解決の糸口
ランチタイムに特待生であるカーライルは寮生であるので食堂の食券で食べられる唯一のメニュー日替わりセットを手にしていた。
自宅通学のクルトとピーターはサンドイッチの弁当を手に一番奥まった席に座る。
本日グレンは補習授業に出ているので放課後までこちらに寄ってこない。
三人は沈痛な面持ちで今後を考えなければならない。
「だから一発殴って二度と来るなで終わらせておけばよかったんだ」
カーライルは憮然とした表情でサラダをつつきながら言う。
「そうだね、本当にそうだね。そうしておくべきだったと今は後悔しているよ」
ピーターとクルトは学んだ。世の中には情けをかけていい人間と悪い人間がいると。
だが、冷たい目で泣きじゃくる男の襟首をつかんでいるカーライルの姿は矢張り恐ろしかった。一切の慈悲を持ち合わせない目で振り上げたこぶしは何のためらいもない。
サラダを食べ終えた後カーライルは呟く。
「やはりこれは通報しかないだろう」
「通報って」
慌てる二人をむしろ怪訝そうな顔をして見た。
「複数の男で取り囲んで女性に無理やり要求を通す。これはどこに出しても恥ずかしい犯罪行為だ。官憲の手を借りても構わないんじゃないか?」
カーライルの意見は普通に考えれば正しい。もし取り囲んでいる現場を余人に見られていたら間違いなく官憲を呼ばれていたはずだ。
しかしそれができない理由があった。
「うちの学校の生徒を官憲に引き渡すことはできないよ」
「学校は生徒の不始末を嫌うからな」
カーライルが首をかしげる。
「不始末を嫌ったとしてもすでにその不始末を完遂している馬鹿がいるんだが」
「でもね、通報したのが君だとばれたら、特待生資格剝奪されかねないよ」
クルトの目はどこまでも真剣だった。
「なんでだ?」
犯罪を通報するのは市民の義務であるというのが一般常識だ。
しかし、学内から犯罪者を出したとなるとその通報者も学校に不利益をもたらしたとして迫害される理由になるという。
「じゃあ、あのどうしようもない破綻しきった恋愛相談をこれからもやらなければならないと?」
カーライルの表情は絶望だった。彼がここまで落ち込むのをクルトは初めて見た。
「だとすれば、突破口として」
ピーターが唐突に口を開いた。
「突破口としてなんだ」
カーライルが身を乗り出した。
「十年前に何があったか調べるっていうのはどうだ」
ピーターは何故チェリアがキルヒャーを嫌うに至ったかを調べるべきだと考えた。
そして誤解があればただし、嫌うに至る十分な理由があればそれをネタに諦めさせればいい。
「その手があったか」
確かに理由もわからず押してもどうしようもない。その結果こじれて現在があるのだ。
「まあ、言い出しっぺだ、ちょっと俺が動くわ」
ピーターは今回初めて頼りになることを言った。