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クズとデブと羽虫のお昼

「あー、キニャぁ! まーたキノミクイ食べてるー!」

「うっさいユビ。はむはむ」

「もー、闇ジジイさんのところいくんでしょー」

「バーカ。優先順位ってもんがあんのよ。はむはむ」

「んもー、そんなに食べてばっかじゃプカプカみたいになっちゃうよー!」

「ギッギャッギャ!」


 護国都市アードの脇。アード外郭市にあるキノミクイの串焼き屋台。

 今日もいつも通り、常連のキニャとプカプカ、目付役のユビがやかましい。


 キニャが巻き込まれたカパジーラ山頂村での魔生獣マニマル災害から、まもなく一月が過ぎようとしていた。当の村はトキシック・ヴァイフログが排除された直後、ロックトードも自然種ナチュラらしく攻撃性をパッタリと見せなくなったという。


 そして援助に向かった護鳥騎士団レイルナイツ護国衛士隊クリンガードは、まさかこんなところにいるなんてな王家の第四姫ゼリファ・ミトス・クリンティアの指示に従い、村人たちの復興支援をはじめた。最優先とされた村の裏側、崖道にある洞窟内の魔生炉ファナスの調整は現地にいたマナマギストのトルミットによりすみやかに行われ、奇怪鉄の井戸を通して出てくるマナの性質を、人為的にさらに抑える調整がなされた。


 現状、トキシック・ヴァイフログの再発生は確認されておらず、また種の危機で生態系を崩していたロックトードもその数を自然的に修復したのか、洞窟周辺で見られる個体数は十数匹ほどに収まり、安定してきたとされる。


 ついでに、村内部の家々にはほとんど被害がなかったため、住居の問題はほとんどなく、村長のヤックをはじめ、村人たちはその日から平穏な日常に戻ることができた。唯一、村を守る表門と裏門の堅牢な丸太壁はどちらも破損していたため、衛士隊の男手は、主に門の修復作業に回されたのだという。

 そのせいか、アードに帰還した衛士たちは筋肉痛でぎこちなかったそうな。


「ふぅ……食った食った。やっぱここのキノミクイが一番うまい」

「まいど」屋台の親父が、愛想のない顔でお礼する。


 キニャがカパジーラ山頂村のその後について知ったのは、衛士隊による援助のお礼にと、村の代表者として山を下り、アードの責任者にあいさつにきたヤックから直接聞いたからだ。彼は久々にキニャを目にすると、涙を浮かべて「あのときはトビルのこと、ありがとうございました……!」と厚く礼をした。


 それに対し「じゃあ金払え、金」と。当時は養父からの資金援助で生活には困らなかったものの、大金を逃し、ふてくされていたキニャにお決まりの文句を言われたヤックは、本来の害虫駆除の依頼料であった2300コルを気前よく渡した。


「……これいいの? 今って村、大変なんでしょ」

 などと。自分で言っておきながら、珍しくキニャのほうからもらい渋ると。

「いやあ、実は……あのロックトードたちなんですがね」

「は?」


 ヤックによると、村の裏門修復時のこと。裏門はトキシック・ヴァイフログの巨体が通り抜けられてしまうほどの穴が開けられてしまったことで、ある日気付いたとき、一匹のロックトードに村に侵入されてしまったらしい。


 護鳥騎士団レイルナイツは撤退していたものの、護国衛士隊クリンガードは十名ほど残っていたため、やろうと思えば撃退はできた。しかし、相手に攻撃性がなく、また自然種ナチュラの迫害が結果的に災害を拡大してしまった教訓から、ヤックや衛士たちは村をペタペタと歩いて進むロックトードの動向を見守った。すると岩色の肌をしたカエルが。


「東側の山水のため池にですね、水浴びにきてたんですよ」

「あー、そういえばトビル助けにいったとき、そんなん見たかも」

「そしたらですね、えーっと……これだ、これなんですけどね」

「? 石じゃん」

「ええ。石なんですが、トルミットさんによるとただの石じゃなくて――」


 崖道の洞窟にも水はしたたっていたが、水浴びや湯浴みをするほどの量はない。村襲撃の際、ロックトードたちは水場を発見したことで、両生類としての本能か習性が刺激されたか、洞窟からペタペタと歩いてきては、村の生活水のため池に全身を浸し、「ゲゴゴ」「ガゲゲ」「ギゴゴ」と気持ちよさそうに鳴きはじめた。


