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【声劇台本】「止まらない」という呪い

作者: こっぴゃん

星森 エイジ(19)男性


志村 シズク(19)女性


ナレーション   不問


【配役】

星森エイジ(♂)/

志村シズク(♀)/

ナレーター(X)/


 ナレ:世界中の人と動物が突如、止まった。生き物の声は聞こえず、しかし風はそよぎ火はゆらめき日と月は交互に顔を見せる。


 エイジ:「今日は4月20日。世界が止まってから1年2ヶ月と13日が経ちました。僕の名前は星森エイジ。この音声を聞いてる人が居たら、ある場所へ向かってください。僕も動ける人を探しながら、そこを目指します。場所は――」


 ナレ:世界で唯一、動ける彼は他に動ける人間が居る時のために、至る場所で自身の声を毎日、残した。時にはラジカセに、時にはボイスレコーダーに。


 エイジ:もう夕方か…今日は何を食べようかな。


 ナレ:おもむろに立ち寄ったスーパーで物色をする。今や電気の通ってないここでは、食料と呼べるのは缶詰しかなかった。


 エイジ:ツナ缶…コーン…あ、焼鳥なんかある。食べてみよっかな。


 ナレ:一通り物色したらリュックに缶を詰めて店を出る。


 ナレ:しばらく歩き川沿いの道に差し掛かると、何かが破裂する音が遠くから聞こえた。


 エイジ:これ……もしかして!


 ナレ:急いで音のする方へ走ると、次第に川辺が様々な色に光っていることに気づいた。


 エイジ:はぁ…はぁ……やっぱり……


 ナレ:視線の向こうでは一人の少女が花火で遊んでいた。


 エイジ:あの!


 シズク:ん? あ…あぁ! 動いてる!!


 ナレ:少女は歓喜のあまり持っていた花火を投げてエイジのもとへ駆け寄り、両手を握った。


 シズク:アタシ志村シズク! 貴方どこに居たの? 他に動ける人は居る? それから…


 エイジ:うん! うん! 落ち着いて!


 シズク:あ、ごめん…嬉しくてつい……


◇ ◇


 ナレ:二人は川のほとりに腰を下ろし、夕焼けが沈む姿を見つめていた。


 シズク:そっか、アタシ以外、動いてる人に会ったことなかったんだ…


 エイジ:うん…本当に寂しかった……


 シズク:でももう大丈夫! アタシと会ったから、もうひとりぼっちじゃないよ!


 エイジ:……うん、そうだね!


 シズク:これからよろしく! エイジ!!


 エイジ:こちらこそよろしく、志村さん。


 シズク:シズクで良いよぉ!


 ナレ:固い握手を交わした二人は花火の後始末を始める。



 ナレ:それから二人はとあるホテルに来た。中ではフロントスタッフや利用客が各々の姿で静止している。


 エイジ:今日はここで泊まろうと思ってたんだ。


 シズク:え!? いいの!? 怒られない?


 エイジ:大丈夫だよ。そもそも怒れる人なんて居ないし。


 シズク:あ、そっか。


 ナレ:エイジはフロントから連番の部屋鍵をふたつ取って、片方をシズクに渡した。


 エイジ:これ、部屋鍵。


 シズク:え? 一緒に寝ないの?


 エイジ:え!? 一緒に寝るの!?


 シズク:うっそ〜。引っかかってるぅ〜。


 エイジ:うぐ…なんか悔しい……


 シズク:あははは! じゃ、失礼しま~す。


 ナレ:シズクは鍵に書かれた部屋へ走っていき、ヒラヒラと手を振って入っていった。それを見ていたエイジは肩でため息をついて隣の部屋に入る。

 部屋は細い廊下の先にベッドがひとつ。廊下の左側にはクローゼットが設けられており、右側にはトイレや手洗い場、シャワー室があった。

 エイジはリュックを床に投げると、ボフンとベッドに倒れて深呼吸をした。


 エイジ:はぁ……ふふふ、いいな、会話できるっていうのは。


 ナレ:天井を見つめボーっとしていると、段々とまぶたが重くなっていく。


◇◇


 シズク:…イジ、エイジ。エイジ!!


