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生存凶兆(24)

 怪音。大声。咆哮。そこに濁った暴風が吹き荒れた。


 プカプカが周囲一帯を振動させるほどの大声量で吼えると、口から淀んだ青色、いや、もはや紫色に近いほど濁りきったマナを大量に吐き出す。


 トキシック・ヴァイフログすら驚き立ちすくませるほどの絶叫。プカプカが体を構成するマナを吐き出し続けるほどに、紫色に濁ったマナの霧があたりを覆い尽くし、その巨漢も徐々に、徐々に縮んでいく。やがて咆哮が止まったとき。ここにいる誰もが視界を紫の霧に覆われ、他者を、怪物を、視認できなくなった。


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!」


 どこからか、甲高い鳴き声が響き渡った。それは生物を不快にさせる、心の底から嫌悪させるに足る、他者を害するためだけの声色。誰もなにも見えぬなか、陽気な害悪の鳴き声だけが、二度、三度と、魔生獣マニマルだらけの崖道を支配する。


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!」

「……な、なに? なんなのこれぇ……ケホッ、え? ケホッケホッ!」

「バカ。ちゃんとフードに入ってな」

 恐怖で顔をのぞかせたユビが咳き込むと、キニャが再度、小さな顔を押し込む。


 しばらくして、曇天の雨にかき消されるように紫色の霧は晴れていった。

 色合いに同化していたトキシック・ヴァイフログは、先ほどのまま動かず立ちすくんでいる。その眼前には……黒い物体。キニャよりも背が低く、全身を黒いゴツゴツとした外殻でまんべんなく覆う、悪魔のような暗黒色の魔生獣マニマル


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!!」

「あれ、プカプカ……だよね。まさか竜人獣ドラコニア? ううん、違う。あれは……」


 ユビの小さな両目が捉えたのは、暴力的な匂いを漂わせた強靱な肉体を、全身鎧のような黒外殻で覆いきった人型。肩や背中からいくつかのトゲが不規則に尖って生え、手足には凶暴にひん曲がった鋭爪が鈍い光沢を晒している。

 背中の臀部からは、キニャの白いローブに付いているような細長い尻尾をかぎ爪のように生やしており、鼻とほぼ同化している鋭い口先は顎を広げて、不潔な色をした唾液をトキシック・ヴァイフログのようにこぼしている。


 頭頂部には、キニャの白いローブの二本角を巨大化したような、いびつに曲がりくねった二本の大角。黒外殻に覆われていて瞳は見えないが、目と思わしき部分は鋭利にくぼんでおり、視覚を有していることを感じさせる。