 もちろん、ため池は村人たちの飲み水でもあるため危機を感じた。幸い、ロックトードが入水したため池はとくに汚れるでもなく、怪しい水質の変化もないとトルミットにより分析されたが、相手はアレだ。キモいものはキモい。

 しかもロックトードは水浴びしたのち、あらかじめ口に含んでいたのか、得意技の岩吐きで「ペッ」と小粒な石を優しく吐いていく。石の不法投棄だ。


 そんなこんなに不安を覚えた男たちが、仕方ない。よし、ここはまた駆除してしまって――と考えはじめていたころ、トビルの新発見ですべてが覆った。


「ねえ、父さん。ロックトードが吐いていった石、なんか光ってるよ?」


 トビルが手に取ったのは、ロックトードが吐いた石。指先程度の小さいものや、手のひらくらいの岩もあるが、よく見ると、それらの表面は青白く光っていた。

 そこでトルミットが、手持ちの簡易な研究道具で調べてみたところ。


「どうもカエルが吐いた石は、低純度ですがマナ結晶として使えるようでして」

「は?」

「それでマナランタン用になら使えそうだと、村の新たな販路になりそうで」

「はあ?」

「正直、これがけっこうなお値段なんですよ。マナランタンは高価なので」

「はあー!?」


 カエルが行水のお駄賃に吐いた石ころが、人間社会の金に変わった。

 ロックトード自体が珍しく、自然生息では人との共存など考えられていなかった魔生獣マニマルだが、ここにきての新発見で、村人は新たな産業を授かった。


 状況に気付いたメコ叔父は、すぐさまため池を改良し、村の生活水用のほかに、ロックトードたちが入りやすい、まさに露天風呂のようなため池を新設した。

 ケガも回復した男衆のほかに衛士隊もいたため、人手は十分だった。


 同時に、裏門の修復はいったん撤回し、カエルたちが出入りしやすいよう一部に開放部を設けた。深夜は不気味なので戸締まりするが、朝がはじまってから裏門に行くと、数匹のロックトードが裏門前でまるで開店待ちの客のように鳴いているので、人なら一人、カエルなら一匹が歩き抜けられる開放部を開いて招き入れ、わざわざ道なりに整備した山水の露天風呂までご案内する。そして水浴びを堪能してもらったら、駄賃を吐いてもらう。それが村での新たな収入源になった。


 難点は、すべてのカエルが毎回岩を吐くわけではないこと。相手の良心……なんてものはないだろうが、できる限り徴収できるよう、カエルたちにいかにサービスを尽くすか。それが今のカパジーラ山頂村で最も熱い議題となっている。

 ときどき露天風呂までの道を外れ、村の広場にやってくるロックトードもいるらしいが、村人のほうも今では恐れがなく、殺し合いにまで発展していた過去のいさかいも山水に流し、ほほ笑ましい態度で誘導し直すらしい。トビルたち少年少女は、そんなカエルたちの手を引いて連れていくというから、子供はすごい。


 こうして、カパジーラ山頂村は取り返しのつかない被害こそ受けなかったが、目を背けられなかった魔生獣マニマルとの共存に対し、彼らなりの道を見つけた。

 どちらかというと降って湧いた金策に、商魂たくましくなっただけだろうが。


 ゆえにキニャは。


「ふざけんなっ! おまえらばっかおいしい思いして、金払え、金!」

 自分だけおいしくない結果になったことにキレ散らかした。


 ちなみに、村の未来をホクホク顔ではせながら山頂に帰っていったヤックから「そうだ、しばらくしたらゼリファさまがキニャさんに会いにきますって」と伝えられたが、その後、キニャは一週間ほど都市の外へと逃げていた。


