじわと伸びている。
――三十八パーセント。
まだ伸びる。
――四十パーセント。
まるで国民の怒りを代弁するように、伸びが早い。
交渉に迫っている。
交渉派も伸びる。
――五十二パーセント。
まだリードしている。
――五十三パーセント。
しかし、その差は徐々に縮まっている。
理性と感情の判断が別であるかのように、伸びが悪い。
低迷しているのは空爆反対だ。
――二十パーセント前後で停滞している。
伸びない。最初から少数派だ。
奇麗には聞こえるのだろうが、熱と理屈が足りていない。そんな数字だった。
ムサシの艦橋では全員が画面に釘付けだった。
誰も動かない。
誰も話さない。
全員が見つめている。
オオヒラの反応が実況になっていた。
「接戦だ…… 空爆賛成と交渉が拮抗しています」
どちらが勝つかわからない。
タケシタが言う。
「空爆派の追い上げが凄まじいですね。どちらが勝つかわかりません」
不安があった。恐怖も。
ナカソネは黙って見ている。
彼の表情は読めない。冷静だ。
しかし心の中ではどうなのか。葛藤はないのか。
タケシタには推し量れなかった。
――開票が、五十パーセントを超える。
半分の開票が終わった。方向性が見えてくる。
空爆賛成が四十二パーセント。
交渉が四十八パーセント。
その差は六パーセント。接戦だ。
空爆反対が十パーセント。
こちらは、完全に置いて行かれていた。
スタジオでは、サトウを含む出演者たちがこの結果を分析していた。
「空爆反対派が交渉に流れているのでしょうか?」
恐らくそうなのだろう。
合理的な推測だった。
「血を流したくないという民意が明確ですか」
数字の解釈の話である。サトウの希望が混じる様な言い分であった。
しかし空爆反対と交渉派を合わせると、六十パーセントに迫る勢いなのは事実ではあった。
「交渉案が過激である可能性はあります」
やはり、数字の解釈の話であった。
交渉案の内容は知らされていない。
この選択が穏当になると考えているのは、まだ予想であった。
「……結果を待ちましょう」
開票が七十パーセントを超える。
ほぼ確定する。残り三十パーセントでは、逆転は難しい。
――数字は、ほとんど動かなくなっていた。
空爆賛成が四十三パーセント。
交渉が四十七パーセント。
差は四パーセント。
僅差ではある。
しかし、これ以上が縮まらない。
あるいはこの結果こそが、剥き出しの民意なのかもしれない。
タケシタが呟く。
「まだわかりません」
だが、可能性はゼロではない。その恐怖があった。
オオヒラも緊張している。
「逆転の可能性はあります」
数字的には可能だ。
ナカソネは立ち上がる。
「結果を待つ」
それだけだ。待つしかない。
**結**
夜十一時。
深夜に差し掛かろうとしている。しかし全国が起きている。誰も眠れない。
――開票率九十五パーセント。
ほぼ確定だった。残り五パーセントでは、もう数字は殆ど動かない。
ここに、最終結果がほぼ確定した。
――空爆賛成が四十四パーセント。
高い。非常に高い。しかし――
――交渉が四十八パーセント。
僅差ではあるが、交渉派が最多だ。
空爆反対が八パーセント。
完全な少数派となったこの意見は、もはや誰も気にしていなかった。
スタジオのサトウが宣言する。
「交渉が勝利しました」
歴史的な宣言だ。
スタジオに拍手が起こる。
血は流れない。勝ち取った事実に、安堵の絶叫が上がった。
しかし、サトウは真剣な表情だった。浮かれていない。
「ただし僅差です」
目を逸らせない、重要な指摘だった。
「国民の意見は真っ二つに分かれています」
現実だ。分断は深い。
街頭では、歓声と悲鳴が入り混じる。
混沌としていた。
喜びと怒りが、全国で同時に爆発している。
交渉支持者が喜んでいる。
「よかった」「血が流れずに済む」
それは感謝であり、安堵であった。
涙を流す者さえいる。抱き合う者もいる。
勝者の特権であった。
しかし反対に、空爆賛成派は憤っていた。
「これでいいのか!?」「政府を許すというのか!」
憤りだ。拳を握りしめている。叫んでいる。
この結果に納得していない。
敗者の叫びであった。
とある集会所の一つで、タナカが演壇に立つ。
