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アフターケア

 ルーファスと別れ、宿に着く頃にはすっかり日が上っていた。

 小鳥の囀りが心地よい朝だ。 

 幸い今日はパン屋のバイトは休みだったので、レトロはマクスウェルに昼過ぎに起こすよう頼んでベッドに横になる。

 自分が納得する答えを出すのが大切だ──ルーファスの言葉を改めて噛み砕き、よく噛んでから飲み込む。

 レトロの頭には一つの案が浮かんでいた。

 上手くいけば一石二鳥。二つの問題を一気に解決することができる。

 レトロは別れ際、小さく自分に手を振っていたラドの姿を瞼の裏に見ながら、深い眠りへ落ちていくのだった。

 





 それから数日後。

 午後の配達を終えて、店へ戻ってきたレトロは賄いのホットドッグを頬張っていた。

 今朝焼かれたパンに挟まれたシャキシャキのキャベツ、パリパリジューシーなウインナーのマリアージュ……更にケチャップとマスタードはセルフでかけ放題という高待遇。

 ご機嫌に一つ目を完食したレトロは二つ目に突入していた。


「美味しい……追いマスタードしよ」


 ささやかな幸せを文字通り噛み締めながら、レトロが瓶から山盛りのマスタードを掬い上げたまさにその時、入り口にいた店長が声をかけてきた。

 

「レトロちゃん、お友達が来てるみたいだよ」

「友達?」


 呼ばれては無視できない。仕方なくスプーンを再び瓶の中へ戻す。

 マスタードを追加するのを諦め、少し物足りないホットドックを頬張りながらレトロが入り口へ向かえば、明るい店内と香ばしい小麦の香りの似合わない男、ルーファスが立っていた。

 そして側には包帯の外れたラドの姿がある。

 この数日の間に良いことがあったのだろう、身形(みなり)は綺麗になって顔色も良くなっていた。

 通りで見かける子供と何ら遜色ない様子に、レトロは不思議と自分が満たされた心地になる。

 店主は折角お友達が来たから自分がいては邪魔だろうと気を遣って、挨拶もそこそこにレトロと入れ違いに店の奥へ戻っていく。

 

「いらっしゃい、ラドくん元気?」

「うん、元気だよ!」

「ここがお前のバイト先か」

「……うむ」


 アルバイト先に友人が遊びにくるという気恥ずかしさを人生で初めて体験したレトロは、何だか感じた事の無い、むず痒い気持ちになった。

 

「包帯、外れてよかったね」


 それを誤魔化すようにラドへ視線を向けて、自分の首を指さしながらそう言えば、彼は年相応の子供らしい笑顔で大きく頷いた。

 首の下に刻まれていた奴隷の首輪も綺麗に消えている。


「でもどうやって外したの?」

「回答する。俺も詳しくは知らないが、首領の所持していた杖を解析して外したようだ」

「やっぱ魔道具あったんだ」

「あぁ……だがラドに盗ませていた魔道具や魔石の類は見つかっていない」

「……へぇ」


 消えた魔石、明らかに盗賊が持つには複雑な術の施された杖、そして高い魔力の耐性を持つトータスリザードをも操る技術。

 あの後、騎士団でラドも取調べを受けたらしいが、ラドは盗んだ後の魔石の行方は知らないらしい。こうなっては首領のニーゼスから情報を引き出すしかないだろう。

 レトロは敢えてそれ以上詮索することなく、話題を変える事にした。


「そういえばラドくんは今どうしてるの? ルーファスの弟子?」

「えっと……」

「やめときなよ、昼夜逆転するから」

「……」

「……あれ?」


 レトロは冗談めかして言ったつもりだったが、店内を物珍しそうに見ていたラドの耳が伏せられ、暗い表情になってしまった。

 

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