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篠宮さんと魔王召喚・3

神の領域から戻るとエルフ王がひどく驚いた様子で、大丈夫なのかと尋ねてきた。

翼が急に動きを止めた為、話しかけてみたが何の反応も示さないので、どうすべきか迷っていたらしい。


「まあ、ちょっとヤボ用があったんだよ。それより、私の配下になった魔族とはどうやって連絡すればいいの?」

「簡単です、貴女が呼べば彼らはどこからでも馳せ参じます」


ふーんと頷いて翼は「ちょっと来てくんね?」と言ってみた。

その瞬間、目の前に何とも説明の難しい生物が四匹、膝をついて現れた。

恐らくコイツらが直属配下の四天王だろう。


「うわっ、ビックリした!」

《王よ、ご命令を》


その内の蟻のような一匹が、ザラザラとした声で喋った。

無理やり人間の言葉を発しているような感じだ。

他の三匹は何も言わないが、魔王の命令を今か今かと心待ちにしているようにも見える。


「あー……じゃあ、人類殲滅作戦といこうか」


翼が最初に命令したのは各国をそれぞれ孤立させる事だった。

国家間で情報のやり取りをして、万が一にでも連携などさせれば面倒な事になるので、それを阻止するのだ。

一国では魔王軍への対抗は難しいが、国同士が足並みを揃えてしまえば、こちらに攻め込んでくる可能性も高くなる。

四天王の中で比較的、人間に近い姿の魔族に魔法が使えてかつ遮断結界が張れる者を選別し、ただちに各国を結界で囲めと伝えた。

その後で斥候を送る。

魔物には夜行性の種族がいるので、夜襲を仕掛けさせる。


「人間は闇の中ではロクに動きが取れないからな、斥候には隠密に長けたヤツを使え。それから行軍の途中で点在する街や村、人間が住んでいる集落も見つけたら潰せ。一人残らずだ」





「というワケで」


ニッコリと翼は笑った。


「今から人類は滅びまーす♪」


残すのはこの国だけだ。この国以外はすべて滅ぼした。

軽く宣言した翼は、右手を前に突き出した。

指先にポポポポポ、と光が灯る。


「いっきまーす! 魔王ビーーム!」


ピシュピシュピシュ。

指先に灯った光が瞬時に走り、その場で五人の学生が額を撃ち抜かれて倒れた。

一瞬、何が起こったか分からずポカンとしていた他の学生達は倒れたクラスメイトが死んでいるのをやっと理解して、次々と悲鳴を上げる。


「うわあああーッ!?」

「いやああっ!」

「なんでなんでなんで!?」

「はーい、次いきまーす。魔王ビーーム!」


再び高速の光が走る。


「おいっ、おいっ! アンタなんで俺達を殺すんだよおおお!」


状況を理解できない勇者のステータスを持った少年が半泣きで翼に怒鳴る。

翼はキョトンと首を傾げた。


「そんなもん、分かりきった事だろ。魔王を倒す為に喚ばれた存在を生かしておく必要がどこにあるんだ?」

「アンタ、俺達と同じ日本人じゃないか!」

「それが何か?」


翼にとって興味のない人間は死のうがどうしようが関係ない。

邪魔になるから排除する事にしたのだ。


「私も家に帰る為のミッションがあるんだよね」


ステータス画面を指して翼は言った。

『魔王クエスト』という一文が記載されている。


【帰還条件・この世界の人類を滅亡させること】


「あ、それから後はこの東帝国だけだから」

「え……?」

「さっきも言ったろ、この国に遮断結界を張ったって。七日前からこの国は外と遮断されてたの。ここに来るまでに通った国はぜーんぶ滅ぼしちゃったからさ、残ってんのここだけなんだよね」