 横顔の面持ちだけなら、それはまさに人型の黒竜。竜人の魔生獣マニマルに見える。


 けれども、この世界に、護国大陸に、これほどまでに不浄な竜などいない。

 いるとすれば、そうと見間違われても仕方のない、全生物の害敵だけ。


「まさか……ど、どど、毒底ネズミ……ヴェノヴェノン・ナイトプレーグっ!!??」

 そう。地底の毒沼に潜む、白き毒底ネズミを率いる、黒き外殻の王だけ。

 禁域八頁【毒底尖兵】(ディザスト・エイト)ヴェノヴェノン・ナイトプレーグだけ。


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!!!」

「ヴァシャァッ!」


 しびれを切らしたか、あるいは恐怖に飲まれたか。トキシック・ヴァイフログが己よりも圧倒的に小さく、醜く、黒き外殻をまとう毒底ネズミに襲いかかる。

 不揃いな牙を並べた巨大な毒ガエルの大口は、あっという間にヴェノヴェノン・ナイトプレーグとされる魔生獣マニマル――プカプカの上半身に噛みついたが。


「ヴァジャッ!? ヴォェッ!」

 噛むや否や、すぐに吐き出し、飛び離れた。


 トキシック・ヴァイフログの両目から、濃い紫色の液体が流れた。それは流体化したマナ。彼の全身は毒底ネズミの穢らしい劇毒により、一瞬で冒された。


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!!!!」

 プカプカだったものが嗜虐に喜び、鳴く。

 他の生命を害するためだけのような、汚らしい声色で。


「キ、キニャ。あれってプカプカ……なの? なんで? どうして!!??」

「黙ってな。騒いだら……殺されるよ」

 これまでにないほどに、真剣に忠告する。


 彼女は知っている。プカプカが純粋な破裂トカゲではないことを。

 あの日、六歳のころ、彼女の村で、杖ババに言われたのだから。


『ふぁっふぁっふぁ! キニャ、心して聞けよ? そいつぁ破裂トカゲなんてぇもんじゃない。ワシがこの村にやってきた最大の理由じゃな。ようやっと見つけた。いいかいキニャ。それに母殿。そいつぁ破裂トカゲなんてぇもんじゃなく、毒底ネズミのナイトプレーグのマナと交わっちまった変異種エネミルだ』


 幼きキニャが杖ババの話に飽きて、手のひらサイズだったころのプカプカで遊ぶかたわら、キニャの母、エルリーラ・ティロットは言葉を返した。


『ナイトプレーグ……創海神話の怪物、でしょうか?』

 華奢な女性の、信じられないものを見るような、恐ろしいものを見るような目。


『そうじゃ。氷滅竜を食い殺し、炎滅竜に焼き尽くされ、今なお地底に沈んだ毒沼に潜む、この世のあまねく生命を冒涜する害悪じゃ。護鳥や白竜に連なるでもなく白き肌に生まれる魔生獣マニマルなど、この世にゃ存在せん。魔生獣マニマルらは天陽と成りた炎滅竜ヘルフレア・アークサイドドラッケンの光をその身に浴びる限り、キニャの持つこやつのように体表が白くなることなど、絶対にありゃせんのじゃ』


 白き肌の魔生獣マニマル。それは希少ではなく、異常の証。


『それがなぜ、私たちの村に……こんな、こんなにも平穏なのに』

 エルリーラが娘を見つめた。キニャは、彼女にとって平穏の象徴だった。


『白き毒底ネズミのナイトプレーグどもは、歪獣シキシの穢れが形を成した黒き外殻をまとって生まれる特異個体、ヴェノヴェノンを己らの王に仕立てる。じゃが、彼奴らは短命ですぐに死ぬ。それこそ王都のドブに巣食うネズミらのように。じゃから早くて数日、遅くて数年で、王も成り代わる。そして新たな王をいただく喜びで、生の殺害欲にかき立てられる。それが毒底ネズミの本能じゃ。してだ、この村には二年前、大鷲竜の赤子が現れよった……ウィル坊のせがれじゃよ』


 杖ババがキニャの家の近く、ウィル坊の家に、古い杖の先端を向ける。


『あれらは【人地護鳥】エンドレイルの生まれ変わりじゃ。あやつはその地に住む生命への警鐘。白き鳥とは人の守護者であると同時に、その存在自体が不吉の前触れってわけさね。じゃからわしゃ老体に鞭打ち、ここにやってきた。護鳥が現れた予兆とその原因を探りに。じゃが、敵が毒底ネズミとありゃ芳しくない』


 杖ババは、その身にまとう汚らしい装束を揺らし、エルリーラに説く。


『キニャの破裂トカゲはのう、偶発的な変異で生まれたもんじゃろ。問題は、やっこがナイトプレーグのマナと融合したこと。短命な破裂トカゲと毒底ネズミの頻繁な急死が重なり、マナが入り交じったのよ。まあ、ワシでも前例に聞かぬ変異じゃがな。いずれにせよ毒底ネズミの発見は、その地にもたらされる災いの先触れ。ウィル坊の白き鳥はこれを予見し、ここマイティロット村に舞い降りたのさ。もはや時間の猶予はないが、事が露見しただけましさね』


