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乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったが努力してみんなの信頼を勝ち取ったら国の救世主になっていた件

作者: こうと

 私はふかふかのベッドで目を覚ました。

 あれ?私のベッドってこんなふかふかだったっけ?

 目を開けてみると……おかしい。

 ここ、私の部屋じゃない。


 豪華なベッドにふかふかの枕、そして……え、天蓋付きベッド!? え、夢? いや、違う。

 リアルすぎる。

 ほっぺをつねって確認したが痛い。現実らしい。


 私は慌ててベッドから飛び起きて、鏡を見た瞬間、私は全身の血の気が引いた。

 そこに映っているのは、どこか見覚えのある10歳くらいの金髪の少女がうつっていた。

 なにか見覚えがあるような……。

 あ……。私は思い出した。


 私の見た目はらそう、私のやっていた乙女ゲームのあの「悪役令嬢」のリリアーナ・フォン・アルメリアそのものだった。


 えぇ、何これ、こんなことってあるの!?


 何で私がよりによってこのキャラに転生しちゃったのよ?

 ゲームの中ではリリアーナはいつも悲惨な結末しか迎えないじゃない。

 破滅エンドか、牢獄エンドか、流刑エンド。

 ああ、全部最悪! やめてぇ!


 ……でも、ただ泣き叫んでても始まらない。

 どうせなら可愛いヒロイン、クラリスに生まれ変わりたかった……。まぁリリアーナも顔はめちゃ可愛いけど。


 なってしまったものはなってしまったのだ。うん、ここは冷静に。落ち着け、私。深呼吸……。そうだ、まずは状況確認。


 このまま放っておくと、リリアーナはヒロインの邪魔をして最終的に破滅する運命だってことは分かってる。

 でも、ゲームと同じ道をたどる必要はないよね? 私、リリアーナじゃないんだから。変えられる! きっと変えられる!


 ──よし、決めた!

 私は破滅なんて迎えない。リリアーナとして、しっかり最後まで生き抜いてみせる!

 だって、誰だって破滅なんて嫌でしょ?


 まずは、力をつけなきゃ。

 お金、地位、そして人脈。うーん、まるで企業戦略みたいだけど、悪役のくせに悪いことはしたくない。

 だからこそ、地道に努力して信頼を勝ち取るんだ!

 とりあえず、今日から猛勉強スタートね。王族や貴族に負けないくらい、賢く、偉くなってやる!




 ******




 さて、転生したのが分かってから、私はすぐに行動を開始した。

 未来の破滅を回避するために何が必要か、考えに考えた結果、私が出した答えは──「努力」である。


 ……いや、本当は私だって楽したいよ? 貴族のお嬢様としてのんびり優雅に暮らしたい。

 けど、そんなことしてたら絶対に破滅する。

 だからこそ、今のうちに力をつけておかなきゃ。そうと決まれば、勉強だ! 努力だ! 地道に行こう、私!


 まずは基本的な教養を身につけることにした。


 リリアーナは悪役令嬢として生まれながら、意外と頭が良かったらしい。なんか元の世界の私より物覚えが早い。

 ここを武器にしない手はない。

 そこで、朝から晩まで勉強漬けの日々がスタート。いやー、さすがに貴族の勉強は難しい。

 歴史、地理、経済、さらに礼儀作法。特にあの、食事中にフォークとナイフをどうやって持てばいいか分からなくなるやつ! しかも、ナプキンってそんなに重要!? っていう小さな疑問が次々と出てくる。

 でも、こんなとこでつまずいてはいられない。


 周囲の大人たちは、最初こそ「リリアーナお嬢様が熱心に勉強されているなんて!」と驚いていたけど、次第にその努力に感心し始めた。

 少しずつ私への評価も上がってきたような気がする。

 まぁ、まだ幼いから「なんてけなげな子なんだ」と思われてるだけかもしれないけど、それでも悪役イメージを少しでも払拭できるなら、それでよし!


 そして、次に目をつけたのが「騎士団」。

 この国の力の象徴ともいえる存在だ。

 どうやら、将来の破滅ルートにはこの騎士団も絡んでいるらしい。だから、今のうちに仲良くしておいたほうがいいよね?

