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篠宮さんと魔王召喚・2

7日前に蘇生した翼に話しかけてきたのは、隣にいるエルフ族の男……エルフ一族をまとめる王だった。

この人間と魔王軍の戦いの真相は、それはそれは胸クソが悪いものだった。

この世界は人類至上主義を掲げており、人間以外の種族は下等生物として数百年以上、酷い種族差別が行われてきた。

特に見目の良いエルフ族や高度な鋼鉄技術を持つドワーフは奴隷売買され、他の種族も人間達の道楽で虐殺されたりと虫けらのような扱いを受けているのだ。

それゆえ人間に報復する為、本来なら争いを好まないエルフが立ち上がって魔王軍に加担し、ドワーフやコボルトといった温和な種族も戦争に加わったのである。


「なあ、なんで西王国と連絡が取れないのか教えてやろうか?」


ニタァ、と翼は笑った。


「簡単な事さ。この東帝国全体に遮断結界を張って、他国と接触が出来ないようにしたんだよ」

「そっ、そのような事が出来るものか!」

「それがさぁ、私には出来ちゃうんだよ。あと西王国は勇者召喚には成功しているぞ」

「何だと!?では何故……!」

「西王国ってさ、人間以外の種族が国に入れないように、特殊な結界を張ってるんだってな。召喚されたのが人間だったら、ちゃんと王様のトコに現れたんだけど」


翼のセリフの意味がよく分からなかったのか、人間達はしばひ考え……そして、皇帝がハッと顔を上げた。


「ま、まさか………!」

「今回、召喚されたのはどうやら私だったらしいな」


エルフ王と話をした翼はステータス画面を確認し、自分がこの世界を救う為に呼ばれた存在だと知った。

しかし、人間ではなかった為に結界に弾かれ、あの戦場に飛ばされたのだった。


「人間こそが最上位の存在ねえ……この城の地下牢には若いエルフ達がいーっぱい捕まってるんだって?どーせ貴族やら金持ち商人やらに売り飛ばして、慰みものにしてんだろ?」


そのセリフに学生達がえっ?と顔を見合わせる。

皇帝の話では魔族達が人間をはじめ、多種族を蹂躙しているのだ。


「ステータスオープン」


翼は己のステータスを表示した。

種族、体力、魔力など基本能力に加え、言語自動翻訳、鑑定、インベントリといった様々な特殊スキルがズラリと並んでいる。

そして最後の職業には『世界を救う勇者』と表示されていた。

本当であれば、翼が魔王と戦う勇者だったのだ。


「けどさぁ……私なーんも悪い事してないのに戦場に飛ばされたと思ったら、この国の兵士にブチ殺されたんだよね」


エルフ王から真相を聞いた翼はなんでクソな人間の為に働かなきゃならんのかと、さらにブチ切れた。

すると『ステータスを書き換えるか?』というアナウンスが再び聞こえてきたのだ。

よく分からなかったが、勇者でなくなるならそれでいいと思い、翼はステータスを書き換える事にした。


「そういやさ、まだ魔王が現れていなかったんだっけ?よかったな、お望みの魔王の顕現だ」


翼はパチンと指を鳴らすと、表示されているステータス内容が次々と変わっていく。今までのステータスは書き換える前のもので、隠蔽スキルを使って新しいステータスを隠していたのだ。

現れたステータスは信じがたいものだった。

レベル無限大、攻撃力・防御力のレベルはカンスト。

全属性物理攻撃無力化、全属性魔法攻撃無力化、毒耐性などあらゆる攻撃が無力化される。そし……て職業の欄にあった救世主が消え、新たに現れた職業は『世界を滅ぼす魔王』だった。


「ここに来る前、ちょっと神様とやらと話をしてきたんだが、この世界では勇者が召喚されるように、魔王も召喚されるんだと」





「貴殿にはまことに申し訳ない事をした」


真っ白な空間で翼は数本の光の柱に囲まれていた。その内の1本が話しかけてきたが、態度が気に入らない。

 