『……杖ババさま、つまり、その……この村はもう』

『母殿。はやるでない……と言いたいんじゃが、はやりなされ。刻は定まった』


 杖ババが口にしたことは、理解できずとも、キニャの耳にも届いている。


『早くて数日、遅くて数年。マイティロット村は毒沼に沈む。ナイトプレーグどもは病白の体を破裂させ、劇毒のマナであたり一帯を穢す。殺そうが生かそうが関係ない。彼奴らは死んで生を冒すことに己が生を沸き立たせる。心なされよ。猶予はない。わしゃ今から村長……あんたの父殿らに話を告げてくりゃ。護国に属さぬ流れのワシの言の葉がどれだけ届くかぁ知らんが、せめて子と生きよ。それとキニャの手にある破裂トカゲ。悪性か良性かは読めんが、早めに殺せ。こいつぁ破裂トカゲの性質が圧倒的に色濃いからの、毒底ネズミに加担するたぁ思わんだが、最悪、彼奴らの呼び声になりかねん。いいか? 心して、逃げ、殺し、生きよ――』


 そう言った杖ババは、私の頭を乱暴にワシャワシャして、どっかに行った。

 そうしてお母さんは、私の手をギュッと、ギュッと強く握った。


 二人が知らなかったのは、プカプカがナイトプレーグではなく。

 毒底ネズミの王、ヴェノヴェノン・ナイトプレーグと交わってたことくらい。


「ヴァシャァァァ……!」

 私の視線の先でデカキモガエルがうなってる。キモいんだよ。

「どいつもこいつも……毒、毒っ、毒ッッ! いい加減にしろっての……!」


 杖ババの話を鵜吞みにしなかったお父さんや村の人は、数週間後に死んだ。

 私とウィルを森に逃がしてくれたお母さんも、毒沼に足を冒されて死んだ。


 なにが女神? なにが護鳥? どこが護国? なにを護ってるつもり?

 ふざけんなよ。どいつもこいつも。もういっぺん、死んじまえっ!!


「プカプカァ! 【感染強襲アサルトプレーグ】ッッッ!」

「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!!!!!」

 私の相棒の黒いなにかが、デカいカエルに襲いかかった。


 お母さんを、お父さんを助けてくれなかったやつらに代わり、私を助けてきたのは目の前にいる、私よりも小さくなった黒い悪魔。今のこいつがどこまで私の声を聞いて、命令として受け取ってくれているのかは分からない。

 これまでの人生でも何度かあった窮地。そのたびに私はプカプカを破裂させて、生命の害悪、ヴェノヴェノン・ナイトプレーグに変貌させた。


 そのたびに私は、コイツのせいで死にかけてきた。


 グシャッ! 「ヴァシャァァァ!!!」。汚い鳴き声。

 デカキモガエルの紫色の剛毛に、プカプカの腕が突き刺さる。

 きっと今ごろ、手指の先から一滴で死に至る劇毒が流されている。

 ……ほらね?


「う゛ぁ……しゃ、う゛ぉえ……」

 ドクドクと、両目から濃厚な紫の液体が垂れ流れる。流体化したマナ。

 まるで涙みたい。でも、その苦しさは、泣く悲しみとは比較にならない。


 トキシック・ヴァイフログがビクン、ビクンと痙攣した。グシャッ。グシャッ。プカプカはひん曲がった爪先を何度も何度も相手の巨体に突き刺して、ないはずの内臓をこねくり回し、加虐に嗤う。竜のように鋭い顔をした汚いネズミ。


 毒底ネズミはおとぎ話で語られるほかの禁域指定種ディザストルのように、強さで恐れられるわけじゃない。狡猾で残忍な意志。汚濁のように湧き出る集団。人や動物を害することに特化した生態。高貴な氷滅竜を闇討ちして食った憎き存在。

