篠宮さんと魔王召喚・1
オオオオォォ……
まだ昼の時刻だというに、澄んだ空から目映い陽光は奪われ、かわりに禍々しい赤黒い闇が瞬く間に世界を覆い尽くした。大地からは瘴気が立ちのぼり、闇に触れた生けるものの命は腐り果て、おぞましい異形の軍勢がじわじわと進軍して来ている。
それは紛うことなき、魔王配下の闇の軍勢であった。
咆哮とも叫びとも嗤いとも取れぬ数多の声が混じり合って空気を震わせ、命を奪っていく。
オーガやゴブリン、アンデッドなどの魔物を従えた魔族率いる魔王軍が人間界を席巻せしめ、すでに3つの大国と周辺の小国及び属国が地図から消えた。そして何故かエルフやドワーフといった、中立を保っているハズの種族までもが人間族の敵に回っていた。
「怯むなっ、恐れるな!ここで我らが持ち堪えねば人は滅ぶぞ!」
残された人類は国を越え手を取り合い、魔王軍に立ち向かうべく大軍勢を編成し、これを迎え撃つ。
各国の軍に加え、ランクに関係なくSS級から最下位のF級の冒険者までもが勇気を振り絞り、遊軍として各々の武器を手に取りこの戦いに加勢した。
元より人類が負ければ冒険なぞ続ける事も出来なくなるのだ。
魔術師達が巨大な防御結界の術式を編み、加えて前衛の兵士達にも支援魔法でバフをかける。
東大陸と西大陸、双方より馳せ参じた夥おびただしい人間の怒号で大気はビリビリと震え、数十万の人間が移動する事により大地は凄まじい地鳴りが発生していた。
甲冑を装備した歩兵隊はそれぞれに剣や槍、弓矢を持ち、先頭に立つ騎兵隊が迫りくる闇の前に隊列を組んだ。そう、ここは戦場である。
「槍兵隊ッ、構えエエ――ッ!!」
『オオオオオオオ!!』
指揮官の号令に応えた槍兵隊が横一列に並び、前方に槍を構える。彼らが手にする槍は一般的に知られている物より遥かに長く、4メートル近くはある代物だ。
これは15〜17世紀のイタリアやドイツで使われたパイクと呼ばれる長槍であり、隙間なく並んだ槍兵達は「応ッ!」と掛け声を合わせると、突進して来る敵を迎え討つ為に一斉に槍を突き出した。
ズズズ、と闇の中から現れたのは異形の魔物の群れだ。
人より数メートルは大きい、その魔物にたかだか槍などで対抗しうるものだろうか?
否、それは後衛で隊列を組む魔法使い達、そして賢者や聖騎士、聖女、剣聖といったレアスキル持ちの働きいかんによって戦局は変わると言っても過言ではない。敵の軍勢の中から角を生やしたブラックユニコーンの騎兵隊が突撃して来る。
本来なら剣や弓で到底、敵うものではない。
生身でトラックを受け止めるようなものだ。そこで編み出されたのが長槍による迎撃法だった。
槍のリーチが長いので剣や騎兵の攻撃が届きにくく、接近戦より遥かに安全に敵を倒せるからだ。
「東帝国第2師団指揮下、第1連隊から第4連隊ッ、突撃ィ――!」
「西王国第3師団指揮下、第2連隊、第3連隊ッ、迎え討て――!」
槍先にかけられた魔法が激突と同時に発動し、人類連合軍の指揮官の命令によって数十万にのぼる兵隊達が魔王軍とぶつかり合い、乱撃戦となった。
土埃と怒号、剣と剣が交わる金属音、馬上で槍を振るう槍騎兵、絶えず飛び交う矢、舞う血飛沫。
魔法による爆発や雷。
人類も魔族も魔物も、種の存続のために命がけで戦っている。
だが奇妙なのは、この戦争には戦車も銃もない。
戦闘機も飛んでいない。大砲すらない。近代兵器と呼べるものが一切ない。