「謝るのはいいんだが、話をする時は目を見て話せって教わってねぇのか?神だからって礼儀を欠いていいワケじゃねえぞ」


「で?その駄女神のせいで世界のバランスが壊れたって?」


「説明してもらおうか、私を呼んだ理由を……ウッ!」


足元でシクシク泣いている若い女を見下ろし、翼は冷ややかに言った。駄目な女神で駄女神と名付ける。


「人間という種族は放っておくと際限なく増える。ゆえに『間引き』が必要なのだ」

「あぁ……それで百年ごとに魔族と人間を戦わせて、適当に人口を減らすのか」

「そうだ。それでこの世界の管理を任せていたのが……」

「この泣いてる姉ちゃんかよ」


この若い女神は見目の良い男が好みだった。

いわゆるメンクイだったのだ。

それで世界の管理を始めてから数百年経った頃、女神はある時代に召喚された勇者に一目惚れしてしまった。

その為に女神は決してやってはいけない事をした。

 愛する勇者を勝たせる為にコッソリと戦争に介入し、人間が有利になるようにと力を与えてしまったのだ。

これが後のちの人類至上主義に繋がり、女神の加護を受けた人間は多種族を蹂躙するようになり現在に至る。


「そんで、その尻拭いの為に私を呼びつけたって?」


【ステータスを書き換えますか?】


翼に呼びかけていたシステムは、召喚者に勇者か魔王かを選ばせる為のものだった。

ムカついていた翼が勇者を拒否した為、自動的に魔王へとステータスが変わり、そうして東帝国で勇者召喚が可能になった。


「い、いや、決してそのような事では……」

「ふざけんな、無関係の私が一番ワリを食ってんじゃねえか」

「……申し訳ない……」


腕組みして睨みつけると、神様とやさはしどろもどろ返答する。

翼は深い溜息をついた。

どのみち、この世界をどうにかしないと帰れないのだ。


「わぁーったよ、魔王としてやるこたァやってやるから、確実に元の世界に帰せよ。でないと」


ギロッと神を睨み、翼は恐ろしいセリフを口にした。


「テメェらもブチ殺すからな」




「というワケで、今から人類は滅びまーす♪」


軽く宣言した翼は、右手を前に突き出した。

ポポポポポ、と五本の指に光が灯る。


「翼、いっきまーす!魔王ビーーム!」


ピシュピシュピシュ。

指先に灯った光が瞬時に走り、その場で5人の学生が額を撃ち抜かれて倒れた。

一瞬、何が起こったか分からなかった学生達は倒れたクラスメイトが死んでいるのを理解すると、次々と悲鳴を上げた。


「うわあああーッ!?」

「いやああっ!」

「なんでなんでなんで!?」

「はーい、次いきまーす。魔王ビーーム!」


再び高速の光が走って5人が倒れる。


「おいっ、おいっ!アンタなんで俺達を殺すんだよおおお!」


状況を理解できない勇者のステータスを持った少年が半泣きで翼に怒鳴る。翼はキョトンと首を傾げた。


「そんなもん、分かりきった事だろ。魔王を倒す為に喚ばれた存在を生かしておく必要がどこにあるんだ?」

「アンタ、俺達と同じ日本人じゃないか!」

「それが何か?」


翼にとって興味のない人間は死のうがどうしようが関係ない。

邪魔になるから排除する事にしたのだ。


「私も家に帰る為のミッションがあるんだよね」


ステータス画面を指して翼は言った。

『魔王クエスト』という一文が記載されている。

【帰還条件・この世界の人類を滅亡させること】


「あ、それから後はこの東帝国だけだから」

「え……?」

「さっきも言ったろ、この国に遮断結界を張ったって。7日前からこの国は外と遮断されてたの。ここに来るまでに通った国はぜーんぶ滅ぼしちゃったからさ、残ってんのここだけなんだよね」

「まさか……西王国も」

「当然、一番最初に滅ぼしたったわ」


西王国を訪れた翼が見たのは、人間以外の種族が無惨に扱われている様子だった。

獣人族の女が腹に宿している子供の性別に金を賭け、判定する為に生きたまま腹を引き裂く人間達。

それを周り見て笑い転げる人間達。大人も子供も笑っていた。

反吐が出そうな光景に、気づけば翼はその町を焼け野原に変えていた。

「そうか」と翼は理解し、小さく呟いた。


「この世界は存在する意味もない」


その呟きは同行しているエルフ王には聞こえなかった。そうやって通る国々を滅ぼしていき、生き残りがないよう魔王軍に残党狩りを命じた翼は東帝国に到着した。

帝国に入るや、翼は王城に向けてさらに遮断結界を幾重にも張り巡らせ国民を殺していった。

翼が行っているのは根切りだ。老若男女も関係なく、赤子ひとり生き残らせるつもりは微塵もなかった。

配下の魔王軍のすべてを動員して現在、世界中で人類の大虐殺ジェノサイドが決行されている。

そして残すはこの王城にいる人間と召喚された学生だけだ。

まぁ学生達はとばっちりだが仕方ない。

たかだか数十人が消えたところで、元の世界にはなんの影響もない。たんに運が悪かっただけだ。


「数百年に渡り、この世界の人間はあまりに傲慢すぎたんだぜ。種族は違えど共存だって出来たハズだ。だから神々が私に頼んできたのさ」

「そんな……そんな……神が我らを見捨てるなど」


腰を抜かして床に座り込む皇帝が翼を見上げてきたが、1ミリも同情する気はない。


「じゃあな、人類ども」


すでに東帝国の上空に巨大な光の塊が落ちてきていた。


滅亡(メテオ)