 卑近で矮小。嫌悪の魔生獣マニマルだからこそ恐れられている、って言われてる。


 だからって、そのへんの生物なんかじゃ敵にならない。

 そんじょそこらの毒性なんかじゃ薬にならない。

 今のプカプカは明確に、デカキモガエルよりも強いし。

 相手の猛毒が清水に見えるくらい、穢れている。


 それこそ夢見がちなバカ女、ゼリファが自慢げに語る氷滅竜ブリザード・ハイリッシュドラグーンが出たって、戦いでは勝てなくても、劇毒で殺す。

 生物を殺すためだけに生きる毒が、ヴェノヴェノン・ナイトプレーグだ。


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!!!!!!」

「ぅ、うぅ……プカプカが怖いよぉ……」

「うっさい。見てないで隠れてろ」

 弱々しく泣く羽虫を、またも右耳の奥まで押し込んでやる。


「う゛ぁじゃ、う゛ぉえ、う゛ぁああっ!」

 止めどなく紫色の涙を流すトキシック・ヴァイフログが最後の反撃とばかりに、死に至る汚物のプカプカにかじりついた。そのせいで、また涙があふれ出てくる。あんたは劇毒をかんだだけ。今のプカプカの外殻は、それ自体が毒。

 私だって触れるだけで死ぬわよ? やったことはないけどね。


「う゛ぁ、じゃ、う゛ぉえ、う゛ぁ」

 デカキモガエルの全身から紫のマナがこぼれ出した。魔生獣マニマルの死の前兆。

 どうせだ。これまで苦しませてくれたぶん、盛大にお返ししなくちゃ。

 ついでに、そこにいる、小さなキモいカエルたちのぶんもね。


「終わらせるよプカプカッ! 【破裂黒殻(破裂しなっ)】ッッ!!!」

 なにより、私とユビが、この場から生き残るためにもだ。


「キキャアアアァァァアアアアッッッ!!!!!!!!!!」

 トキシック・ヴァイフログに上半身を噛まれたまま、黒い悪魔が鳴いた。

 次の瞬間。


――バッギィインッッッ!!!!


 プカプカの全身を覆っている黒外殻が、四方八方に炸裂して飛び散る。

 その破片が噛みついていたトキシック・ヴァイフログの口内で弾け、突き破る。

 あいつの体内はもうズタボロ。さすがの魔生獣マニマルでもここまでされたら終わり。


 全身を内から穴だらけにされたデカキモガエルが、気持ち悪い断末魔もあげることなく、壊された部分からバラバラに、紫色のマナになって消えていく。

 透きとおる青さをなくしたそれは粒子となり天を舞うことはない。汚らしい液体のようにボトボト、ビチャビチャ。地面に紫色の水たまりになってたまる。


 ヴェノヴェノン・ナイトプレーグの劇毒に冒されたマナはもう、世界とは混じれない。ただの汚い毒沼と成り果てる。メディに長く住んでたから、マナのことも、魔生獣マニマルのことも、マナマギストくらい心得を学んでる。知識はないけどさ。

 この姿のプカプカと戦った相手は、もうどこにも帰れない。自分を形作るマナを世界に還元することなく死に、誰にも歓迎されぬ毒液になって疎まれる。


 それが、ヴェノヴェノン・ナイトプレーグが、今の世も禁域指定である由縁。

 この世のあまねく生命を冒涜する、こいつの汚らわしい生き様。


「う゛ぁ…………」

 顔をなくしたデカキモガエルの体半分が、毒液になって、静かになった。


「お、終わった……の?」

 フードのなかに隠れながら、羽虫が右耳らへんの髪を引っぱる。

 ちょっと痛いけど、それに文句をつけるよりも。


「ゴホッ……ちっ、ゴホッゴホッ」

「わっ、キニャ大丈夫!? もしかして毒吸った!?」

「いつものこと。ゴホッ、ゴホッ」

 深穴ヘビの鱗くらいじゃ、間接的でも護国最強の劇毒は防ぎきれない。


 ユビなんかに心配されるのはうっとおしいけど、のどを焼くような刺激。痛い。でも、まずはプカプカ。前回は【招き声】のせいでとんでもない災害を引き起こしちゃって、自分の命令で殺されるはめになりそうだったけど。


