仙術で生き残りを目指す
徐州の沛国の東南にある留という地域に一人の男子が生まれた
「うむうむ、あばあば」という声を上げるが、不思議と赤ん坊特有の泣き声等はあげない。しかも生まれた時、産室には黄気が光って家族から驚きの声が広がった
「これは・・・・・・この子はいずれ大成する。ひょっとすれば、皇帝も夢ではない。でかしたな!!李姫よ」、父親らしいナイスガイな男が言うと母親らしい李姫と呼ばれた女性は涙を流しながら「はい、ありがとうございます。私の可愛い坊や、あなたはいずれ天下に名を轟かせる人物になるのですよ」と話す。
執事らしい壮年の男から「旦那様、早速ですが諱と字を決めてください」と言われた父親は「うむ、それならもう決めてある。王が仁徳のある政治を行う時、角を持った霊獣が現れるという。そう麒麟だ。この子はその霊獣そのものになって欲しい。そこで諱は角、字は我が家業である道を治める嫡男であるから伯道と名づけよう」
父親の熱弁に執事は「真に素晴らしい名前です」と応じ、母親も「とても素敵だわ」との言葉で応じた。父親は赤ん坊を抱き上げて「さあ、立派な大人物になってくれよ。我が張家の嫡男、張角。我が祖、張子房様の再来となるのだ」と大声で笑いながら移動し、布団に寝かせてそのまま部屋を出て行った
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ま、まじかよ・・・・・・・聞き間違いじゃないよな?張角ってあの?どうせなら司馬懿とかに生まれ変わりたかったよちくしょう、と赤ん坊となったらしい俺は周囲を見渡しながら考えていた。
見慣れぬ部屋、自分の数倍の大きさはあるだろう男女、思うように動かない身体に混乱していた。腕は動くので恐る恐る見るとすべすべぷにぷにの肌が目に入る。アラフィフな歴史好き・オカルト好きの平凡なサラリーマンがこんな肌をしているわけはない。そこでやっと転生したらしい事を認識し、改めて直前までの記憶を遡った。
今日も今日とて会社の残業帰り、翌日は休日という事もあって飲みに出かけて酔っぱらってどうやら事故にあったらしい事まではなんとか思い出しはしたが・・・・・・・ う~む、そもそも酔っぱらっていて事故にあったのかもあまり自信が無い
しかし驚いた。転生が出来たというのも驚いたが、転生先がよりによって張角とは。しかし張子房と言ったか?やっぱりその子孫を名乗ってるんだな。今がいつなのかは解からんが、60で病死したと仮定すると今は孝安帝の時代か?と色々予想はしたものの、判断材料が乏しい中意味の無い読みをしていても無駄だと思い取りあえず寝る事にする
翌日、目を覚ました俺は衝撃的な光景を目にする。部屋の中で黒い霧の様な物が弱々しくふよふよと浮かびながらこっちに近づいてくる
「あうあ!!あうあ!!」、ちくしょうまだ赤ちゃんだから言葉にならない。だが俺の声を聞いて乳母?らしき女性がこちらに来る。「あらあら、どうしたの?何も怖い事はありませんよ」、そう言った女性は驚いた事にこの黒い霧が見えていないようだ
おいおいおい、スピード自体はそれほど早くはない。むしろとろいが、それでも身動きがとれない俺にとっては充分恐怖だ。あの黒い霧からは嫌な気配が感じられる。どんどんと近づいてきて、手を伸ばせば触れる所まで来ている
来るな、来るな、来るな!!黒い霧の様な物を睨みながらひたすら念じたら黒い霧は霧散した。ただ消えただけでなく、まさしく霧散した。そして俺は意識を失った