「まさか……西王国も」

「当然、一番最初に滅ぼしたったわ」


西王国を訪れた翼が見たのは、人間以外の種族が無惨に扱われている様子だった。

普段は他者に興味のない翼も、さすがに胸クソが悪くなり、気づけばその町を焼け野原に変えていた。

「そうか」と翼は理解し、小さく呟いた。


「この世界は存在する意味もない」


その呟きは同行しているエルフ王には聞こえなかった。そうやって通る国々を滅ぼしていき、生き残りがないよう魔王軍に残党狩りを命じた翼は東帝国に到着した。

帝国に入るや、翼は王城に向けてさらに遮断結界を幾重にも張り巡らせ、抹殺を命じる。

翼が行っているのは根切りだ。老若男女も関係ない。

生き残らせるつもりは微塵もなかった。

配下の魔王軍のすべてを動員して現在、世界中で人類の大虐殺(ジェノサイド)が決行されている。

そして残すはこの王城にいる人間と召喚された学生だけだ。

まぁ学生達はとばっちりだが仕方ない。

たかだか数十人が消えたところで、元の世界にはなんの影響もない。

たんに運が悪かっただけだ。


「数百年に渡り、この世界の人間はあまりに傲慢すぎたんだぜ。種族は違えど共存だって出来たハズだ。だから神々が私に頼んできたのさ」

「そんな……そんな……神が我らを見捨てるなど」


腰を抜かして床に座り込む皇帝が翼を見上げてきたが、一ミリも同情する気はない。

翼は短くなった煙草をピッ、と指で弾いて捨てた。


「じゃあな、人類ども」


すでに東帝国の上空に巨大な光の塊が落ちてきていた。


滅亡(メテオ)