 ナレ:シズクに揺らされて目が覚めた。


 エイジ:ん、あぁ……おはよう……


 シズク:おはようじゃないよ! もう七時だよ!


 エイジ:うぅん…どうしたの、こんな朝早くから……


 シズク:早起きは三文の得! 朝から動けば良い事あるから!


 エイジ:う、うん…分かった……


 ナレ:言われるがままに起きたエイジは手洗い場で顔を洗い、軽く着替えた。するとシズクに手を引っ張られてホテルを後にした。



 エイジ:ここ…は…


 シズク:ショッピングセンター!


 エイジ:いや、それは分かるけど……なんでここに?


 シズク:いいから! 早くぅ!!


 ナレ:二人は建物の中へ入り散策を始める。


 シズク:これどう? このトップスと合わせたら可愛くない?


 エイジ:えぇ? この色は合わないんじゃないかな。だったらこっちのほうがいいと思うけどなぁ。



 シズク:あ、これなんていうんだっけ? これ使って映画とか見ようよ!


 エイジ:ポータブルDVDデッキ? まぁいいけど…それより電池とか充電して使えるものとか集めようよ。


 シズク:あ、ねえねえ! カメラがあるよ! これで何か撮ろうよ!


 エイジ:何かって例えば?


 シズク:んー、アタシとか!


 エイジ:あー…はい。


 シズク:ちょっと何その反応!



 エイジ:あ、これどう? 僕らが子供の頃に流行った映画。


 シズク:うーん、ホラーはあんまり…あ、ねえねえ、これは?


 エイジ:えー…アニメ映画か……


 シズク:これ、名作って言われてるけど何だかんだ見たことなかったんだよね。


 エイジ:そうなんだ、じゃあそれにしよう。



 シズク:わぁ…ねぇ見てエイジ! この指輪かわいいよ!


 エイジ:へぇ、貰っていけば?


 シズク:うん! …あ、サイズ合わないや。


 エイジ:本当だ、ブカブカだね。


 シズク:……ねぇエイジ、手、貸して。


 エイジ:ん? うん。


 シズク:…はい!


 エイジ:これって…


 シズク:えへへ、お揃い!


 エイジ:こっちのもブカブカだ…


 シズク:……結婚指輪みたい…


 エイジ:え? 何か言った?


 シズク:ううん! なんでも! ほら、ホテル帰って映画、見よ!


 エイジ:そうだね。


 ナレ:茜色の空が広がる下、二人は大きい袋にパンパンに詰めた菓子類を持ち、レンタルショップで見繕った映画と電化製品店で見つけたカメラとポータブルDVDデッキを抱えてホテルに向かった。

 今朝、エイジが寝ていた部屋に二人で入ると、ベッドの上で菓子を広げて鑑賞を始めた。


 ナレ:それから数時間後、外はすっかり暗くなっていた。


 エイジ:いやぁ良かった。名作と呼ばれるだけはあるね。


 シズク:うん。アタシ三回も涙、出ちゃった。


 エイジ:え、あれで泣くのは流石に涙腺が脆すぎるでしょ。


 シズク:いいの! 感受性豊かなの!!


 エイジ:あはは! ごめんごめん。


 シズク:はぁ…お腹、空いたね。


 エイジ:うん。コンビニでも行ってみる?


 シズク:そうしよ!


 ナレ:二人はホテルから歩いて数分のところにあるコンビニへ行く。


 エイジ:んー、やっぱり炭酸系は無理かな。ぎりぎりジュースはいけそう。


 シズク:これ、袋麺は食べられるよね?


 エイジ:メーカーにもよると思うけど、だいたいは食べられるはず。


 シズク:おっけ〜。


 エイジ:…よし、じゃあ帰ろっか。


 シズク:うん。 …あ。


 エイジ:ん? どうしたの?


 シズク:あいや、タバコ……


 エイジ:タバコ? あぁ、さっきの映画でも吸ってるシーンあったね。それがどうかしたの?


 シズク:…ねぇ、吸ってみない?


 エイジ:え? 吸える歳なの?


 シズク:えっと……もうすぐで二十歳!


 エイジ:じゃあダメだよ。


 シズク:えー、でも吸っても捕まらないよ?


