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前回までのスケルトンは?
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十五日目
火花が散り、石畳を焦がすような音が迷宮に響き渡る。
少女の剣と、黒く染まったスケルトン男の剣が幾度もぶつかり合った。
「……はぁ、はぁ……!」
少女の息は荒く、腕は痺れていた。
一方、スケルトン男は疲れを知らず、無慈悲に剣を振り下ろしてくる。
だが、その剣の軌跡にはどこか迷いがあった。
全力で斬り伏せるのではなく、彼女を試すように――彼自身の存在理由を確かめるように。
「俺は……骸だ。人ではない。
……ならば、何のために斬る? 何のために生きる?」
問いかけと同時に、骨の剣が振り下ろされた。
少女は咄嗟に受け止める。衝撃で足が痺れ、膝が砕けそうになる。
「私は……!」
少女は叫んだ。
「まだ理由なんて分からない! でも、死にたいなんて思わない……!
生きて、生きて……理由を探す! それが――私の答え!」
彼女の言葉に、スケルトン男の剣が止まった。
赤い眼窩の光が、揺らぐ。
「……生きて、理由を探す……」
彼は小さく呟いた。
その一瞬の隙を突き、少女の剣が彼の胸骨を貫いた。
乾いた音と共に、骨が砕ける。
「……っ!」
スケルトン男は膝をついた。
彼の身体を覆っていた黒い瘴気が、煙のように散っていく。
「そうか……それで、いい」
最後にそう言って、スケルトン男は静かに崩れた。
砂となり、床に溶けていく。
少女は剣を取り落とし、床に座り込んだ。
彼の残響が胸に残っていた。
「生きて、理由を探す」――それは彼が最期に受け入れた答えでもあった。
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十六日目
夜。
少女は焚き火の前に座り、剣を磨いていた。
火の粉が舞い、静かな音が響く。
彼が消えてから一日。
まだ胸の中の空白は埋まらない。
だが、不思議と涙は出なかった。
「……ありがとう」
少女は小さく呟いた。
その言葉は、亡きスケルトン男へ向けたものだった。
彼は確かに骸骨で、魔物だった。
けれど最後まで“人”であろうとした。
そして、彼の問いかけが、少女の心に「生きる意味」を刻みつけた。
焚き火の奥で、かすかな幻影が見えた気がした。
骨の姿の男が、赤い光ではなく、穏やかな青い光を宿して立っていた。
彼は何も言わず、ただ微笑んだように見えた。
少女は目を閉じた。
そして再び歩き出すことを決意した。
「私は、生きる。あなたが託した答えを――探すために」
十六日目の夜は、静かに更けていった。
迷宮の深奥で、まだ数多の亡者が待ち受けているだろう。
だが少女の心には、もう恐怖だけではなく、確かな灯がともっていた。
次回も楽しみに