 子供のうちから「お嬢様はお世話になった騎士団の皆さんに感謝しております」って顔していれば、いつか役に立つかもしれないし。


 そう思って、ある日、私は騎士団の訓練場に足を運んでみた。

 そこで見たのは──ガタイの良い大人たちが、汗だくで剣を振り回している姿。正直ちょっと引いたけど、ここは私の将来のため。我慢、我慢。


「お嬢様、こんな場所に何を──」


「ちょっと見学させてほしいの。いつもお世話になってるから、どういう訓練をしてるのか興味があって」


 そう言うと、騎士たちは戸惑いつつも、結局私を受け入れてくれた。

 訓練をじっくり見ていると、戦い方だけでなく、戦術や戦略の基本も学べることに気づいた。

 何気ない剣の振り方にも意味があるし、隊列の組み方だって計算されている。これは、思ってた以上に面白いかも!


 こうして、私は毎日のように訓練を見学し、時には若い騎士たちと話をするようになった。

 まだ子供だから「お嬢様、危険ですから近づかないでください」と言われることもあったけど、それでも少しずつ信頼を築けてる感覚があった。

 特に、若手の騎士たちは私の真剣な姿に感銘を受けたのか、何かと助けてくれるようになった。

 中には「お嬢様のためなら命を捧げます!」とまで言ってくれる人も現れた。す、凄いな。……でもいい感じ!


 次に私が取り組んだのは、商会との関係づくりだ。リリアーナ家は貴族でありながら、商業にも力を入れている一族。

 ならば、ここも利用しない手はない。そこで、父の商談にこっそりついていって、商会の人たちとも顔をつなぐことにした。


「お嬢様も一緒にいらっしゃるとは驚きですな」


「はい、お勉強のために。将来、家を継ぐときに困らないようにしておきたくて」


 実際にはそんなこと考えてないけど、将来の破滅を防ぐために勉強してるって言ったら変な目で見られそうだから、そういうことにしておく。


 商会の人たちは、私の真面目な態度に驚いたようだったけど、次第に「このお嬢様、なかなかやるな」と評価してくれるようになった。

 商人たちと仲良くしておけば、いざという時に情報も手に入るし、金銭面でのサポートも期待できる。

 やはりお金と情報は、この世界でも重要だ。


 こうして、私は騎士団や商会、さらには貴族社会で少しずつ信頼を積み上げていった。

 もちろん、一朝一夕でできるものではないけれど、地道な努力が少しずつ実を結び始めた。


 ──それにしても、私って案外やればできるじゃん! 昔のリリアーナとは一味違う、破滅しないリリアーナを目指して、これからも頑張るぞ!




 *******




 私はそれから努力を重ねて騎士団や商会、さらには貴族たちの信頼を少しずつ得ていた。

 そして私は15になった。この世界ではもう成人だ。

 そんなある日、ついに「彼女」との運命の瞬間が訪れた。


 そう、正ヒロインだ。彼女の名前はクラリス。あの乙女ゲームで、プレイヤーが操作するはずの天使のように美しいお姫様。

 クラリスは、王子様や貴族たちから愛され、誰からも好かれる存在……のはずだった。


 私の記憶が正しければ、ゲームのストーリーでは、クラリスが王子や他のキャラクターたちから引く手あまたの人気を集め、その陰でリリアーナである私は嫉妬に狂い、彼女を陰謀に巻き込んで破滅へと導く――そんな流れだった。


 でも、実際のところどうかというと……あれ? なんだか思ってたのと違う?


「はじめまして、クラリス様。私はリリアーナ・フォン・アルメリアです」


 ドキドキしながら挨拶をしてみたものの、彼女はまるで私を見ていない。

 うつむいたまま、小さな声で挨拶を返してきた。その様子を見て、私は混乱した。


 ゲームではクラリスはもっと自信満々で、輝いているはずじゃなかったっけ? 私を圧倒するような存在感を持っていて、すべての人々を惹きつける──そんなカリスマ性があったはずだ。

 でも、今目の前にいるクラリスは、なんだかしょんぼりしていて、まるで誰にも頼られていないように見えた。


 うん? 私、何か間違ったタイミングでこの物語に入ってきちゃったのかしら? 正ヒロインがこんなに元気がないなんて、予定外だよ!


「クラリス様、大丈夫ですか? 何かお困りのことがあれば、私に相談してくださいね」


 つい、そんな言葉が口をついて出た。

 悪役令嬢がヒロインを心配するなんてどうなんだとか思うし、これがゲームだったら、絶対に敵対するべき相手なんだろうけど、目の前のクラリスを見ていると、とてもじゃないけどそんな気持ちになれない。

 むしろ、彼女もまたこの物語の犠牲者なのかもしれない、なんて思ってしまった。ごめんよ、クラリス。

 なんだか申し訳ない気持ちになる。


 私の言葉に、クラリスは驚いたように顔を上げた。その瞳には、一瞬の驚きと──それから、少しの涙が浮かんでいた。……涙!?


