『聖女』フローラ
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大勢の子供達に囲まれ手を引かれながら、彼女はやってきた。
「フローラ様、こっちこっち!」
「フローラ様」「『聖女』様」
『聖女』──治癒魔法に長けた彼女はそう呼ばれ多くの子供達に慕われていた。
彼女は自分を何処にでもいるありふれた修道女の一人、人々に手を差し伸べるだけしかできない者だと言うが、その風に靡く黄金の髪に人々の心を癒す微笑み。
そしてたおやかな仕草の一つ一つ、何処を切り取っても彼女は特別な者だった。
彼女は戦いが終わった後も、こうして一人の修道女として道ゆく人々を助け、祈りを捧げている。
その日も孤児院を訪れて子供達やその面倒を見ている同じ修道女達の様子を見にきたのだ。
「皆さん何か困ったことはないかしら? 怪我や病気の方は?」
「私達も、子供達もみんな元気に過ごしております。これもフローラ様のおかげですわ」
「いいえ、私だけではありません、皆様の祈りもきっと届いている筈です……それと、どうか私のことは”シスター”とお呼びください」
そう言って頭を下げるフローラに施設で一番年配の修道女アミットは少し躊躇うも、彼女を「シスター・フローラ」と呼んだ。
それから施設の近況などの話を済ませて、フローラは一度外に出た。
教会の外にある広場ではフローラが出てくるのを子供達が今か今かと待っており、彼女の姿を視界に捉えた途端ワッと歓声を上げて駆け寄ってくる。
「あらあら、みんな、フローラ様が困ってしまいますよ」
子供達の相手をしていた一人の修道女が慌てた様子で駆け寄るが、フローラは大丈夫だと伝えると視線を合わせるように屈んで子供達の頭を撫でた。
「フローラ様! 待ってたの!」
癖っ毛を二つに束ねた女の子が元気にそう言った。
「ふふっ、ありがとう」
「もうすぐね、お昼ご飯なんだよ!」
「わたしニンジン食べられるようになったの!」
「フローラ様も一緒に食べよう」
その声に側にいたアミットも是非と頷く。
「それでは……私にも何か手伝わせてください」
「フローラ様、いえ、シスター・フローラはどうか子供達の相手をしてあげてください」
「お腹を空かせておくのも仕事ですよ」アミットのこの発言に子供達ははしゃいで、早く早くと彼女の手を引いて急かした。少し困った顔で会釈する彼女をアミット達は笑顔で見送り、厨房へと向かう。
フローラは子供達と触れ合う際、鬼ごっこやかくれんぼといった普通の遊びに興じるだけでなく、本を読み聞かせフローラの専門とする草花の知識を含め、様々な話をするようにしていた。
孤児院は閉鎖的な一般的な家庭と比べ閉鎖的で知識を得る機会も多くはない。
なので色々な話から子供達の興味の幅を広げようとしていたのだ。
フローラは六大討滅者の話もしており、特に『騎士王』の話は男の子に大人気でよく彼の活躍の話をせがまれている。
そうして穏やかな時間を過ごしていると、花冠を作っていた子供の一人が「あっ!」と声を上げた。
「どうかしましたか?」
「野菜屋さんだよ、フローラお姉ちゃん」
作った花冠を別の子の頭に乗せてあげてからフローラは子供の視線の先を見た。
先ほどアミットとの話でこの孤児院の話を聞いた時にも出てきた。
近所にある農家が、孤児院に売れ残った野菜や育ちすぎた野菜を格安で、物によっては無償で提供してくれているそうだ。
入り口の門の前で麦わら帽子を被った農家らしい女性と修道女が話をしており、暫くすると修道女の案内で農家の女性が敷地内に足を踏み入れたのを見て、これは自分もお礼をせねばと腰を上げた。
そしてフローラは二人の後に続くようにして入ってきたリヤカーと、それを引く人物を視界に入れ
「ん゛んっ……!?」
盛大に咽せた。
しかしすぐに咳払いをして誤魔化した。
聖女ではないと自分では言いつつも、一応立ち振る舞いなどに気をつけているのだ。
(なぜ彼女がここに……?)
常に気を張っている彼女だが想定外の事が起きれば咽せもする。
野菜がを大量に乗せたリヤカーを涼しい顔で引いているのは忘れるはずもない、魔剣を手にしているはずの元同僚レトロだったのだから。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
聖女と黒雷の話。そんなに長くならない予定です。