せいぜい、投石機くらいしかない。純粋に生身同士がぶつかり合う戦い。
まるで中世時代の戦争じゃないか。
それに東帝国と西王国なんて国、自分が知る限り地球上のどこにも存在していないし、何より魔法なんてあるハズもない。
わぁわぁと戦う兵士達を眺めながら篠宮 翼は冷めた紅茶をズズッと飲み、斬り飛ばされた兵士の首が眼の前でビューンと横切っていく光景に頭を痛めた。
何だかなあ……なんて説明すりゃいいの、コレ。
現在、翼がいるのは見知らぬ土地で行われている戦場のド真ん中だったのだ。
己の状況を把握する為に篠宮 翼は思い返した。
記憶に間違いがなければ、さっきまで東京の自宅でティータイムの真っ最中だったハズだ。
毎日毎日クソほど仕事に忙殺されており、ひと息つけるこの時間が何よりの至福である。
今日の紅茶はダージリンでもまろやかな甘みのあるオータムナル、お茶菓子はクリームをたっぷり添えた執事お手製のシフォンケーキと、サンドイッチやスコーンの軽食。
天気も良いのでテラスで優雅にティータイムと洒落こむ事にする。小腹が減っていた事もあって、テーブルに着くや瞬く間にサンドイッチを完食しておかわりを所望する主人の食いっぷりに、呆れた様子で執事が追加を取りにその場を離れた。
だって美味いんだもん、しょーがねぇじゃん。
疲れている時の美味いものは体にも心にも沁み渡る。
執事を待つ間、翼は愛用の煙草に火を灯して深々と紫煙を吸い込んだ。
トンと灰を落とし、いくぶんか温ぬるくなった紅茶をひと口飲んで顔を上げたら……ココにいたのだった。
本当にポンッ!て感じで。
「………あ?」と翼がグルリと辺りを見回すのと、凄まじい怒号が響くのが同時だった。
……うん、私の記憶に間違いはねえ。
ティーセットと共に戦場に放り出された翼は、しばらく戦況を観察していたのだが、ある事にふと気づいた。
恐らくだが、ティーテーブルを含む半径3メートル内には誰も侵入が出来ないようなのだ。
スケルトン兵と人間兵士が剣を交えながらこちらに近づくも、テーブルを綺麗に避けて戦いながら去って行く。よくよく周囲を見回せば砂粒ひとつ、血の一滴も飛んでこない。
「ふーん、一種の結界のようなもんか?」
呟いて立ち上がった翼は偶然、こちらを見た人間の兵士と『目が合った』。
その瞬間だった。突然バチン!と弾けたような衝撃が走り、遠くに感じていた戦場の喧騒が耳を塞がんばかりにうるさく聞こえてきた。
「なっ、なんだ、貴様!?」
何もない空間から得体の知れない人物がいきなり出現したように見えたのだろう。およそ場違いな風体の翼に人間がギョッとする。
先ほどの衝撃は、翼とこの世界を隔てていた『何か』が取り除かれた事によるものだろう。
はっきりと翼は彼らに認識され、瞬く間に警戒と敵意を持った兵士達に取り囲まれた。
ティーテーブルもティーセットも無残に薙ぎ倒され、お気に入りだったカップも粉々に踏み砕かれた。
くそー、アレわざわざイギリスまで行って買って来た物なのに。
ブチギレかけたが、ここで暴れて面倒な事になるのも癪だ。
取りあえず挨拶だけして、サッサと退散するに限る。
「どーも、通りすがりの人狼です」
スチャ、と軽く手を挙げた翼のセリフに人間兵は見る間に顔を強張らせた。
すでに日は落ち、夜の帳が下りている。
