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逃げるよ、カパジーラ山頂村!(3)

 森で起きた二日目。キニャは斡旋屋からもらった地図を頼りに、さらに道なき道を歩いていく。休憩だらけの移動は遅々として進まなかったが、この日は目的地の目の前までたどり着き、山道に入る前の開けた場所でのキャンプとなった。


 翌日の三日目。てんでやる気を感じない姿勢でのっそり起きて、また歩く。

 視界の左右から緑生い茂る森林が途切れると、眼前には峡。両脇が高い崖で囲まれていた。岩肌の道のりは足場も悪いが、通り道だけは分かりやすくはある。


「ゼェゼェ! 山! まだ山! もうダルっ!」

「ギギャッ」

 若い少女の体にも疲労がたまる。プカプカのほうは平気そうだ。


 右も左も岩壁に囲まれた圧迫感のある斜路。景観に変わりがない山道をひたすら登る。人同士のすれ違いはできそうだが、大人数で進むべきではない細さ。

 しばらくして山の中腹あたりになると、右手側に崖と面した隘路が見えたが、そちらはまず目的地方面ではないだろうと切り捨て、山をまっすぐ登る。


 そうして足が棒になってきたころ。ようやく目的のカパジーラ山頂村か。

 高さ2メートル半はある、何本もの丸太を縦に並べた門が目に入った。


「あん? なにこれ、どっから入るの」

 太い丸太を縦にし、何本も並べた壁には、人がとおるための入口がない。


 視線を左右に振る。丸太壁の両脇に面した岩石をつたって登れないこともないが、そんなわけなかろうと入口を探して、門にペタペタと触れてみる。

 それでも完全な壁。可動部が見当たらない。そんなとき。


「おっ? そこのお嬢ちゃん。うちの村に用かな」

 頭上から声。丸太壁のてっぺんを眺めると、高い日差しが目に入った。


 鈍色の指環を小指につけた左手を顔の前に掲げ、日差しを遮りながらあらためて見上げる。丸太壁の上には周辺を見晴らすための足場があるようだった。

 そこに、ゴワゴワな麻の上着を身に着けた中年男性がいた。


「ねー、私、害虫駆除の依頼でアードから来たんだけどー」

「ああ、お嬢ちゃんがか……お嬢ちゃんが? 依頼の請負人?」

 いぶかしげな目で見られる。白装束はソレっぽいが、彼女はまだ一七歳だ。

 とはいえ、自信満々に出る態度で、大人からの疑惑を吹き飛ばす。


「安心しなって。ほらほら、コイツもいるし。私の下僕」

「なんだいその魔生獣マニマルは、デブった破裂トカゲか?」


 プカプカの由来である破裂トカゲは、護国大陸では一般的な魔生獣マニマルである。


 まん丸な体を宙にたゆたゆと浮かべる10センチ程度の体には、申し訳程度の顔と短い手足、尻尾がついている。竜と言われれば竜に見えなくもないが、小さくつぶらな両目と大きいだけの鼻がどことなくマヌケさを感じさせる。


 そして最大の特徴は、勝手にそのへんに生まれ、気持ちよさそうに宙に浮いて、気付いたときにはひとりでに破裂して、体を構成するマナをあたり一面にまき散らすこと。その際、マナが色とりどりの花々のように飛び交うことから、破裂の様子が老若男女に親しまれている。要は花火のような魔生獣マニマルであった。


「もー、そんなのいいから! まずは入れてよ、どこから入るのこれ」

 プカプカに関する飽き飽きしたやり取りに、キニャが出入りを催促する。


「おっとすまない。危ないから、表門の前からちょっとどいてくれるかい」

 中年男性に言われたとおり、キニャは門前から離れた。するとまもなく。

 ズダダンッ! 目の前の丸太壁が、横一列で山道の側へと倒れてきた。


「うえっ! あぶなっ!」

「はは、すまないすまない。ケガはないかい」

「ちょっと! 潰されてたらケガどころか死んでたじゃんっ」


 丸太壁は、どこかの箇所に人が通るための出入り口を設ける、などという細工がいっさいない、壁ごとを倒して道を開けるだけのいさぎよい門だった。


「ねえ、この壁、どうやって戻すのさ」

 地面に倒れた門を踏みつつ、別添えで設けられていた見張り台の男に尋ねるが。

 男はすでに木ハシゴをつたい、門の下まで降りていたようだ。


 山道に横たわっている、木々の筋などで横一列に束ねられた丸太壁は、まさに壁がそのまま倒れてきたようなものだ。男が立っている門の裏側、その足元には木細工の留め具のような物体がある。彼はそれを外して、丸太壁を倒していた。


「ああ、村の男衆が縄を引いてね、もとの位置まで引き上げるんだよ」

 倒した門の戻し方も、実にシンプルな力技だった。


「さてと、ようこそカパジーラ山頂村へ。私が村長のヤックだ」

 焼けた肌の男性。茶色の髪は短く刈られているが、理知的な雰囲気がある。


「村長ねえ。村長なのに山道の見張り?」

「少ない人数じゃ助け合いが必要でね。それに請負人が来る日も分かんなくて」

「ああ、悪いわね。劣悪な田舎道すぎて、女の子にはつらかったのよ」

「ははっ。おかげで叔父にどやされて、毎日門番させられてたよ」

 強固な門ではあるが、こんな出入りの仕方では人員が必要なのだろう。


「さっそく依頼をこなすかい? それとも一服するかい?」

「一服を求むだわ。もう足が棒だし」


 キニャのなんとも失礼な態度も気にせず、ヤックは快活に笑い、彼女とプカプカを村に招く。護国ではリーダーとリードは珍しくはあるが、驚くほどではない。


 門の先には村が広がっていた。高度は山頂近くのようだが、表門から見て右手側にはさらなる急斜面の山道があり、木々が林立している。本当の山頂はほかにあるようで、岩肌の一角からは山水が流れており、その直下に作られたため池にたまっていた。水質は透明。立地が立地だが、水源には困らないらしい。


 反対側。表門の左手側は緑でうっそうとしているが、木々が重なっていない隙間から、ところどころに青い空が見える。あちらは道なき崖につながるようだ。


 最後に表門の正面側には、十軒は越えるであろう木造家屋が、開けた広場を中心にいくつも建っている。ほどほどの距離感がある家もあれば、ぎゅうぎゅうに隣接しているところもあり、景観的にバランスがいいとは言えない。


 そんな村を村長のヤックに連れられ、キニャとプカプカが歩く。

 「あっちは山だ」「そっちは崖だ」見たままの案内で分かりやすい。

 「入口が表門で、あっちが裏門だ」家々の奥にも、入口と同じ丸太壁。


「裏門って、向こうにも道があんの」

「崖際の細道だけどね。その先に洞窟と魔生炉ファナスがあるんだ」

「は? なんでこんな山奥に魔生炉ファナスが」

「急にマナが湧いて、アードに報告したら、王都が無償で建ててくれたのさ」

「ふーん。もったいな」

「だからかな、その魔生炉ファナスの影響が出ちゃってるようで……」

「ギギャ」

「しかし、こっちはこっちですごい破裂トカゲだね。こんなに成長するのか」

 どちらも適度に遠慮なしだが、トゲはない。気は合うようだった。


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