恋を知らない少女は、猫に恋をする
──私はずっと、恋愛なんてものとは無関係だった。
私には縁のない話だと思っていたし、する気もなかった。
だから、それが崩れた時の衝撃は、大きいものだった。
いつものように、通学している途中だった。道が工事中で、迂回して通っているときに、『それ』を見た。
小さく縮こまっている、可愛い子猫を。
純白の毛は、この世のものとは思えないほどきれいで、その大きな瞳に吸い込まれそうだった。
心臓が信じられないほどバクバク鳴って、その可愛さに見惚れていた。これが、恋……?と、そう思ったその瞬間。
「にゃぁー」
その音を耳が受け入れ、脳に極楽の鳴き声を送る。
なに受け取ってんだ、私の耳。羨ましいぞ。
そんな風に思っていると、猫が動いた。その動き一つ一つに、目を奪われる。
だが、猫はそのまま走り出し、見えなくなってしまった。
「あっ、待って!」
思わず体が動き出し、その後を追う。もう一度その姿を目に、脳に、記憶に焼き付けようと、今までにないほど全力で追いかけた。
「はぁ……はぁっ……待って!」
普段は全く運動していないせいで、すぐに息が切れ、心臓がバクバクとなっている。いや、この鼓動の9割くらいは、先ほどの天使のせいではないだろうか。
「もう……無理」
猫の素早い動きについていけず、最初こそ追いかけられたものの、またすぐにその姿が見えなくなってしまい、その後、姿を見ることは叶わなかった。
それでも諦められず、なんとか探そうと足を踏み出した。
だが、その瞬間、学校のチャイムが鳴った。
「あ──遅刻だ」
しかし、私の心には焦りはなく、ただ、猫に対する想いでいっぱいだった。
これが、私の初恋だった。