「本当ですか……リリアーナ様が……?」


 クラリスの声は震えていた。まさか、私が悪役令嬢として彼女を脅かす存在でなく、助けようとしているなんて思いもしなかったのだろう。

 でも、私は確信していた。彼女を敵に回しても、何も得るものはない。

 それどころか、無駄な破滅エンドへと直行するだけだ。

 それならヒロインとも仲良くなっちゃった方が絶対にいい。


「もちろんです。私はあなたを脅かすつもりはありません。むしろ、共に歩むことができればと思っています」


 そう言ったとき、クラリスは再び驚いた顔をしていたが、その顔が次第に柔らかくなり、少しだけ微笑んだ。

 おお、これはかなりの好感触! やっぱり、敵を作るより味方を増やすほうがいいに決まってる。

 私は、内心ガッツポーズを決めていた。


 ──この瞬間、私とクラリスの関係は大きく変わったのだと思う。

 彼女をライバル視する必要はなく、むしろ彼女と協力しながら、新たな未来を切り開けるかもしれない。


 ただ、これで問題解決……とはならないのが、この世界の厄介なところ。

 まだ、私たちには知らない陰謀や困難が待ち構えているのだろう。そして、それに立ち向かうのはきっと私、リリアーナだ。


 でも、今はそんなことを忘れて、この少しばかりの「勝利」を噛みしめたい。

 だって、私はついに「悪役令嬢」の運命を少しだけ変えたのだから!


 これから何が待ち受けていようとも、私はクラリスと一緒に乗り越えていける。そう、思えた瞬間だった。




 *****




 クラリスとの関係が少し和やかになってから、数週間が経った。私は相変わらず、王宮や貴族たちの間でしっかりと根回しを続けている。

 騎士団の訓練場にも顔を出して、商会とも順調に良好な関係を築いていた。順調、順調……のはずだった。


 しかし、ある日、ふとした瞬間に違和感を覚えた。


 それは、商会の代表が訪ねてきたときのことだ。普段はいつもにこやかで、貴族とも気さくに会話してくれる商人たちが、妙に緊張していた。

 それも、私を見ているときだけ。


「リリアーナお嬢様、最近お忙しいようで……お体にはお気をつけください」


 何気ない挨拶だったのだが、その目は何かを訴えているように見えた。

 しかも、そのあと商人がぽろりと口をすべらせた。


「最近、王国の中で妙な動きがあるとの噂がありまして……お嬢様もお気をつけください」


 妙な動き? なんだか気になる。その場では商人はそれ以上話そうとしなかったが、私はすぐに彼が言わんとしていたことを察した。

 どうやら、王国の裏で何かしらの陰謀が進行しているらしい。それも、かなり大きな規模のもの。


 商会の話だけではなく、騎士団の訓練場でも微妙な雰囲気を感じ始めた。

 以前は気さくに話してくれていた若い騎士たちが、私に対して何かを隠しているような、妙にピリピリとした空気を感じる。


「リリアーナお嬢様、今日は訓練を見学されないほうがよろしいかと……」


 いつもなら「どうぞお嬢様、ご覧ください」と歓迎してくれるのに、その日は誰もが私を遠ざけようとしていた。ますます怪しい。

 このままでは何も分からない。私は、裏で何か大きなことが動いていることを確信した。


 そこで、思い切って情報を集めることにした。

 幸い、これまでの努力で商会や騎士団、さらには貴族たちから信頼を得ている。

 そこで、あちこちに気を利かせ、少しずつ聞き出した情報をまとめていった。どうやら、この陰謀にはいくつかの大きな貴族家が関わっているらしい。

 そして、最悪のことに、王国転覆を狙った反逆計画が進行中とのことだった。


 さらに驚いたのは、その背後に私自身の破滅を企てる勢力も含まれていることだった。

 これまで築いてきた信頼や地位を、まるで根こそぎ奪い去ろうとする動きが感じられる。

 そう、私がこの王国の悪役令嬢として転生したことを知っているかのように。私を破滅に追いやる運命は変わらないんだぞ、と言わんばかりに。


 どうやら、私の立場が成長していくのと並行して、敵もまた私をどうにかしようと目論んでいたらしい。

 これって……まさに「破滅フラグ」ってやつじゃない!? そんなの、絶対に嫌だ!


