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慨世
目に映る現実、それは虚構であり全て偽りで飾られている。 人は目に見えぬ真実こそ恐怖を感じる生き物なのだ。 人は真実を曲げて生きている。 僕には真実なんて必要としていないし曲げる事もない。 強いて言うのであれば、孤独こそ僕の真実だろう。
二十歳以来、自分自身を見失っていた僕は、毎日、毎日心を磨り減らしていた。 喜びを感じる事もなく怒りを覚える事もなく、ただこの空間の時間を運んでいるだけで、出来ることならもう運びたくは無いと思った。 なぜなら、僕の時計も二秒にまだ達していない。 鼓動が停止した瞬間が二秒を刻むのだと。
この空間、昔はとても嫌悪感と恐怖感があった。 しかし、今は比べ物にならないくらい居心地が良く、無音が響き渡るこの部屋は、恐怖と言う感覚を麻痺させてくれる。 純粋で、この社会や世間、人間関係を知らなかったあの頃の僕には残酷過ぎた空間。得体の知れぬ漆黒の渦巻きに飲込まれそうで怖かったし嫌いだった。 それでもこの空間は、二十歳を過ぎた僕を反芻しながらゆっくりと飲込んでいった。