目を覆っても瞼を貫くほどの凄まじい光の塊に押し潰され、東帝国という国は瞬時に消え去った。

草木一本、生き物も建物もなにもかも。

国の残骸すら残らず、平たい地面が広がるだけだった。




「……で、ホントにいいのか? 私はまだ【魔王】だから、今のうちなら命令がきくぞ」


飛空魔法を使って上空に浮いた翼は、魔王軍が残った人間達を殺す様子を見ながら、隣のエルフ王に訊いた。

間もなく、この世界の人間という種族は滅亡する。


「いいえ、ここまでやって頂ければもう充分です。感謝いたします、魔王殿」


深々と頭を下げるエルフ王だが、本心ではサッサと翼に立ち去ってもらいたいという意思が見え隠れしているのが分かる。その心情は分からん事もない。

異世界からいきなりやって来た奴が世界を滅ぼせるほどの力を持つ【魔王】なのだから、いつ矛先が自分達に向けられるか戦々恐々としているのだろう。

それにこれ以上、自分達に干渉もして欲しくはないハズだ。

そもそもエルフは、他種族と交流を避ける排他的な性質を持つ。

『人間』という共通の敵がいたから、エルフ達も他種族と共闘していただけに過ぎない。もしこれがエルフに関係のない事であったら、彼らは協力などしなかっただろう。


「まぁいいけど。じゃあ、連中にもう好きにしていいって伝えてくるわ。元気でなー」

「魔王殿もお健やかに」


深々と頭を下げ、エルフ王は【魔王】を見送った。

魔王の姿が消えてからエルフ王は眉を潜め、苦々しく呟いた。


「……やれやれ、仕方なかったとはいえ魔王に同行する事になるとは」


翼の予想通り、エルフ王はこれ以上は魔王と関わりたくなかった。

彼が大切にしているのは己の種族だけだ。

そもそもドワーフとだって共闘するのも嫌だったのだ。しかし憎き人間族は滅ぼされた。魔王に感謝しているのも本当だ。

これでようやく平穏な世界が戻ってくる。

これまで種族を守る為に人間と戦って殺された先祖を思い、エルフ王は涙を流した。


「師父達よ……ようやく……」


そうして故郷の里に帰り着いたエルフ王を待っていたのは、凄惨たる一族の滅亡だった。


「なっ……なんだ、これは……っ」


里は燃え広がる炎に包まれ、王の民であるエルフ達を魔族が虐殺していた。


「何故っ、なぜ魔物がっ」

「王よ……王よ……」


エルフの戦士が虫の息で、ズルズルと地べたを這いずってきた。


「何があった!?」


瀕死の戦士を抱き起こしてエルフ王は詰問する。


「分かり……ませ、ん……突然……魔族が、王の命令から解放された、と……」


それだけ伝えて戦士は息絶えた。


「命令から……解放……だと?」

「貴様ーーっ!」


その時、一人のドワーフが息を切らせて走って来た。

ドワーフ王だ。ドワーフ王はエルフ王の胸ぐらを掴んで怒鳴った。


「貴様ッ、あれほど言うたのにワシの忠告を聞かなかったな!」

「ドワーフ王……」

「魔王は何と言ったのじゃ!」

「連中に、好きにしていいと伝える、と」


エルフ王の言葉を聞いたドワーフ王は真っ青になった。


「エルフよ、それがどういう意味なのか分からなかったのか!魔王が命令を解いて配下に好きにしろと言う意味が!」


基本的に魔族は多種族を滅ぼす事を好む。

弱者を虐げ、喰らい、虐殺する。

しかし今までそれをせずに共闘していたのは、人類を倒す為に、代々の魔王が盟約を結んでいたからだ。

しかし、その盟約は破棄された。

魔王の命令から解放された魔族は本来の性質に戻ったのだ。

元より多種族との共存意識などない。

喰うか喰われるか、魔族にはそれしかないのだ。


「あ、あぁ……アァァアアア!!」


ようやく意味を理解したエルフ王は絶叫した。

人類を殺し尽くした魔族の次の標的は自分達なのだ。

時すでに遅く、世界は魔族によって滅ぶだろう。





「アホだなあ……あのエルフ」


その様子を真っ白な空間から見ていた翼は呆れたように言った。

ここは最初に神々と会った空間だ。

元の世界に戻るにはここを経由しないといけないらしく、強制的に翼は引き寄せられた。


「だから魔王のうちに命令するって言ったのに」


翼が世界から立ち去る前に魔族に伝えたのは簡単なものだった。

『もう魔王は現れない。だからお前らは、お前らのやりたいように、好きにすればいい』

その命令がどんな結果をもたらすのか翼は知っていたが、別に教えてやる義理もない。翼はこの世界の住人ではないのだから、後がどうなろうと知ったこっちゃないからだ。


「魔族の特性を理解してりゃ、ちょっと考えると分かるのによ」


そんで、と翼は後ろの神々を振り返った。


「もうあの世界は綺麗サッパリ消して、新しい世界を構築した方が良さげだぜ」

「…………」

「あと、あの駄女神はもう少し神様としての教育をしとけ。あのまま放置したら、またやらかすぞ」

「…………」

「約束は守ったからな、家に帰せよ」

「……承知した」


翼の所業にもう何も言いたくないとばかりに、神の一人が手を(かざ)す。


「最後に言っとくけど」


消える直前、翼は吐き捨てるように言った。


「もう二度と喚ぶなよ」

「安心しろ。頼まれても喚ばん」




そよそよと吹く風が心地よい。


「おかわりをお持ちしましたよ」


執事の声に翼は目を開いた。

手に持つのはお気に入りのティーカップ。

口をつけると紅茶は冷めてしまっていた。


「辻井、淹れ直してくれないか」


カップを差し出す主人に執事は少し微笑み、かしこまりましたと答えた。

翼は試しに小声で呟いてみる。


「ステータスオープン」

「何か仰いましたか?」

「いや、何でもねえよ」


どうやら辻井には見えていないらしい。

翼の目の前には、薄い板のような画面が浮いており、ステータスが表示されていた。

これが何を意味するのか、まだ分からない。

一番下にスキルが書いてある。

神殺し(ゴッドアサシン)


さて、今日も世界は平和だ。



                 終

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