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『魔殺者』ルーファス

 六大討滅者の一人『魔殺者(まさつしゃ)』ルーファス・アベル。

 

 魔殺者とは文字通り”魔族”の”暗殺者”の事だ。

 

 彼の存在が世間に認知されるようになったのは戦争が始まるよりも前のことだった。

 トラヴァス王国に対しクーデターを起こそうとして同盟を組んでいた三つの暗殺ギルドをたった一晩で壊滅。幹部十二名、その他既に手配書の出回っていた五十三名の構成員を暗殺、首領三名を捕縛した。

 それだけでは飽き足らず、当時牢屋の見張りをしていた兵士が交代で持ち場を数秒離れて戻ってくると、何とその首領三名が半殺しの状態で牢に入れられていたという。

 更にはその足元にバツが付けられた手配書の束が置かれており、アジトの場所が記された地図の隅には「手配書なんか作るだけ紙の無駄だ」と騎士団に対して嫌味とも取れるような事が書かれていたとか……いないとか。

 また、彼は報酬には興味がないのか、事件の後も名乗り出ることはなく、それがより一層騎士団や王族を混乱させた。

 その時はまだ騎士団の一部と王族のみにその存在を認識され、同時に危険視されていた彼だったが、魔王との戦争により『魔殺者』の二つ名を与えられたことで世間は彼の存在を知る事になる。

 

 まさかその時は、本人でさえ暗殺者という日陰者の名前が世に広まるとは思っていなかっただろう。

 その後、彼は六大討滅者として数多くの魔族を屠った。

 ある街を乗っ取りその街に住んでいた数万の人々を操っていた魔族を暗殺し、住民を魔の手から解放した。

 

 今でも彼はその街では"暗殺者"ではなく"英雄"として語り継がれている。






 ──ドガッ!!


「うぐぅ……っ!」


 木製のカウンターに激突した男は呻き声を上げそのまま動かなくなった。

 張り詰めた空気の中、暗い店の中にいる屈強な男達の視線は一点に集中する。

 店の中央に立つ細身の男。フードの奥にある銀色の眼光は酷く冷たい。

 ゆらり、と黒く長い蛇のような尾が不気味に揺れる。


「っ死ねぇ!」  

「──もう一度だけ質問する」

「ガァッ」


 周りを囲っていた男の一人が斧で斬りかかろうとしたが、一瞬の内に呻き声を上げ首元を抑えそのまま倒れる。

 僅かな明かりに照らされ、男の手にしたナイフから滴る赤い液体が瞬きの間に何が行われたかを周囲に知らしめた。


「此処が貴様ら【豪竜(ごうりゅう)逆鱗(げきりん)】の隠れ家の一つである事は知っている、本拠地は何処だ」

 


 ──沈黙。


 埃を被ったランプがチカチカと点滅する。

 誰も動くことができず呼吸さえも儘ならない。ほんの少しでも気を緩めて、瞬きでもしようものなら次の瞬間には倒れた二人の後を追うことになるだろう。

 

「……回答する気はないようだな」

 

 声に怒りはない。

 呆れも苛立ちも、自分から聞いておいてその答えにはさほど興味もないようだ。

 

「まぁ、構わない」

 

 フードの男は器用にナイフを手の中で回転させ逆手に持ち直すと、一言だけ告げる。


()()()()()に聞き出すとしよう」

「ひ、ひぃぃいい!!」

 

 これから起きる惨劇に恐れを成した一人が悲鳴を上げ、殆ど転がるようにして店の入り口へ駆け出す。

 扉は目の前にあるのに遥か遠くにあるようにも感じた。

 

 ゆらり。 

 

 フードの男がそれを追うように剣呑とも取れる動きで振り向いた時には、正面にいた三人は既に血を流し倒れていた。


(助かる! 間に合う、俺はこんな所で死なねぇ!)


 いの一番に逃げ出した男の手がドアノブに触る……より先に扉が開いた。



 ──バキャッ!



 と、いうより男を巻き込んで吹っ飛んだ。

 そしてそのまま部屋の中央、フードの男の足元に転がり気を失う。

 突然の出来事に全員が別の意味で動けなくなる中、殺伐とした空間に場違いな明るい声が突き抜けた。

 

「こんばんわ~お待たせしましたポッポ堂です。ご注文いただいたピザ、と……」

 

 ドアを蹴破ったであろう乱入者は、そのまま中に足を踏み入れると辺りを不思議そうに見渡す。


「な、なんだ、オメェ……」

 

 近くにいた一人が困惑し警戒しながら当然の質問をすれば、彼女は何故か上機嫌に応えた。


「パン屋のポッポ堂です、ご注文の品をお届けに来ました」

「は? 注文?」

「魚貝ピザとミートピザ、ドーナツとチュロスのパーティセットご注文ですよね?」

「雰囲気見てわかんねぇのか! 頼んでねぇよ!!」

「えっ……でも今日は親戚一同呼んで息子さんの誕生日を祝うんじゃ……」

「俺らが今から楽しくお誕生日会するように見えるか!? 頭おかしいのかテメェ!!」

「…………」


 盗賊と乱入者のやり取りを殺気を霧散させたルーファス・アベルは白けた目で見つめる。

 魔剣を手にしていたはずの彼女が、何故か今は両手にピザの入った箱とパーティーセットとやらの入っている袋を持っている。

 

(何をしているんだ……あいつは……)


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