十年の思い
キルヒャーはかつての幼いころを思い出していた。
いつも自分の後ろを歩いていたはずの幼馴染。振り返ればはにかんだ笑みを浮かべていた愛らしかった彼女。
チェリア、いつだって自分の背中を折っていて傍にいたいと言ってくれていた。
それがどうして変わってしまったのかいまだにわからない。
ずっとその理由を知りたいと思っていた。チェリアに聞いたとしても不機嫌な顔をして忌々しげに大嫌い。傍に来るなしか言わなくなってしまった。
どんな誤解があったのかそれはどうしてもわからない。
関係が変わったのは十年も前のこと、自分は事故にあったらしい。その前後のことは全く覚えていない。ただしばらくは寝付いていたのは覚えている。
その時の傷跡はまだ背中に残っている。
漸く外に出られ、チェリアに会ったときチェリアは笑いかけなかった。
まるで世にも醜いものに出会ったかのように顔をしかめて口をゆがめた。
「そばに寄らないで、うっとうしいのよ目障りだわ」
今まで聞いたことのない冷たい声。
何が起きたのかわからなかった。何かしたのかと思ったが自分はケガで寝込んでいただけだ。そうなる前はチェリアは普通に微笑んでくれたのに。
そして十年その誤解は解けていない。何の誤解かもわからないまま無為に過ぎた時間。
チェリアは今後自分が連絡するまで連絡するなと言った。
チェリアの願いは何でも聞く、別れる以外は、それが恋人になる時にかわされた約束。だからチェリアからの連絡をずっと待っている。
今日もチェリアからの連絡はない。
「今はもうこんな状態なんで」
グレンはそう言ってため息をついた。
カーライルの顔は引きつっていた。
「ちょっと待て、十年前から仲たがいだと?」
思わずカーライルが突っ込んだ。
「それでどうして恋人同士に?」
クルトは猛烈に嫌な予感がしていた。そしてその予感は決して外れないと確信していた。
「何度も兄貴のお言葉を無視しているからさ、俺たちが動いたんだ」
「具体的には?」
カーライルは軽く頭を抱えている。
「だから、俺たち、仲間が何とか考えなおせと説得したんだ、なかなか聞いてくれないから大変だったっすけど兄貴のためっすから」
「うわあ」
ピーターは声にならない悲鳴を代弁してくれたようだ。
「結局何人いたんだ」
聞きたくないが聞かざるを得ない。カーライルは苦悶の表情でそう尋ねた。
「俺とあと五人くらいっすか。ほんと説得には時間がかかって」
「それで根負けしたと?」
「彼女、弟思いなんすよ、これは弟さんのためだって説得して」
沈んでいたカーライルが思わず立ちあがる。
「お前どういうつもりでその台詞を吐いた?」
「決まってるじゃないっすか、あんないい兄貴がいたら弟さんも幸せっす」
全員その場に立ち尽くした。