卒業式
「清周道人君」
「はい!」
僕が立ち上がると、体育館がざわつく。
ヒソヒソと話す声は、卒業生席からだけではなく、在校生席、さらには保護者席からも聞こえる。
地獄丸の暴露配信の影響は、それほどまでに大きなものなのである。
「人殺し」
僕が卒業証書の授与を受けるために、在校生席の前を横切った時、ハッキリとそう聞こえた。
全く気にならない、と言えば嘘になる。
しかし、ほとんど気にならない。
その言葉を放った在校生の顔を確認し、睨みつけてやろうという気も起きない。
僕は、胸を張り、進行方向だけをまっすぐ見ながら、ペースを変えずに歩き続ける。
――そうだ。僕は人殺しなのだ。
ハンバーガーショップでの紗杜子の話を聞いて、僕はそのことをハッキリと理解した。
采奈を殺したのは、僕なのである。
僕の誤った恋が、采奈を鴨川の水底に沈めたのである。
采奈を殺してしまったことに対しては、後悔しかない。それは、間違いなく、僕の人生における最大の失態なのだ。
真実を知った僕は、激しいショックを受けた。
昨日は文字どおり一日中寝込んでしまった。
今日の卒業式に出るかどうかもギリギリまで悩んだ。
「人殺し」と後ろ指さされることが怖かったからではない。
采奈を殺してしまった僕に、卒業式に出る資格があるかどうか疑問だったからだ。
それでも、最終的に僕が卒業式に出ることを決めたのは、天国の采奈は、おそらくそれを望むだろうと思ったからだ。
僕が采奈を殺してしまったのは、采奈の気持ちを正しく汲み取れなかったことの帰結なのである。
そして、僕は、采奈が死んだ後も、采奈の気持ちを裏切り続けていた。
僕が何よりも避けるべきことは、これ以上過ちを繰り返さないことなのだ。
そのために、僕は、卒業式に出たのである。
「卒業証書。清周道人。以下同文」
ステージの上で、校長先生から掛けられる言葉は、たったのこれだけである。
同時に渡された証書は、思っていたよりも薄っぺらい。
それでも、采奈はこの証書を受け取ることができなかったのだと思うと、とても重みを感じる。
やっぱり痒いな――
卒業証書を受け取り、自分の席に戻る道すがら、僕は、自分の右腕を気にする。
ブレザーとワイシャツに隠れて見えないが、右腕には、例の緑のミサンガが巻かれている。今朝、赤白チェックの紙袋から出したばかりのものである。
どうやら、使われている金属は、恐れていたとおり、僕の体質には合わないものらしい。
とはいえ、短時間の装着であれば、少し痒い程度で済みそうだ。
あの日も付けておくべきだったな、と僕は後悔する。
完全にたらればであるが、仮にあの日、僕が緑のミサンガを巻いていれば、采奈を殺してしまうこともなかったのだ。
もっといえば、そもそも、僕が、助平心でミサンガの購入に賛成しなければ、やはり采奈を殺してしまうことはなかった。
時間を巻き戻せればどれだけ良いだろうか――
席に着いた僕は、他の卒業生と同様にそう思い、他の卒業生と同様に涙を流した。
〆切に追い詰められて、夜遅くに、ぼんやりする頭で書いた話です。その割には、最後の一文はそれなりに気の利いたものが浮かんだかなとは思っています。
酒と、酔い覚ましの水以外には、基本的に紅茶しか飲みません。
コンビニで買う飲み物はいつも無糖紅茶であり、職場でもドリンクサーバーから無糖紅茶が出てくるので、それを飲んでいます。
実は、体質的にコーヒーが飲めません。
そこで仕方なく紅茶を飲んでいるという側面もありますが、やはり紅茶って、何かラグジュアリーな、特別な飲み物というイメージがあるんですよね。紅茶を飲んでいるだけで、気持ちがゆったりします。
数ヶ月前に出ていた午後の紅茶の無糖ミルクティーは好きでした。
今飲んでるのは、午後の紅茶の無糖アールグレイティーです。喫茶店で出される紅茶の味がして、リラックスできます。




