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孤児院と農家のバイト

 レトロがパン屋の次に選んだ働き口は『農家の手伝い』であった。

 主に収穫から販売までの手伝いである。

 カーデナから更に東にある広い農村地帯では年々、若者が街へ働きに行ってしまうので過疎化が進んでいた。

 レトロが現在、世話になっている老夫婦にも娘が一人いたが結婚して今は街の方へ言ってしまっている。

 年に数度、孫と一緒に帰ってきてはくれるものの、毎年彼らが街へ戻るたびに寂しさが押し寄せてきた。笑顔で見送るが心の中では泣いていた。

 そんな折にやってきたのがレトロである。

 二人は最初、昔知り合ったパン屋の娘の知人の紹介できたと言うレトロが恐らく自分達の娘よりも若いであろう事、その背に黒い大剣を背負っていたことから警戒していたものの、いざ仕事を手伝わせるとその働きっぷりに老夫婦の考えは真逆のものへと変わった。

 果たしてこんなに若い娘に力仕事がこなせるのか、と言う不安は初日の一時間で消えてなくなった。

 止まる事なく動き回り野菜を収穫しては運び、黙って黙々と汗を流す。

 そしてまぁこれがよく食べる。

 その細い体のどこに入るのか不思議なほど、与えれば与えられるがままにするするとよく食べた。

 年寄りはたくさん食べさせたがるし、沢山食べるのを見るのが好きだ。

 一日目で、すっかりレトロは老夫婦に気に入られていた。


「……はぁ」


 そんな近況を聞いて、ため息とも、相槌とも取れる生返事をしたフローラは、隣に子供を膝に乗せで本を読んでいるレトロを見た。


「おうじさまは、いいました。わるいドラゴンめ、ひめをかえせ!」

「おぉ……」

「おうじさまは、けんをふりかざし、けんめいにたたかいます」

「これ最終どっち勝つの? 王子?」

「もー! いまよんでるからしずかにして!」

「はいはい」


 フローラは膝の上に座らせた子供に本を読んでもらっているレトロに、また出そうになったため息をなんとか飲み込んだ。

 そう何度も子供達の前でため息などついてはいられない。

 

「あの、レトロ……その、元気そうでよかったわ」


 まぁ、しかし、こうして旧友と無事に再開できたのは純粋に喜ばしい事だった。

 

「フローラも相変わらず聖女だね」

「……もう、やめてください。私はそんな大層なものじゃありませんよ」


 そう言ってフローラは肩を竦める。

 レトロは子供を膝から下ろして、他の子供達の元へ駆けていく背を見送りながら思い出したように言った。


「そういえばルーファスに会ったよ」


 ルーファスとラド、そして剛竜の逆鱗について話せば彼女の顔から次第に笑顔が消える。

 最後まで聞き終わった後で「そうですか」とフローラは重く口を開いた。


「戦争が終わっても、まだ子供が巻き込まれるなんて……」

「魔石についてはまだ何も分かってないんだって」

「……」

 

 悲痛に顔を歪ませるフローラ。

 自身も孤児だった彼女にとって、戦で子供が親を亡くすことほど辛く胸を痛めることはない。

 暫く黙り込んでいた彼女だったが、やがて悪い考えを振り切るように頭を振ると空を見上げて大きく伸びをした。


「あーあ、全く……『騎士王』様は何をしているのかしら」


「今度会ったらキツく言っておかないとね!」


 冗談めかして明るくそう言った彼女にレトロは少し笑って「そうだね」と頷いた。

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