回天
家にあるこの時計、決して進むことは無い。
十二時に達することが出来ない様だ。 僕が生まれる以前よりずっと
秒針は鼓動一つならしていないらしい。 あと二秒だけ、、、
そう、あと二秒だけ、、、
あと二秒鼓動を刻んでいれば十二時を知らせる歓喜の歌を流せるはずだった。
この停止した時計と僕の人生とどこに共通点があるのか?
自分でも分からないが書いていくことにする。
書くことによって自分を保っていられる唯一の術だからである。
幾度となく気が触れそうになっては発狂、暴言、最後には放心状態の繰り返しだった。
母はそれでも、僕に愛情があったのか見捨てないで見守ってくれていたが、僕は邪険にしていた。
何故だろう。何もかも亡失出来れば良いのに、、、
親父は外で女をつくり、母と僕に散々暴力を重ねたすえにこの家を飛び出し、離婚はしたものの
母と僕にギャンブルで失敗した多額の借金をプレゼントしてくれた。
それは、今から十年前の暑い真夏の夜の出来事。
記憶が確かならば十年前の夏以来、僕は毎日のように二、三ヶ月は暴れていた。
部屋の床には粉々になった窓ガラスの破片、破られたままの本の切れ端、Tシャツ
壁には半狂乱になりながら開けた無数の穴、とにかく部屋にある全ての物に抑えられない衝動をぶつけていた。唯一、時計には何もしなかった。壊れていたから、、、
その時計を見た日から僕は静かになり、光放っていた全てが暗転し始めた。