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第2話 魔王、奴隷契約を提案する


雨が降っていたので、俺と“自称魔王”は、比較的被害がマシだった家の軒下で雨宿りしていた。

なお、全裸だった男には、いつも持ち歩いている魔物解体用の清潔な布を腰に巻かせてある。


「……無いよりマシだろ」


さっきよりはマシ、のはずだった。

ただ、俺より三つほど年下に見える美形の青年が、裸で薄汚れた俺と一緒にいたら――どう見ても事案だ。

通報どころか、騎士団にその場でイチモツを斬られる案件である。


「……で、お前、魔王って言ったよな?」

「そうだ」

「そっかー。まじの魔王かー。だからあんな意味わかんない再生力持ってんのね」

「そうだ。聖剣で心臓を刺されない限り、私は死なない」


さっきまで死んでた奴の言葉は、妙に説得力がある。


そして唐突にヴァンは言った。

「実演するか」


そう言って、俺の腰のナイフを抜き取り――


「おいおいおいおい!? 何してんだ!!」

「見せた方が早い」


喉元に刃を当てるな! なんでそんな冷静に切ろうとしてんだ!?


「いやもう見たから! ついさっき見たから! 魔王だって信じてるって!」

「そうか」


その声には、一切の迷いがなかった。

まるで“死”や“痛み”さえも、経験ではなく仕様として処理しているような、冷たい理性の声だった。

この男、感情という機能をどこかに置き忘れてきたらしい。


その躊躇のなさと、感情の欠片もない返答に、背筋が冷たくなった。


「誤解のないように言っておく。私は“生まれながらの魔王”ではない。セラフィア聖王国の政策により開発された“魔王”だ」

「……開発って、そんな小麦の新品種みたいに言わなくても」

「似たようなものだ。魔王という品種の、今作版が私だ」


いや、例えがシャレになってねぇんだよ。

本人が淡々としてるのが一番怖い。


作られた“今作魔王”。

ってことは、今までの魔王たちも全部――セラフィア聖王国産の“人造魔王”ってことか?


つまり国が魔王を作って、国が勇者に討たせて、国が「平和を取り戻した」と宣伝してる……?

……全部、自作自演ってことか?


「俺、今めっちゃ知らなくてもいいこと聞いてない?」

「そうだ。国家機密だ」


即答すんな。


男は冷たい空気を吸い込み、遠くの煙を見つめた。

「この村の爆発は、私の暴走が原因だ。定期的に魔力が制御を超える。国家はそれを“魔物災害”として処理する」

「処理って……いや、待て。お前、それ……自首案件じゃね?」


言いながら気づく。

この男、罪悪感ゼロだ。

まるで“人の命”という概念を、システムエラーの一項目くらいにしか感じていないような、そんな顔……に見える。

いや、そもそもこの顔、会ったときから一度も表情が動いていない。


「だからこそ、君を殺す必要がある」

「急展開すぎるだろ!?」


男が手を上げる。

その瞬間、空気が圧し潰されたように重くなった。

息をするだけで肺が軋む。


(やばい。コイツ、桁違いだ)


「君は私の“再生”を見た。国家に知られれば、君は実験棟送りになる。だから私が、先に楽に殺して――」


「待て待て待て!! 喋らねぇ! 墓まで持ってく!!」

「信用できない」

「頼むよ、まだ死にたくねぇんだ! 契約でも、金でも、何でも払うから!!」


息を荒げながら懇願する俺に、ヴァンは一瞬だけ考え込む素振りを見せた。

そして、静かに呟く。


「……その方法もあるか」


男の掌に淡い光が灯る。

地面に魔法陣が浮かび上がる。


「君、私の“奴隷”となれ」

「……はい?」

「契約を結ぶ。命令は絶対。君が従う限り、私は君を殺す理由を失う」

「つまり、要約すると“死にたくなければ俺の奴隷になれ”ってことか?!」

「そうだ。命の保証をしてやる」


そんな完全主導権渡して得る保証はやだな!


「契約の発動には媒介が要る。血か、臓器ひとつだ」

「無理無理!!」


俺の悲鳴も虚しく、ヴァンは淡々と頷いた。


「わかりやすいものほど支配力が強い。……眼球でいいか」

「聞いてねぇぇぇ!!」


男は小さく息を吐くと、そのまま――自分の左目に指を突っ込んだ。


「っ――は?」


ぐち、と湿った音がした。

金色の眼球が男の長い指に摘まれる。グチグチと、聞いたことのない音。

目から溢れた血が頬を伝い、雨に混じって消えた。


「何やってんだ!!!」

「対価を払うのは契約主だ。お前は私の左目ひとつ分の価値だ」

「俺の価値そんなもんなの!? てか冷静に言うな!!」


怖い怖い。躊躇いゼロで目ん玉くり抜くとか、恐怖の塊だろ。


「これくらいの欠損ならすぐ再生する」

「そういう問題じゃねぇ!! そもそも俺、奴隷になりたくねぇ!!」


思わず駆け寄って、その手ごと眼球を押し込む。そんなグロいもん出そうとするな!


世界が白く弾けた。


ビキィンッ!


足元から光の紋が走る。

雨でぬかるんだ地面に、複雑な紋章が咲く。

左目が熱い。まるで焼印でも押されたようだ。


「な、なんだこれ!? なんか光ったぞ!?」

「契約、成立だ」

「はぁ!?」

「今、お前が私の対価を受け取った。それで契約は完了だ」

「触っただけなんだが!?」


男が淡々と告げた。

足元の光が消え、静寂が戻る。

だが、目の奥の異様な熱だけは消えない。


「……痛ってぇ。これ、呪いの類じゃねぇだろうな?」

「問題ない。正規の術式だ」


男はいつの間にか再生していた左目を軽く瞬かせて言った。


「痛みに騙されるな。お前は今、正式に“私の契約者”だ」


……それはそれで嫌なんだが。


「……なぁ、俺、今すげぇ取り返しのつかないことされた気がする」

「安心しろ。お前はもう、私のものだ」

「俺、お前のこと死体だと思って、親切心で手ぇ貸しただけなのに、こんなのって……」


本当に、昨日までただのCランク冒険者だったんだぞ。

まさか今日、生き返った全裸の男に行動の自由を乗っ取られるとは思ってなかった。


「……そういえば、お前、名前は?」


不本意とはいえ、俺の生殺与奪の権を握った男の名前を今さらながら聞いてみる。


「ヴァン・アリステア」

「ヴァン……どっかで聞いたな。俺はノア。……まぁ、よろしくな、ご主人様」

「主従の呼称は不要だ。ノア、今日見聞きしたことを第三者に話すことを禁じる以外は、君は自由に振る舞え」

「……え、なんか優しいな」

「契約相手が死ぬと、私にも多少の損害が出る。それに――秘密を知り、私に服従する都合のいいお前には、他にやってもらいたいことがある」

「こき使う気満々じゃねぇか!」


いつの間にか、雨は止んでいた。

焦げた村の空気が、ひどく澄んでいる。


俺は空を見上げて、小さく息をついた。


――どうしてこうなったんだ、俺。


お読みいただきありがとうございました!


次回、第3話『俺、食事をふるまう』

――まさかの全裸魔王に服を着せて、飯を食わせる!?

ギャグと地獄の境界線を歩く主従生活、ようやく(?)スタートです。


もし「続きが気になる!」と思っていただけたら、

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(次回も真顔でボケて、真面目にツッコみます)

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