連日のように街頭演説を行った青年は、自然とその地域のリーダーとして認められていた。同時に、リーダーとしての責任も感じ始めていた。
「皆さん」
彼の声がマイクを通して響く。
「結果は交渉です」
歓声が上がる。
しかしタナカは手を上げる。制止だ。
「しかし、忘れないでください」
重要なことがある。
「四十四パーセントの人々は、空爆を望みました」
無視できない事実だ。
群衆が静まる。その言葉の重さが。全員に伝わる。
「私たちは分断されています」
現実だ。頷くしかない。
「この傷を癒すのは容易ではありません」
確かに困難だ。しかし、彼は訴える。
「しかし対話は出来ます。誰も死んでいません」
それこそが希望だった。
話を出来る相手がいる。それがどれだけ望外の幸運であるのか、今更ながらにその事実が染み渡る。
「お互いを理解し。歩み寄るしかありません」
道が示されたのだ。
拍手が起こる。静かな、しかし心からの拍手が。
ムサシの艦橋では、ナカソネが結果を受け入れていた。
「交渉か」
呟きはいつも通りに冷静だった。
安堵か、それとも失望か。
少なくともナカソネの表情からは、彼の内心は読めない。
タケシタが確認する。念のためだった。
「従いますか?」
分かり切った質問ではある。
しかし聞かなければならない。
ナカソネは即座に頷いた。
「民意だ。当然従う」
約束は守る。それだけの話だ。
オオヒラが報告する。
「カネマル臨時首相から通信です」
待っていたとばかりに、ナカソネは受ける。
画面にカネマルが映る。
彼も疲れている。この五日間で、幾らか老けたように見えた。
「ナカソネ艦長」
カネマルの声は疲れている。
しかし確かな安堵が混じっていた。
「結果を見ました」
トップによる事実確認。
カネマルの言葉に、ナカソネは答える。
「交渉です」
事実を述べ、カネマルが頷く。
「明日、会談を開きましょう」
「わかりました」
承諾された。これで決着だ。
だがカネマルは言葉を続けた。
「しかし、一つだけ」
言わなければならないのだと。
ナカソネが尋ねる。
「何です?」
「あなたの処遇です」
この問題は避けて通れない。
テロリストのリーダーをどうするか。
ナカソネは笑う。
覚悟していた事だ。
「覚悟しています」
「いや、そうではない」
しかし、返ってきた言葉は否定だった。
「恩赦を検討しています」
それは、驚くべき提案だった。
ナカソネは事を起こしてから初めて、誰にでも分かる驚きの表情を浮かべた。
「……なぜです?」
ナカソネには、その言葉が理解できない。
呟かれた疑問にはカネマルが答えた。
「あなたは国の未来を救った。それに…… 本当は私のような立場の人間が言うべきではないが、あなたのような人間を死なせることには、抵抗があります」
望外の評価であった。
しかしナカソネは首を振って否定する。
「いいえ。国民が救ったのです」
「謙遜の必要はありませんよ」
ナカソネからすると、それは謙遜ではなく事実だった。
「次は交渉の場で会いましょう」という言葉と共に、通信が切れる。
タケシタが尋ねる。
「……これで終わりですか」
「まだだ」
まだ終わっていない。
彼は窓の外を見る。
夜の海には、星が輝いている。
「まだ話し合いが残っている」
次の段階に進んだだけだ。
「最後まで気を抜くな」
警告だ。
彼は艦隊に命令する。
「警戒は継続しろ。油断は禁物だ」
その言葉に、艦長たちが了解する。
「了解」「了解しました」
次々と返事が返る。
ナカソネは深く息を吸う。
長い戦いだった。
五日間。いや。準備期間を入れれば、もっと長い。
しかしまだ終わっていない。
話し合いに戦場が移行しただけだ。
――彼は自分の運命を考える。
恩赦があったとしても、己の罪は消えない。
クーデターを起こした。
国を混乱させ、多くの人を不安にさせた。
その責任は重い。
しかし後悔はない。
これでよかった。国民が選んだ。それが全てだ。
民主主義が正しく動き出した。
ナカソネには、それが何よりも重要だった。
彼は窓の外を見続ける。
星が瞬いている。美しい夜だ。
この美しさが、明日も続くように。
七日間事変、その五日目が終わった。