 今日はもう【破裂黒殻(破裂しなっ)】を使った。

 だから、きっと、大丈夫。アイツは外殻さえなければ――。


 黒外殻を破裂させたプカプカは今、真っ白な全身を晒している。生々しく引き締まった体は、何本もの綱をより合わせたような生物的な凶悪さがある。

 そして、いつもとは比較にならない、凶悪に鋭い顔がこちらに向けられる。


 外殻の竜っぽさと比べると、顔はあまりにネズミ。プカプカの場合、破裂トカゲのブサイクさも悪い意味で引き立っている。ほんと、相変わらずブッサイクだ。


「ね、ねえキニャ。プカプカ、こっちくるけど……」ユビがおびえる。

「大丈夫」そう、たぶんね。大丈夫。

「ほ、ほんと!? だって爪立てて、なんか襲ってきそうな雰囲気だよ!?」

「そんときゃどうせ死ぬわよ。大丈夫、みんな大好き護鳥にでも祈ってな」

「そんなーっ!!!???」


 私たちを獲物にでもしようとしているつもりか。プカプカのくせに。

 ジリジリと距離を詰めてくる、真っ白な毒底ネズミが――宙に飛んだ。

 狙いは私。このままじゃ死ぬ。でも大丈夫。これで大丈夫じゃなけりゃ。

 私なんか、もうなんべんだって死んでるもの。


 ボウンッ!!! 「キ、ギギャッ!!!」。

 宙に飛んだプカプカの体が、一瞬で巨体に膨れあがった。

 引き締まっていた全身が、まるで風船のような、いつものデブの姿に。


「ギギャ!」

 ドスン。白いデブブタが私の目の前に着地する。

「うわー戻った! プカプカだぁ!」

 ユビが私の顔から離れて、プカプカの腹に突撃。

「スー……ふぁーーーっ!」

 ユビには自信満々に見せたけど。死ぬかと思ったわ。


「ギッギャッギャ!」

「うっさいプカプカ」

 触れたいけど触れないように近づいてくるやらしさが、こいつらしい。


「……あれ、プカプカさっきのこと覚えてないの?」

「ギギャ?」

「えー、マジー。ねえキニャ、プカプカさっきまでの記憶ないっぽいよー」

「へえ、そりゃ初耳」

 そんな仕掛けだったんだ。ユビがいなけりゃ分かんなかったわ。

 となると、破裂中は人格もまるで変わってるってことかな。

 これまで何度か殺されかかった経験にも納得がいくね。


「てゆうか……なんでプカプカがヴェノヴェノン・ナイトプレーグなのぉ!?」

「その話はあと。それか金払え、金」

 ともかく無事だったし、さっさと帰るか。カエルだけに。


 もう洞窟の裏道をとおる必要はなくなったけど、いまだに不動で行列を成しているロックトードたちを眺めた。キモ。見てんじゃねえわよ。


 この場にプカプカの戦いの痕跡はそれほど残っていない。デカキモガエルだったものの毒沼が地面にたまっちゃってるけど、「ヴェノヴェノン・ナイトプレーグがやった」なんて言っても誰も信じないだろうし、そんなこと言いたくないし。

 トキシック・ヴァイフログの生態ってことで片づけさせよう。うん。


 あんなデカキモガエルにプカプカがやられるとは思ってなかったけど、もしやられてたら、私の村のように、地面をえぐるほどの劇毒がまき散らされていた。

 だから最後の切り札とはいえ、カパジーラ山頂村のなかでは戦えなかった。べつにヤックとかクソガキのためじゃないわ。それ以前の話。


 こいつを破裂させることは、私の人生の終わりにもつながる。


 直接的な身の危険なんかじゃなく、なによりもプカプカが存在していること。

 人類の害敵、ヴェノヴェノン・ナイトプレーグが地上にのさばってるなんて。

 誰かに知られれば、ゼリファに追われるどころじゃ済まない。私も殺される。

 破裂させた痕跡なんかを、とくに護鳥騎士団レイルナイツなんかに知られちゃったら――。


 そうやって、このあとの身の振り方を考えていたとき。突然、上空から強い風が吹きつけた。同時に、バサッッッ! 巨大ななにかの羽ばたく音に次いで。


「キルニーニャっ!!!」

 私の名を、久々に聞く声で呼ぶ青年が、白い大鷲竜に乗ってやってきた。


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