この日の大規模な戦闘は終息しており、魔王軍と人間軍が撤退した後には、辺り一面に双方の軍の死体がゴロゴロと転がっていた。
漂う腐臭と血の匂いは凄まじく、鼻を摘まんでも匂いが突き刺さるほどである。
地面も一歩踏み出せば、血溜まりの中に足を突っ込むくらいにビシャビシャで、常人ならば決して近寄りたくもない壮絶な戦跡であった。
その無数の死体の中に篠宮 翼の姿があった。
カッと目を見開いたまま俯せに倒れた翼はピクリとも動かず、一目で絶命しているのが分かる。
それもそのはず、彼女のうなじから喉にかけて真っ直ぐ槍が貫き、全身も剣や弓矢が無数に突き刺さっているのだ。まさに串刺しとはこの事だ。
……肉体損傷修復完了。
……呼吸機能修復完了。
……蘇生完了生命活動再開。
かすかに意識を取り戻した時、そんな声が聞こえた。
ゴホッ……と咳き込みつつ、パチパチ瞬きする翼の目に光が戻ってくる。
顔を顰しかめつつ、ゆっくりと起き上がった翼は己の首に突き刺さっている槍と、こめかみに刺さっていた矢を引き抜いた。残った傷痕は蠢き、すぐに肉が盛り上がって再生を始める。
「あ゛、あ゛ー、あ゛ー」
口から発せられた声は音割れしていて、ひどく耳障りだった。
うぅん、と咳払いした翼は一度口を閉じ、ゴロゴロと喉を鳴らしてからカーッ、ペッと血の塊を吐き出す。
まるで酔っ払いの中年サラリーマンのおっさんみたいで、まったく品のない事この上ない。
「あ、あ、あーあーあー」
ようやくマトモな声を出せて、翼は体中に刺さっている剣だの弓矢だのズボズボと引っこ抜いた。抜いた後の傷は見る間に塞がっていくのだが、刺されたり斬られたりして破れたスーツは元に戻るわけではない。
懐から取り出した愛用の煙草は奇跡的に無事で、1本を咥えて火を灯し深々と吸い込んで紫煙を吐き出す。
煙は血の匂いを纏った風に乗って散った。
「……あンの、」
ボソリと呟き、翼はギリギリと歯を軋ませた。
そのせいで咥えた煙草が噛み千切れて口から落ちる。
あのクソ人間共がぁぁぁぁ!!
ぶちぶちぶちぶちぶちぶちッ。
怒りMAXでブチギレた翼の顔は般若のようだ。
……召喚者の怒りを確認しました。
……ステータスを書き換えますか?
なんか脳内に声が聞こえてくるが、怒り心頭の翼はそれどころじゃなかった。
「人の話を聞きもしねぇで、何々だアイツらっ!?」
口からビーム吐きそうなくらい吼える翼は今回は悪くない。
確かに場違いな登場ではあった。
殺し殺されの戦争のド真ん中で、優雅にティータイムしている奴なんぞいるワケない。
最初に目が合った、あの人間の兵士達が翼を不審な輩と思うのもムリはなかろう。
そこは仕方ない、翼だって我が家にいきなり変なヤツが現れたら勢いでウッカリ殺す(いや殺すなよ)
だが言語は通用するみたいだし、邪魔をする気もないので巻き込まれないうちに挨拶だけして、サッサと帰るつもりだったのだ。
元より、どっかの異世界の戦争なんぞ翼には1ミリも関係ないし、誰が死のうが興味もない。
それが魔法使いっぽい別の人間が翼を指して、
「こやつ、人間ではないぞ、亜人だ!」
と叫んだ途端、ワラワラと兵士に囲まれ武器を突きつけられたのだ。
「えーっと、待った待った。私は無関係だって」
「貴様ッ!亜人ごときが人間に対して何だ、その口の利き方は!」
「大人しく奴隷として従っておけばいいものを!」
はて?いきなり種族差別?
つーか、亜人亜人って、私は人狼ですけど?