 エイジ:そりゃあそうだけど……


 シズク:エイジは吸えるの?


 エイジ:吸ったことないよ。僕も十九だから。


 シズク:じゃ、一緒に吸っちゃお! はい共犯〜!


 エイジ:えぇ〜?



 ナレ:二人は川辺に行き、ショッピングセンターから持ってきたデジカメをセット。撮影を開始して、水を汲んで焚き火を付けて湯を沸かし始めた。

 待つ間の二人は寝転び、夜空を見上げていた。


 シズク:タバコってどう吸うの?


 エイジ:えっと…父さんは火を点けて深呼吸するみたいに吸ってたかな。


 シズク:そうなんだ…じゃあ……スゥ…ゲホッゲホッ……


 エイジ:うわ、大丈夫?


 シズク:うぅ…もういい……


 エイジ:あははは……


 シズク:むぅ…エイジも! 吸って!!


 エイジ:はいはい……スゥ…ゴホッゴホッ……うげぇ〜……


 シズク:あははははは! むせてる!!


 エイジ:な、なんだよもう……


 ナレ:二人はひとしきり笑うと火のついたタバコを川へ投げ捨てた。


 エイジ:はーあ、不味かった…


 シズク:大人になったら自然とタバコ吸うのかなって思ったけど、二度と吸わない……


 エイジ:本当にね…


 シズク:……でも、なんか良かった。


 エイジ:なんで?


 シズク:誰も動かなくなってから、ずっと一人で居て……寂しくて、辛くて…でもエイジと出会えて楽しい時間が過ごせて……ちょっと大人を先取りできてさ。


 エイジ:……なんか、恋人みたいなことしたね。


 シズク:あ、なんならホラ、指輪!


 エイジ:あー、そうだね。


 シズク:あーあ、これから先どうなるんだろう……


 エイジ:さあね…


 シズク:どうする? 結婚とかしとく?


 エイジ:ば、バカ言うなよ!!


 シズク:あははは! ほんとエイジって変なところでウブだよねぇ……


エイジ:……ウブで悪かったですね…


◇◇


 ナレ:話している内に眠くなった二人はいつの間にか眠ってしまい、エイジが次に目を覚ますのは翌日の昼だった……



 エイジ:ん、んん……ふぁ〜、よく寝た……


 ナレ:辺りを見渡すがシズクの姿がどこにもない。気になったエイジはホテルへ戻った。しかしどこを探しても彼女は見当たらない。ならばショッピングセンターへと足を運ぶ。


 エイジ:どこにもいない……なんなんだ?


 ナレ:キョロキョロと辺りを見回すと、見慣れた後ろ姿を見つけた。


 エイジ:居た…全く何してるんだよ……


 ナレ:声を掛けるも反応しないシズク。不思議に思ったエイジはおもむろに手を伸ばした。


 エイジ:シズク? …シズク! う、動かない……なんで、なんでだよ!!


 ナレ:必死に声を掛けるもピクリとも動かないシズク。次第に涙が溢れ、視界がままならなくなってくる。


 エイジ:シズク……なんで……


 ナレ:今まで無かった感情がエイジを襲う。


 エイジ:どうして…やっと、やっと見つけたのに……なんで僕だけが動けるんだ……どうせなら、僕も一緒になりたかった……


 ナレ:涙が止まるとエイジはひとつの疑問を抱いた。

 

 エイジ:………なんで、シズクはここに…


 ナレ:シズクが居たのはウェディングドレスが飾られているウインドウの前だった。彼女の瞳はどこか悲しげで、しかし幸せそうにも見えた。


◇◇


 ナレ:エイジは涙で腫れた目を擦りながら何処かへ歩き始める。その左手には、彼女からもらった指輪が光っていた。彼が後にしたショッピングセンターのインフォメーションにカメラが置いてある。中には昨夜の映像と、エイジのメッセージビデオが残されていた。


 エイジ:「今日は4月22日。世界が止まってから1年2ヶ月と15日が経ちました。ベールを被っているのは僕の大切な人です。僕の名前は星森エイジ。この音声を聞いてる人が居たら、彼女が動いた時にある場所へ向かってください。僕もそこを目指して進みます。場所は――」



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