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旅立ち

 勇者が現れ、いよいよ大賢者出立の日。

 王都城下では祭りのように出店が立ち、勇者を見物に遠方の街からやってくる者もいた。

 勇者マサトと大賢者レオナは王の前で魔王討伐の誓いをたて、「苦しい時も互いを励まし助け合う」という結婚式にするような誓いの言葉まで言わなければならなかった。

 マサトとレオナは互いフンッと他所を見て、もごもごと誓い合った。

 王の前に出るとあって、マサトは王宮から出向いて来た世話役にむさ苦しい髪の毛の髭もさっぱりとカットされ、服装一式と、支度金、食料、野営のテント一式、そして勇者だけが身につける事の出来る、勇者の兜から鎧、剣、盾を配給された。

「え、準備済みなのか。こういうのを一つ一つ探しながら旅をするのがRPGじゃ鉄板なのにな」

 と言いながらマサトはそれらを装備した。

 背は高く、筋肉隆々、ゴツい大きな手足、勇者の装備をしたマサトは素晴らしく立派に見えた。レオナすらも見惚れるほどに逞しい剣士だった。

「大賢者、転移魔法でさっと魔王城まで行けないのか」

「さすが勇者ね、高位の転移魔法まで知っているとは」

「え、そんなん常識だろ。俺のいた世界じゃ、異世界転生はチートが鉄板なんだよ」

「あなたの世界ではかなり魔法力学が進んでいるのね? 素晴らしいわ」

 レオナが真剣な瞳でそう言うので、(ラノベ小説から学んだとも言いにくい。実際、魔法なんて漫画か小説の中の話だしな)とマサトは汗をかいた。

「ここでは魔法学院もあるけれど、それを教える人間がまだまだ足りなくて、私の様に個人で書物を紐解きながら高位の魔法を覚えなければならないの。転移魔法は一度行った場所でないと行けないですから、今は無理です。そろそろ出立いたしましょうか」

 国軍の兵士がずらりと並ぶ間をマサトとレオナは並んで歩いたが、

「腑に落ちねえ……こんだけ兵士がいるんだから魔王討伐に人員を割けるだろう。なんで俺達だけなんだよ」

「ぐずぐずと男らしくないですよ。あなたも私もそういう運命に生まれ落ちたのです」

「いやいやいやいやいや、おかしいだろ。俺達の負担! 割合がおかしい! それであと、大賢者でもビキニタイプの鎧とかねえのか? そんながっつり僧侶みたいなローブ、何の楽しみもねえ」

「ビキニタイプの鎧? 何ですか? あなたの世界ではそういう鎧が強いのですか?」

「うん……まあ……もうこぼれんばかりのスレスレで谷間どーんとプリップリの半ケツが望ましいな。それなのに強度は最高……って不思議設定で」

「そうですか、ではドワーフの里へ寄ってそういう鎧を作らせましょう」

「え、いや。お前が着るんだぞ? いいのか?」

 レオナは首を傾げて「強度の強い鎧ですよね? 何か?」と言った。

「あ、いや……」

 全く調子が狂う、という風にマサトは肩をすくめた。

 大賢者レオナは素晴らしい魔道士だが、異世界から来たマサトには世間知らずのお嬢様にしか見えなかった。

 侯爵家の娘で素晴らしい美人なのに供もつけずに知り合って間もない勇者と二人旅だぞ? とマサトは内心、呆れていた。

 どんだけ勇者を信用してるんだっての。

「さあ、勇者マサト! 行きましょうか!」

 晴れ晴れとした顔のレオナにマサトは苦笑した。


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