敵意はないと示す為に両手を軽く挙げていた翼は、彼らの物言いにちょっとカチンときた。
「間違いない、鑑定によると人狼とある」
翼を亜人だ!と指した魔法使いっぽい、もう魔法使いと呼ぼう……が超凝視してくるので、恐らくこっちの正体を見抜く能力でもあるのだろう。
「あのさぁ、ガッ!?」
翼は言葉を続ける事が出来なかった。
喉から槍先が突き出ていたからだ。
背後にいた槍兵が問答無用で攻撃したのだ。
「ぐっ……ァッ」
さすがにいきなり殺しに来るとは予想外だった。
完全に油断していたのは己の落ち度だ。
タヒュンッと風斬り音と共にこめかみに弓矢が突き刺さり、翼の体が大きく揺らいだ。
この攻撃で瞬時に絶命しなかったのは人狼がゆえだ。
「こ、こやつ、まだ死なぬぞ!?」
「刺せっ、殺せっ!」
避ける事も出来ず、横から前から背後から、槍や剣や弓矢がドスドスと翼の体に突き立てられていく。
「く、そ……テメ、ェッ」
大量出血で急速に意識が遠のき、たまらず翼は膝をついた。
喉元を貫いた槍のせいで呼吸が出来ず、ひどく寒くて体が動かない。
わぁわぁと騒ぎ立てる人間共の声を聞きながら翼の呼吸が止まり地に伏したが、人間達はそれでも容赦なく武器を突き立て見る間にズタズタにされていく。
「止めぃっ、止めぃ!」
ようやく現れた指揮官の命令で兵士達は退いたが、彼らの足元に倒れている死体に指揮官はウッと顔を顰める。
「そやつはもう死んでおる!敵はまだ迫って来ているのだ、早く持ち場に戻れ!まだ敵はいるのだぞ!」
兵士達に命令を下した指揮官は死体に一瞥くれると「このような場所にノコノコと現れたお前が悪いのだ」と呟き、立ち去って行った。
それが数時間前の出来事だった。
「くそったれ!」
ピンポーン、ピンポーン。
【ステータスを書き換えますか?】
「あぁっ!?さっきからうっせえな!」
「……あの、少しよろしいだろうか?」
キレ散らかした翼が叫んだのと、声をかけられたのは同時だった。
大規模戦闘から7日後。
東帝国の帝都にある王城にて、勇者召喚の儀式が行われていた。
魔王軍に対抗する為、東帝国は西王国と数百年に渡り一時協定を結んでいるのだが、あの戦闘の後に双方間で何故か連絡が取れず、送った使者も偵察部隊も戻って来ない。
否、西王国だけでなく他国とも連絡が取れない。
つまりのところ、この重大な危機で情報の入手が出来なくなっているのだ。
非常事態下で情報は大事な生命線だ。
そして最も重要な事がある。
今回の戦争において、西王国が勇者召喚を行った事実はあるのだが、肝心の勇者が現れたという情報がこちらにはもたらされなかった。
魔王という共通の敵を前にして、西王国がこちらを裏切った可能性は考えられない。
両国の関係は良好であった。
それに魔王軍は必ず百年周期で人類に攻め込んでくる為、勇者召喚術が伝授されている東帝国と西王国が交代で召喚の儀を行い、魔王軍を退けていた。
召喚には膨大な神聖力と魔力に加え、それを操る大勢の神官や魔術師を必要とするので、片方の国だけに負担を強いる事は出来ないからだ。
この世界の誰よりも強力なスキルとステータスを持って勇者は召喚される。彼らのおかげで人類は現在まで滅亡せずに済んでいた。
そして今代では、西王国が召喚を行う番だった。
数ヶ月前に魔王軍の侵攻が確認されてから、西王国より勇者召喚を行う旨が東帝国に伝えられていたが、今日まで召喚に成功したという報告がなく、失敗した可能性があると判断した東帝国の皇帝はこちらでも勇者召喚を行う勅命を出した。
これは両国間で取り決められていた事でもあり、どちらかが召喚に失敗した場合は速やかにもう一方の国が儀式を執り行う事になっているのだ。
大聖堂の奥にある儀式の間では、大司教を始めとした神官と魔術師達が円陣を組み、床一面に描かれた魔法陣へ神聖力と魔力を注ぎ込む。
