勇者マサト
「汚くて悪かったな。ってか、賢者かなんか知らんけどこんなお嬢ちゃんに魔王討伐の旅なんか出来んのか?」
「お嬢ちゃんとは何です! 私はハリス侯爵家の娘ですよ!」
「知らんがな」
勇者マサトは小指で耳をガリガリとかいて、耳糞をふっと吹き飛ばした。
レオナは手で口元を抑え、汚い物を見る様な目で勇者マサトを見た。
「司祭様……私……私一人でも魔王を倒せそうな気がします」
レオナは司祭にそう訴えた。
「そーなの? じゃやってくれてもいいぜ? 俺は勇者なんぞやりたくねえし。酒でも飲みながら待ってるし」
とぽんとレオナの肩に手を置いた。
「きゃ! 無礼な! 許しもなく女性に触るなど許せません! しかもそんな汚い手で!」
レオナは勇者マサトの手を振り払い睨みつけた。
「何だよ、いちいちうるせえな」
「司祭様、本当にこの男が勇者なのですか」
「そうだっつってんだろ。ってか、俺だって早く元の世界に帰りてえんだ。やるならやる! やらないなら家に帰って、屁ぇこいて寝てろ!!」
下品な勇者マサトの言葉にレオナは顔面蒼白になり、言葉も出ない。
「この私に下品な言葉を言わないで!」
レオナは怒りのあまりに感情が高ぶり、知らず火炎魔法「炎爆」を発していた。
手のひらほどの火の玉が勇者マサトめがけて三つ、飛んで行く。
「大賢者!」
と司祭の叱責の声があがるが、放ってしまった物はもう引っ込める事が出来ない。
だが勇者マサトはそれを指一本で弾いて見せた。
「な! 私の炎爆が!」
弾かれた火の玉はあらぬ方向へ飛び、壁や天井にあたって爆発した。
「あああ~壁にヒビが~~天井にも~~」
と司祭が慌てた。
「お嬢ちゃんよ、人前でそんな危ない魔法を使うのは駄目だろ。ちったあ考えろ。首の上の乗っかってる物中に脳味噌は入ってねえのか」
今度は勇者マサトがやけに鋭い眼光でレオナを睨みつけた。
「わ、私に命令しないで!」
「ったく面倒くせえな」
コホン! と司祭が咳をして、
「二人とも早く旅立ちなさい! 一日も早く魔王を倒すのじゃ!」
と厳めしい顔でそう言った。