「こんなところで破滅してたまるか!」


 私は決意を固めた。

 この陰謀を明るみに出し、阻止しなければならない。そして、王国を守り抜くために、持てる力を全て使って戦うしかない。


 その夜、私は騎士団の若い騎士たちに呼びかけ、信頼する商会の代表たちにも協力を要請した。

 もちろん、すべてを話すわけにはいかないが、今自分が掴んでいる限りの情報は伝え、協力を取り付けた。


「お嬢様、我々もお力を貸します。どうか、この王国をお守りください」


 騎士団の中でも信頼を寄せる若い騎士、ルーカスが力強くそう言った。

 その言葉に、私は胸を打たれた。ついに、ここまで来たんだ。私が努力してきた結果が、今こうして実を結びつつある。


 だが、安心している暇はない。この陰謀を食い止めなければ、王国全体が危機に陥る。そして、それはクラリスや私、そして私たちが築いてきたすべてのものを奪い去ることになる。


「やるしかないわね」


 私は静かに、でも確かな決意を胸に、行動を開始した。




 ******





「やるしかない」と決意を固めてから数日、私は騎士団や商会とともに、緻密な戦略を練り上げた。

 陰謀を企む敵は強大だが、私たちにはこれまで培ってきた信頼と絆がある。ここで負けるわけにはいかない。


 まずは情報収集。商会のネットワークを使って、陰謀の中心にいる人物たちの動きを探る。

 すると、彼らが王都で秘密裏に集会を開いていることが判明した。彼らは、王国転覆の準備を着々と進めていたのだ。


「やっぱり思った通りね。奴らが動き出している……!」


 私はすぐに騎士団に知らせ、彼らに警戒を強めてもらうと同時に、集会を開いている場所を突き止めるための手筈を整えた。

 王都の近くにある古びた館が、陰謀の拠点らしい。

 なんてわかりやすい場所! 怪しいオーラを出しすぎよ、敵さん。これもゲーム譲りなのだろうか。ゲームの世界であることが裏目に出てるな。まぁこっちとしては分かりやすくて何よりた。


「リリアーナお嬢様、私たちが先に館に潜入し、情報を抑えます」


 ルーカスをはじめとした若い騎士たちは、自信満々にそう言ってくれた。

 私は彼らに一任し、自分は後方支援に回ることにした。だって、現場に乗り込むのは危険すぎるし、私が捕まったら本末転倒だもの。


「私がここにいるのも、頭脳作戦の一環よ。現場は任せるわ」


 そう自分に言い聞かせながらも、内心はドキドキだった。まるでスパイ映画のように、騎士たちが敵の館に忍び込んでいく様子を思い浮かべると、興奮と不安が入り混じって落ち着かない。


 そして待つこと数時間後、ついに知らせが届いた。

 ルーカスたちが見事に館へ潜入し、敵の陰謀の証拠を手に入れたという。

 やった! これは大きな一歩だ! すぐにその証拠を王宮に持ち込み、陰謀者たちの逮捕に向けて動き出すことができる。


 しかし──。そう舞い上がってたのも束の間。


「お嬢様、事態が急変しました。陰謀者たちがこちらの動きに気づいたようです!」


 ルーカスからの報告は思ったよりも早く、そして予想外の内容だった。

 敵は私たちが証拠を掴んだことに感づき、急速に計画を進め始めたというのだ。しまった、こちらの手の内が読まれたか!


「すぐに対策を練らないと……!」


 私は焦る気持ちを抑えつつ、騎士団の上層部や商会の協力者たちと緊急会議を開いた。

 これまでの情報を基に、私たちは反撃の準備を整えた。

 敵が集会を開いているという情報を逆手に取り、一網打尽にするための作戦を練った。


 そして、決戦の日がやってきた。王宮内で秘密裏に動く騎士団、商会の協力者たち、そして私──すべてが計画通りに進んでいるはずだった。

 でもやはり不安は止まらない。私ここで破滅してしまうのだろうか。それは嫌だ……!


