アルマムーン帝国皇帝
「皇帝陛下の、おなーりー!」
呼び出し係の掛け声とともに、アルマムーン帝国皇帝と、皇帝の教育係でもある大臣が入場してきた。
アルマムーン帝国皇帝
テオドール
アルマムーン帝国大臣
ビスマルク
ビスマルク「おお、日野所長ではありませんか。今回の一件は災難でしたな。」
日野「いやいや、ビスマルク殿こそ、相変わらずですな。」
ビスマルクと日野所長は竹馬の友だという。
学年も同じ、城に勤め始めたのも同じという。
日野「いやいや、そういう昔話はまた今度。それより、皇帝陛下から何か我々に伝えたいことがあるのでは?」
テオドール「さすがは日野所長、察しがいいな。
今日来たのは他でもない、愛野薬子に用があって来たのだ。」
日野「薬子くんに?」
普段は「うむっ」と「いかん」と「よきにはからえ」と「そちにまかせる」しか言わない皇帝テオドールが、この研究所占拠事件をきっかけにして、自分から研究所に出向いた。
テオドール「そなたが愛野薬子か。そなたの錬金の技術は、卓越していると聞く。
おお、よく見ると、実に美しい。やはり噂通り、いや噂以上の美貌だ。
薬草・ポーション・アイテム錬金研究所に、美しき女研究員あり、という噂は、かねがね聞いていた。
やはりな。愛野薬子。そなたがその、美しき女研究員ということか。」
錬金の技術うんぬんよりも、愛野薬子の美貌に一目惚れしたといった感じだ。
皇帝は現在独身。当然、皇族を継ぐ跡取りが欲しいと思ってはいる。
薬子「こちらこそ、皇帝陛下にお目にかかれて光栄ですわ。」
テオドール「私はそなたが気に入った!
よければ、私の求婚を受けないか?私の妻になるということは、すなわち、皇帝の妻になるということ、皇后になるということだ。
皇后になれば、そなたも一夜にして皇帝である私と同等の扱いになる。
それに、2人の間に子が生まれれば、そなたは次期皇帝の生母となるのだぞ。
ははは、これ以上の良い話はないぞ!」
本当は別の要件があったのだが、それをそっちのけで、愛野薬子を許嫁にしようとしているテオドールに、大臣のビスマルクがクギをさした。
ビスマルク「コホン!皇帝、もうそのくらいになさいませ。
さて、本題に入る。近々、我々はゴブリンの巣の攻略に入る。
そのために必要な、薬草、ポーションを、錬金を使って用意してもらいたい。
まずは、上薬草50個と、ハイポーション50個じゃ、足りなくなったら随時、追加注文をする、頼んだぞ。」
薬子「たやすい御用で。あっ、それから、先ほどの求婚の話は、ただちには結論は出せません。少し考えさせてください。」
テオドール「わかった。ゴブリンの巣の攻略が終わったら、また聞こう。
しかしな、これほどの美貌でありながら、いまだ独身とは、ワーカーホリックで、恋愛下手という噂も、聞いたことがあるのだが。」
日野「皇帝陛下!いかに皇帝陛下でも、今の発言は失礼ですぞ!」
テオドール「何?失礼だと、私はこの国では誰よりも偉い皇帝だ!」
薬子「では、この国で一番、上から目線なのは、誰でしょう。裸の王様、という例えもありますし。
裸の王様とは、部下に見捨てられ、誰にも相手にされなくなるという例えですよ。」
テオドール「なっ・・・!」
これで皇帝の怒りを買い、許嫁の話は無くなる、かと思ったが、
テオドール「ふはははは!気に入った!
その心意気、ますます気に入った!
その、気の強いところも、私好みだ!」
テオドールとビスマルクが帰った後、薬子に絵真が話しかけてきた。
絵真「すごいじゃないですか。皇帝テオドールの妻、皇后様よ。次期皇帝の生母になるかもしれないのよ。
それに、一生遊んで暮らせるほどの地位と財産が手に入るのよ!
これはもう、受けないわけにはいかないじゃない。」
日野「いやしかし、あの女たらしのテオドール陛下が、まさか薬子くんに一目惚れするなんてね。
私としては、実の娘を嫁に送り出すような気分だよ。
素性の知れなかった、薬子くんを引き取り、錬金のノウハウを教え込んだ私としてはね。」
薬子は、その日も黙々と仕事に励んだ。
たやすい御用、なんて軽々しく言ってしまったが、本当に上薬草50個と、ハイポーション50個なんて、作れるのか?