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民道  作者: 無夜
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そしてラスボス



 すべての草案が出来上がり、***老教授がそれを確認した。これが七日目のことだ。

「仮採用。施行して後、標準時で三年後に再度、たたき直すということで承認します」

 早百合にしてみたら、それはないだろうと思った。

 法律はころころ変えるべきではない。混乱を招く。

 変えて良いなら、こんなに不眠不休でがんばらなかったのにっ。

「社長、貴方の世界に『悪法でも法は法』という言葉がありますが」

「ありますね」

 誰の言葉か、思い出せないが、早百合は頷いた。

 ***老教授は巨大モニターの向こう側で、くわっと目を見開き、大きな口を開けた。

 トークン族は総じて顎がでかい。

 だが、早百合は今まで食い殺されるといった心配をしたことがなかったが。

 今。

 モニター越しで、立体映像でもない、平面の画像なのに。

 飲み込まれるかと思って冷や汗を掻いた。

「悪法は悪法。変えねばならぬのです。法律家は法を守るためにはいない。守り、守らせるのは判事・検事・弁護士と治安維持隊の仕事です。我らは悪法は改善していくためにあるのですっ。それぞれ別の政治形態、別の思想、別の宗教で生きてきた者たちに、等しくあまねく法という光のロープで縛り上げるのですから、それがそぐわぬ正義であってはならない」

 と、叫び終えると、げほげほと噎せた。

「ちょっと、大丈夫ですか?」

「教授はお年を召してから気管支が弱くていらっしゃるので、議論はだから、参加されないのです」

「すぐに頭に血が上るから余計……」

 民道(仮)がこの二週間後に施行された。




 余談だが、最初に出来た性犯罪者専用刑、通称『豚刑』は早百合がだいぶ妥協して出来上がった刑のはずだった。

 被害者一人の場合、365回。二人なら730回。輪姦事件の場合、被害者人数×365+加害者人数×豚の数。

 共犯者は、実行していたら同。実行はしていなければ、実行犯の2/3の刑となった。


 施行した結果。

 孤立している村落の大半が、子供以外、何十年という刑を食らうことになって、機能不全に陥ったのだった。

 トークン族の『共犯』定義が厳しかったのである。

 その空気を作った者たちはすべて同罪である、という。

 ゆえに、女性の豚刑対象者も多く出た。

 義父に犯される自分の娘や息子を助けなかった母親、夫が年端もいかぬ養女を嬲り犯しているのを黙認した妻などは当然としても、他家で行われていることを知っていても、黙って眺めていただけの者たちにまで『共犯罪』が適応した。

 小さな村で、年端もいかない性奴隷が一人いるだけで、村の大人は全員手足がなくなり、その被害者が犯された年数と人数分だけ豚刑に処されるから、ほぼ全滅であった。

 

 共犯者の刑が実行犯の1/4にまで引き下げられるのは、豚が足りなくなり、消滅したに等しい集落・村が2万を超えたあたりでだった。

「すいません。倫理や道徳観を先進国日本育ちの私は、見誤りました」

 他にも微調整を繰り返して、老教授の見立て通り、本民道が施行されることになる。




 さて。

『民道』について、麾下随一の皮肉屋、毒の蜜に解説して貰うとしよう。


「民という字の成り立ちは、戦争で負けた奴隷民を意味します。反抗しないように、使役しやすいように目を抉られた人間をかたどっています。道とは、見ればわかるとおり、敵を殺してその首を辻に埋めたのをかたどっています。民道とは、奴隷民に敷く法として、まったくもってふさわしい名前であるかと」

 ジンがそこまでえげつない意味を、と主を窺えば、それで当たりだったらしい。

 彼女はその説明に同意するように笑んだのだから。


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