 白いマナ結晶の件は不問で済んだ。いわく、トビルを助けたお礼の700000コルとの相殺で。そうした状況で会ったところで催促は通じないだろうし、彼女から今後の身の振る舞いについて問われたり、指導されたりしたらかなわないと考え、逃げた。それにウィルのこともある。彼はキニャのことを優先して考えてくれるため、キニャの生活が昔のように煩わしいことにならないよう、ゼリファやテルに間柄や事情を話すとは思っていなかったが、万が一がある。変な同情は望まない。


 ついでにプカプカがいる。護国大陸ではキニャしか知らない秘密でも、これ以上しかるべき知識や地位を持つ者と余計な接点を持てば、つまらないことでボロが出かねない。とくにゼリファは創海神話オタクだ。妙なところで勘づくかもしれない。プカプカの存在は、キニャの強盗罪などまだつまらないことと言えるくらい、護国大陸においては大罪。不要な関係は、今のうちに切り捨てる。


 そうしてキニャがアードから逃げている間、第四姫ゼリファ・ミトス・クリンティア、相棒のフリーズハイドラのリズ、護衛役の護鳥騎士テル・クルス、そして雄々しきリバースレイルを連れた護鳥騎士ウィリアル・アージェストが、あまりに似つかわしくないアード外郭市をしらみつぶしに練り歩く光景が数日ほど見られたそうな。キニャは斡旋屋経由で「あいつらいなくなったぞ」と伝達と受けるまで、アードに帰ってきはしなかった――それが一昨日のことだ。


「本当にゼリファに会わなくてよかったの? 私は会いたかったなー」

「だったら飛んでけば。あんた勝手についてきてるだけだし」

「キニャひどーいっ! 失礼しちゃうわっ!」

「ギッギャッギャ」


 キノミクイを堪能したキニャが、外郭市の中央通りを進む。

 煩雑で小汚いこの場所は、彼女の肌にもすっかり合っている。


「キニャ、キニャ。今日すげえ石を拾ったただよ。買ってけれ買ってけれ」

「売れる石ころが見つかったってのに、石ジジイは相変わらず悲惨ね」

 カパジーラ山頂村と違い、本当に意味のない石を売る、中年男性。


「……キニャ。罪から逃げてたって本当かい? 今日も僕と護鳥に懺悔を――」

「うっとおしいのよ影男。懺悔なら衛士隊の詰め所でしてきな」

 右肩が異様に落ちている、影のある髭男。


「あぁるわぁぁ! キィンニャァじゃなーい! 店よってかぬわぁぁい!」

「うっせえマダム! 一生いかないって言ってんの!」

 第四姫相手でも私イイ線いってるわ、と確信したしわの目立つ看板娘。


 にぎやかで愉快。街の風景も人それぞれの過去も、茶色い小汚さが目立つ、いつもの外郭市。今日は護鳥騎士団レイルナイツからの追跡を逃れつつ、どうにか賄賂で弁解が済んだという闇ジジイが久々に店に戻ってくると耳にしたので、そのお出迎え。


「ケッヒヒ! 闇ジジイからふんだくったら、また大物探しでもするかあ」

 今回の闇ジジイの不手際に詰め寄り、慰謝料をふんだくるのが狙いだ。


「はー、キニャぁ。ウィル君も言ってたけど、ちゃんと仕事しなさいよー」

「うっさい羽虫」

「んもー! だから羽虫じゃないわよっ!」

「ギッギャッギャ!」

「プカプカも笑うなーーー!」


 コソ泥娘は今日も相変わらず、お金を探す。自分の村を再建するために。

 手段が真っ当な方法でないことは、彼女なりに分かっている。

 それでも。


「あーあ、どっかに1000000コルでも落ちてないかなあ」

「あるわけないでしょー。あっ、でも草なら生やしてあげるよっ!」

「ケッヒヒ! バーカ、いらないっつーの」

「ギギャ!」


 その日にたどり着けたら、彼女はクズなりにがんばった自分を誇るのだ。


クズとデブと羽虫のファンタジーな珍道中。

物語の動向やテンポで気になったところがあれば

教えてもらえるだけでうれしいでーす!


なお、続きもぜんぜん考えてはいるのですが

もうしばらくは新作執筆の練習期間とあって

また書くとしても一年後とかになりそーな……。

そのときがきたらきたで、こなかったらまあ護国は平和だということで、

ここは一つ。


では、また。

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