噂好きなおばちゃん
十年前の事件。キルヒャー・ガット。
とにかくそうした事件を知っている人間に当たらなければならない。
キルヒャーの家は隣町にあった。
グレンは越境して今の学校に入学しているらしい。今定期的に奏自負という監視人が入る一人暮らしになっている。
グレンが家族からどういう扱いを受けているか。そしてグレンの家族の望みは何か薄々だが察せられる。
カーライルが言うには何か誤解があると勘違いしているその男に勘違いじゃない証拠を突き付けて諦めさせるしかないと。
「誤解だったらどうだ」
そう聞いてみたら、カーライルは鼻で笑った。
「お前が女にフラれたとしよう、お前の友達がその女を脅迫して交際を承諾させたといったらお前そのまま付き合うのか?」
そう言われてしまうと考えてしまう。
そんな付き合い方しても無理があるのはわかっている。もしそんなことがあったら頭を下げて謝るしかない。
そしてそういうことをした奴とそのまま友人関係を続けていけるかも問題だ。
それを考えるとそういう人間なんだなと納得した。
ピーターは心当たりの家を訪ねた。
隣町に住む叔母の家だ。
叔母はいわゆる噂話が何より好きなどこにでもいるおばちゃんだった。
色んな噂に通じているのでこの町で起こったことならまず知らないことは無いだろう。
叔母は小さな家にこじんまりした庭を守って暮らしている。
夫に先立たれ、子供たちはそれぞれ独立しますます噂話に興じしまくっているだろう。
ふんわりとした白髪交じり巻き毛を軽くまとめてトレードマークのマーブル色の肩掛けをかけていた。
「ちょっと教えてもらいたいことがあるんだ」
叔母はややぽっちゃりした頬を緩める。
「あら、何を知りたいの?」
なんだかとてもわくわくした顔でピーターを見ていた。
「キルヒャー・ガットのことを、その十年前の事件のことを」
「ああ、あれね、あの時は大騒ぎだったわよ」
叔母はとてもうれしそうな顔をしていた。
「で、どうしてそんなことをピーターが知りたいと思ったのかしら、今までは全く関係のない暮らしをしていたわね」
まるでネズミを前にした猫のように舌なめずりした叔母にピーターは薄々悟る。
どうやら叔母は新たな噂の出どころとしてピーターを定めていた。
「実は……」
ピーターは観念した、どのみちかばってやるような相手でもない。
話が進むうちに叔母の目がらんらんと輝き始めた。
噂って本人の耳に入るのはたいてい最後だっていうな。
ピーターは人ごとのように思う。