目を覆っても瞼を貫くほどの凄まじい光の塊に押し潰され、東帝国という国は瞬時に消え去った。

草木一本、生き物も建物もなにもかも。

国の残骸すら残らず、平たい地面が広がるだけだった。




「……で、ホントにいいのか? 私はまだ【魔王】だから、今のうちなら命令がきくぞ」


飛空魔法を使って上空に浮いた翼は、魔王軍が残った人間達を殺す様子を見ながら、隣のエルフ王に訊いた。

間もなく、この世界の人間という種族は滅亡する。


「いいえ、ここまでやって頂ければもう充分です。感謝いたします、魔王殿」


深々と頭を下げるエルフ王だが、本心ではサッサと翼に立ち去ってもらいたいという意思が見え隠れしているのが分かる。その心情は分からん事もない。

異世界からいきなりやって来た奴が世界を滅ぼせるほどの力を持つ【魔王】なのだから、いつ矛先が自分達に向けられるか戦々恐々としているのだろう。

それにこれ以上、自分達に干渉もして欲しくはないハズだ。

そもそもエルフは、他種族と交流を避ける排他的な性質を持つ。

『人間』という共通の敵がいたから、エルフ達も他種族と共闘していただけに過ぎない。もしこれがエルフに関係のない事であったら、彼らは協力などしなかっただろう。


「まぁいいけど。じゃあ、連中にもう好きにしていいって伝えてくるわ。元気でなー」

「魔王殿もお健やかに」


深々と頭を下げ、エルフ王は【魔王】を見送った。

魔王の姿が消えてからエルフ王は顔を潜め、苦々しく呟いた。


「……やれやれ、仕方なかったとはいえ魔王に同行する事になるとは」


翼の予想通り、エルフ王はこれ以上は魔王と関わりたくなかった。

彼が大切にしているのは己の種族だけだ。

そもそもドワーフとだって共闘するのも嫌だったのだ。しかし憎き人間族は滅ぼされた。魔王に感謝しているのも本当だ。

これでようやく平穏な世界が戻ってくる。

これまで種族を守る為に人間と戦って殺された先祖を思い、エルフ王は涙を流した。


「師父達よ……ようやく……」


そうして故郷の里に帰り着いたエルフ王を待っていたのは、凄惨たる一族の滅亡だった。


「なっ……なんだ、これは……っ」


里は燃え広がる炎に包まれ、王の民であるエルフ達を魔族が虐殺していた。


「何故っ、なぜ魔物がっ」

「王よ……王よ……」


エルフの戦士が虫の息で、ズルズルと地べたを這いずってきた。

「何があった!?」


瀕死の戦士を抱き起こしてエルフ王は詰問する。


「分かり……ませ、ん……突然……魔族が、王の命令から解放された、と……」


それだけ伝えて戦士は息絶えた。


「命令から……解放……だと?」

「貴様ーーっ!」


その時、一人のドワーフが息を切らせて走って来た。

ドワーフ王だ。ドワーフ王はエルフ王の胸ぐらを掴んで怒鳴った。


「貴様ッ、あれほど言うたのにワシの忠告を聞かなかったな!」

「ドワーフ王……」

「魔王は何と言ったのじゃ!」

「連中に、好きにしていいと伝える、と」


エルフ王の言葉を聞いたドワーフ王は真っ青になった。


「エルフよ、それがどういう意味なのか分からなかったのか! 魔王が命令を解いて配下に好きにしろと言う意味が!」


基本的に魔族は多種族を滅ぼす事を好む。

弱者を虐げ、喰らい、虐殺する。

しかし今までそれをせずに共闘していたのは、人類を倒す為に、代々の魔王が盟約を結んでいたからだ。

しかし、その盟約は破棄された。

魔王の命令から解放された魔族は本来の性質に戻ったのだ。

元より多種族との共存意識などない。

喰うか喰われるか、魔族にはそれしかないのだ。


「あ、あぁ……アァァアアア!!」

ようやく意味を理解したエルフ王は絶叫した。

人類を殺し尽くした魔族の次の標的は自分達なのだ。

時すでに遅く、世界は魔族によって滅ぶだろう。




「アホだなあ……あのエルフ」


その様子を真っ白な空間から見ていた翼は呆れたように言った。


「だから魔王のうちに命令するって言ったのに」


翼が世界から立ち去る前に魔族に伝えたのは簡単なものだった。


『もう魔王は現れない。だからお前らは、お前らのやりたいように、好きにすればいい』


自分はこの世界の住人ではないのだから、後がどうなろうと知ったこっちゃない。


「魔族の特性を理解してりゃ、ちょっと考えると分かるのによ」


そんで、と翼は後ろの神々を振り返った。


「もうあの世界は綺麗サッパリ消して、新しい世界を構築した方が良さげだぜ」

「…………」

「あと、あの駄女神はもう少し神様としての教育をしとけ。あのまま放置したら、またやらかすぞ」

「…………」

「約束は守ったからな、家に帰せよ」

「……承知した」


翼の所業にもう何も言いたくないとばかりに、神の一人が手を翳かざす。


「最後に言っとくけど」


消える直前、翼は吐き捨てるように言った。


「もう二度と喚ぶなよ」

「安心しろ。頼まれても喚ばん」






そよそよと吹く風が心地よい。


「おかわりをお持ちしましたよ」


執事の声に翼は目を開いた。

手に持つのはお気に入りのティーカップ。

口をつけると紅茶は冷めてしまっていた。

恐らく執事が場を離れてから20分ほどだろう。

あの世界には約7日ほどいたが、ちゃんとこちらの時間に合わせて帰してくれたようだ。


「辻井、淹れ直してくれないか」


カップを差し出す主人に執事は少し微笑み、かしこまりましたと答えた。

今日も世界は平和だ。



                 終

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