身も蓋もない
「私とフランクは母親同士が仲が良くて、ずっと実の兄弟のように親しくしていたの」
チェリアは憎々し気にキルヒャーを睨んだ。
「ところがそのフランクの家族にとんでもない苦境に陥ったの。彼らを陥れたのがあんたの家族よ」
血が流れそうなまでに唇をかみしめゆっくりとかみしめるように呟く。
「うちもそうだった」
背後でボソッと声が聞こえた。
「親は泣いて頭を下げたよ、いやでいやで仕方なかったけどお前の手下になった」
「俺は仕方なかったからお前のこと好きなふりしてた。本当なお前の顔を見るだけで吐きそうな気がした」
次々と出てくる実は嫌いだったという言葉の羅列。
「え、じゃあフランクが心酔するほど立派な人だって誤解だったの」
キルヒャーの背後から声が聞こえた。
「お前マジで信じてたのか、俺なんて単に金目当てだよ」
すでに本音を隠す気もない背後の手下たち。いつの間にか来ていたのだろう。
「お前ら何言っているんだ。兄貴のことを尊敬してないのか」
グレンが慌てている。
「いやさ、お前何考えてんの」
仲間だった連中の裏切りに茫然とするグレンとその有様に驚いている元仲間たちという構図が出来上がった。
「チェリアが好きだったのはずっとフランクだった」
ぼそぼそとした言葉が続く。
「フランクにチェリアはずっとついて歩いていて」
「でもそれをどうしてチェリアが笑いかけているのが自分だって誤解できたんだろう」
ぼそぼそと誰に聞かせるでもなく話し続ける。
チェリアがいやそうに顔をしかめる。
「あたしはずっとフランクが心配でフランクについて言っていたわ、そしてフランクをそんな苦境に陥れたあの屑は口もきくのも嫌で存在を無視していたわ」
チェリアはそう言ってキルヒャーを睨む。
「うわあ」
ピーターが思わず漏れた口をふさぐ。
「つまりさ、他の奴に話しかけているあいだじゅう自分に話しかけてるってそのわきでニヤニヤしてたってことだよね」
クルトは思わずと言った邸で眉をしかめた。
「まあ、いくら何でもそれだけで思い込まないだろう」
カーライルはぼそぼそと呟き続けている集団に目をやった。
「お前らが吹き込んだんだろう。チェリアはお前が好きで付きまとっているって」
乾いた笑いが響く。
「チェリアは本当にかわいかったから。フランクをひたむきにしたっている健気さもさ」
「それを自分に向けられているって誤解したときは驚いたな」
「でも、俺たちに何ができる、あいつの気に障ることを言う権利はないんだ。チェリアに対する誤解は解くことはできなかった」
カーライルは目を細めた。
「つまり誤解が溶けたときこいつがどれほど傷つくかとか考えなかったのか」
ぼそぼそとした言葉の羅列が一時留まった。
「それは、そうなればいい気味だとは思ったけど」
「張り飛ばされたら物陰で嘲笑ってやろうとは思ったけど」
「心から馬鹿にしてたけど」
さもありなんとカーライルは頷く。
「通貨そんな妄想してたわけ、あの状況でそんなことに? 気持ち悪い男」
チェリアが嫌悪もあらわにキルヒャーを睨んだ。




