醒覚
飲込まれる刹那、僕は数日間もがき、抵抗、反発を続けた。 世界が閉じていく感覚、そしてプラスがマイナスへと反転していく感覚。恐怖、孤独、混沌、憂鬱、それらが脳内を駆け巡りシナプスを刺激、やがて麻痺状態にさせ最後に支配していく感覚を覚えた。
抵抗、反発をすればするほどにこの身が切り裂かれ、心は薔薇の棘に締め付けられた様に強烈な痛みが走る。 抵抗していたが、、、触れた。触れるしかなかった。結局僕は恐怖、孤独、混沌、憂鬱を一つ一つ触れてみることで内側にある真実を空間が引き出してくれたのかもしれない。
触れた後には水辺の波紋が広がるかの如く僕を暖かく包み込んでくれた。 空間が僕を完全に飲み込んだのだ。
凍てついた心を共感し理解してくれたこの空間。 そして、何時しか空間が夢を見はじめ、僕はその中で空間の夢を見ることにより互いを認識し確認することができた。 空間の淀みには夢と現実が入り乱れ、まるでシャボン玉の様に浮かんでは消え、消えては浮かんだり。 このまま億劫に身を委ね、連続した生と死を断片的な時間列を空間に記憶すれば、戻る事の出来ない懐古に、繰り返し触れることが可能になる。
その代わりに僕は未来を夢見ることが出来なくなった。 輝いていた過去を見ることしか今はもう出来ない。 全てにおいて夢中になれたあの頃を、この空間でもう一度触れてみよう。 デジタルな数字が脳の中枢で激しく回転し始め、交差し、それにより昔の懐かしい場面が格納された部屋の暗証番号を割り出す。
最後にこの空間は取り出された場面を映すスクリーンとなる。過去の真実。