「いける……いけるはず……!」


 そう自分に言い聞かせながら、私は王宮の一角に用意された安全な場所で事態を見守っていた。

 外では、騎士たちが敵の動きを封じ込め、商会はその支援をしている。

 ルーカスからも次々と報告が入る。「敵はほぼ制圧しました」との知らせが届いたとき、私は思わずガッツポーズを決めていた。


「やった……ついに勝利したのね!」


 破滅フラグを回避できた、いや、破滅フラグを破壊した瞬間だった。

 騎士団の勇気と商会の知恵、そして私の……頭脳(自己評価)のおかげで、王国の危機は一時的に回避された。

 これで、少なくとも今回の陰謀は阻止できたはずだ。


 しかし、勝利の余韻に浸る間もなく、新たな情報が舞い込んだ。それは、これまでの陰謀が、ただの「序章」に過ぎなかったというもの。

 裏にはさらに大きな敵が潜んでおり、彼らの目的は、今回の陰謀者たちを捨て駒にして、自分たちの計画を進めることだったのだ。


「まだ終わりじゃないのね……」


 一時の平穏は訪れたものの私はそう呟きながら、再び気を引き締めた。

 この国にはまだ、私が知らない危険がたくさん潜んでいる。そして、それらすべてに立ち向かうのは、どうやら私の役目らしい。


 でも、これくらいでへこたれるわけにはいかない。

 私は悪役令嬢なんだから、どんな逆境でも乗り越えてみせる。そうでしょ?


 そして、私の目の前には、新たな試練が待ち構えている。





 ******




 陰謀を阻止したその日、王都は一見平穏を取り戻していた。

 騎士団は無事に敵を制圧し、商会の支援も完璧に機能した。そして私は──リリアーナ・フォン・アルメリアは、一時的ながらもこの国を救った「英雄」として認められつつあった。


 でも、内心では少し複雑な気持ちが渦巻いている。

 破滅エンドは回避できたとはいえ、これが本当に終わりなのかという疑念が拭えないのだ。


「……何かが、まだ残っている」


 私の中には、そんな不安がどうしても消えない。

 何か大きなものが、この国を包み込んでいるような感覚──そして、それは確実に私を狙っている。


 陰謀を阻止してからしばらく経ったある日、私は久しぶりにクラリスと会うことになった。

 彼女もまた、この国の混乱の中で苦しんでいたけれど、今は少し落ち着いた様子だ。


「リリアーナ様、陰謀を止めてくださって本当にありがとうございます。私、あなたがこんなに頼もしい方だなんて……」


 クラリスの言葉は素直で、少しはにかんだ笑顔を見せてくれた。

 その様子を見て、私も自然と微笑んでしまう。彼女と私の間にあった確執は、今ではすっかり消え去っていた。


「いいのよ、クラリス。私たちは同じ国に生きているんだから、協力して守るのは当然のことよ」


 そんな私の言葉に、クラリスは感激したように目を輝かせた。そして、その瞳の中には、私に対する信頼がはっきりと映っていた。


 ──私たちは、もう敵同士ではない。むしろ、今後は共に戦う仲間として、協力し合うべきなのだ。私はそう確信した。


 その夜、ふと一人になったとき、私はこれからのことを静かに考えていた。これまでの私の人生は、悪役令嬢という定めに翻弄されるものだったけれど、今では違う。自らの意志で道を切り開き、周囲の信頼を勝ち取ることができた。


 でも、それで終わりではない。この国には、まだまだ私たちが知らない「影」が潜んでいる。


「あの陰謀は、ほんの始まりに過ぎない」


 商会や騎士団から集めた情報を総合すると、今回の陰謀を仕掛けた人物たちは、ある大きな勢力の一部に過ぎないことが分かってきた。

 背後には、さらに巨大な組織が暗躍している――そして、その組織は王国全体を巻き込む新たな計画を進めているようだ。


「まだまだ、油断はできないわね……」


 私はベッドに座りながら、窓の外に広がる夜空を見上げた。

 どこかで、さらなる試練が私を待ち受けているのだろう。

 それは、私一人では到底立ち向かえないものかもしれない。


 でも、私は決して諦めない。私には、今や多くの仲間がいる。

 クラリスも、騎士団のルーカスも、商会の協力者たちも──そして、この国を守りたいと願うすべての人々が私を支えてくれるだろう。


「次に来る試練も、必ず乗り越えてみせる」


 自分にそう言い聞かせ、私は静かに目を閉じた。

 今夜はもう、少しだけ休んでもいいはずだ。だって、明日からまた新しい戦いが始まるのだから。


 ──そう、これは終わりじゃない。私の物語は、まだまだ続く。

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