理解したくない
息も絶え絶えに笑う友人をクルトは冷たく見下ろした。
先日起きたことを伝えたところその場で拭きだし床の上でのたうって笑っている。
「とりあえず踏んでいい?」
「おい、お前カーライルに汚染されているぞ」
「冗談じゃない、そこまで破綻してない」
カーライルと同類呼ばわりされてさすがに気を悪くする。
「お前らが俺をどう思っているのかよく分かった」
不意に聞こえてきた低い声。そして長身の影に二人は少しだけ肩を脅かす。
「カーライル、いつからいた?」
カーライルは不機嫌そうに眉をしかめながら少し前からだと答えた。
「それはそうと、誰が汚染源だと?」
ピーターが起き上がる前にすかさず踏んだ。
「そうだよ、カーライルならわざわざ口に出す前に踏むよ、わざわざ言ってあげるなんて僕ってなんて親切なんだろう」
「お前もだ、クルト」
減らず口を叩くクルトにデコピンを叩き込みピーターから足をどけた。
「それで、これからどうするか」
「あのさ、偶然とはいえターゲットに遭遇したんだけど」
クルトはそう言ったがカーライルは小さくため息をつく。
「そろそろ面倒くさくなってきた」
カーライルは虚空を見た。
「いっそさっさと始末して埋めてしまうのが一番簡単な方法かもしれない」
「いやいやそれ犯罪だから」
「確かにそれが一番手っ取り早い気がするけどそれ気のせいだから」
キルヒャーと実際に顔を合わせたクルトも何となく同感という気がしたが犯罪捜査官を相手にする方が面倒なことになる。
「まあいい、とにかくこれはとても厄介な問題だ。誰でも自分だと考える自画像と周囲からの評価が一致することはまずないがここまで乖離しているとな」
「乖離って問題だろうか」
「そんなにすごいの?」
実際に見たことのないピーターにはちょっと納得しずらいようだ。
「ああ、招かれざる客が」
ちょっと眼鏡をかけただけで自分の顔を忘れ去った馬鹿が。
「いい加減あきらめてくれないものかな」
グレンがまたやってきた。どうせまた同じことの繰り返し。
三人の冷たい目に全く気付きもせずグレンは深刻な顔をしている。
「兄貴は言うなって言ってたけど」
そう前置きをした。
「やっぱりチェリアは知っておくべきなんです。そうすれば兄貴がどんなに自分を思っていてくれているかわかると思うんっす」
「珍しいパターンだ」
カーライルが何を言いたいのかピーターとクルトはわかるがグレンには全く理解できない。
キルヒャーの間違った自己像を全く疑わない男は怪訝そうな顔をする。
「とにかく、チェリアのためにずっと兄貴は頑張ってたし、これは全部チェリアのためなんっすよ」




