駄目駄目男
「よう! よう!」
マサトの声にレオナは振り返った。
「何ですか?」
素晴らしく波打った金髪に碧眼、白い肌、赤い唇のレオナにまっすぐに見つめられたマサトは少しの間を置いて、
「あんた、なんでそんな軽量なんだ? 野営の荷物は? 鍋や釜は? 毛布やなんかもあるだろう? もしかして俺に全部背負わせてんのか?」
と言った。
昼頃、派手に見送られ王都から出発して数時間は歩いているが、まだそうそう王都からも離れていない。
「まさか、自分の荷物は自分で持ってますわ」
「けど、その杖以外持ってねえじゃねえか」
「ええ、収納してますから」
「しゅ、収納?」
「はい、収納魔法ですわ」
「ず……ずるい」
「ずるいとか言われる筋合いはございませんわ」
確かにそうだが、マサトは自分の背にのしかかる重量ですでに汗をかいている。
勇者であり、体格や力にも自信はあるマサトだが、それでも令和の世界から来た成人男性にこの重量の荷物を背負って旅をしろというのは酷だった。
鎧も剣も盾も重いのに、荷物を背負い、さらに先程からちょろちょろと出てくる魔物を切ったり叩いたりだ。
「くっそ、なんで俺がこんな目に」
勇者は出発一日目ですでに弱音を吐き始めている。
「せめて馬とか用意できなかったのかよ!」
「馬に乗れますの?」
「の、乗れねえけど」
「では駄目ですわね」
「荷物くらいは運ばせられるだろうよ」
「あなた……勇者のくせに文句ばかりですわね」
「俺はあんたと違って好きで勇者になったんじゃねえよ! てか、あんたらが困ってから勇者を召喚したんだろうが。もうちょっと気を利かしたらどうなんだ。勇者に快適に旅をさせる方法を考えてからにしろっての」
「本当に駄目駄目な男だこと!」
レオナは目をつり上げてマサトを睨んだ。
「な、何だよ。こんな重量の荷物持って魔王討伐なんか無理に決まってっだろ。俺、都会ッ子なんだぞ? ここ数年は携帯電話より重いもん持ったことねえし」
「はあ」
とレオナがため息をついた。
「では荷物をそこへ置いてください」
「え、何、持ってくれんの?」
「万が一にでもはぐれたりしても、あなたの荷物は私が持ってるんですからね?」
「オッケーオッケー」
マサトがどんっと地面に置いた荷物をレオナは収納魔法で片付けた。
「重たくないのか?」
「ええ、私が持ってるわけじゃありませんから。異次元にある箱の中にあるという感じでしょうか。重さも感じず、収納限界は分かりませんがかなりの大きさかと。食物は腐らず鮮度を保ちますし氷は氷のまま炎は炎のままです」
「へ、へえ、便利だな」
身軽になったマサトはスキップでもしようかというほどの足取りの軽さで歩き出した。