するとどうだ。魔法陣が光り輝き、同時に大人数の影が現れたではないか。これが東帝国に古来より伝えられている勇者召喚の儀であった。
「うわっ、」
「な、なんだ!?」
「なになに!?何なの!?」
儀式の間に現れたのは皆、同じような服を着ている少年少女達だ。この世界の人間は知らないが、学ランとセーラー服の一団はどう見ても日本の高校生である。
恐らくクラスごと召喚されたのだろう。
「成功しましたぞ!」
「おおっ!」
皇帝を筆頭に、儀式を見守っていた宰相や騎士団長が大歓声を上げた。
「よくぞ来た、異世界からの勇者たちよ!」
ざわつく彼らに、皇帝が大袈裟な身振りで声をかける。
そこからはよくあるお決まりの異世界召喚のストーリーだ。
魔王に滅ぼされそうな世界を救って欲しいと頼む皇帝に、少年少女達は色めき立った。
「やった!憧れの異世界召喚だ!」
「て事はァ、俺達もチートスキルが貰えるわけ!?」
流行りの異世界ものを実体験できるという事に喜ぶ彼ら。
さすがサブカル最強国・日本で育っただけあって、理解と順応が早い。
大司教が一歩進み出て「実は」と話し始めた。
「人間界に魔王軍が侵攻して来ているとはいえ、魔王そのものは顕現していないのです」
「どういう事です?」
メガネをかけた優等生っぽい少年がクラスを代表して尋ねた。
「現在、こちらに侵攻している魔王軍は顕現するであろう魔王の気配を感じ取り、先攻に出ているのです。指揮官は魔王直属配下の四天王と呼ばれる高位魔族です」
そうなのだ。これだけの戦争をやっているのに、いまだ魔王は現れていないのだ。魔族達は魔王の気配に呼応して自発的に動き出しただけに過ぎない。
「ですが、貴方がたが召喚された事はもう魔王軍には伝わっているでしょう。魔王はすぐにでも顕現するはずです」
「そなたらには魔王を倒す為のステータスが備わっているであろう。『ステータス』と言えば各々の能力が表示されるのだ」
では早速とばかりに、少年少女達はそれぞれ「ステータス!」と叫び始める。
「やった、オレは剣士だ!」
「私は治癒師よ!」
その中から「おおっ!」と声が上がった。
いかにも陽キャでリーダー格の少年が勇者のステータスを持っていたのだ。
他にも顔立ちの良い、いわゆる美人の部類に入る少女が聖女のステータスを授かっているし、先ほど質問をした優等生は賢者だった。
「皇帝陛下!」
大司教がやや興奮した面持ちで皇帝を振り返った。
「素晴らしいですぞ!これだけのステータスを持った召喚者が複数現れたとなると、魔王軍と対等かそれ以上の戦果が期待できるでしょう!」
その時だった。儀式の間の外が急にやかましくなり、人の怒号や剣が交わる金属音が聞こえたかと思うと、バターンと扉が勢いよく開かれ2つの人影が現れた。
「はーい、お邪魔しまーす♪」
「何奴じゃ!」
「どーもー、篠宮 翼でっす☆」
ふざけた調子で敬礼する謎の人物の隣に立つのはエルフ族の戦士だ。2人のうち、名乗った人物を見た騎士団長が「あっ!」と声を上げた。
7日前に突如、戦場に現れた人狼だったからだ。
「き、貴様……確かに死んだはず……!」
「私ってチートだから死なないんだよね。つーかさあ……よくもブッ殺してくれやがったな?」
煙草を咥え、愛用のジッポで火を灯した翼は深々と吸い込み、紫煙を吐き出して騎士団長をギロリと睨みつけた。その瞬間に殺気が迸り、その場にいた人間達はゾッとして身動きが取れない。
「な、なあ、篠宮って、アンタも日本人なのか?」
学生の一人が勇気を振り絞って、恐る恐る声をかけてきた。
「……あぁ、なるほど。『こっち』でも召喚がされたのか。どーせ、魔王が人間を滅ぼすから手伝えって言われたんだろ。騙されてるぞ、お前ら」
話しかけた学生とその他のガキ共を一瞥してから、翼は再びプカ〜っと煙を吐く。
「このエルフの兄ちゃんに話は聞いたぞ、人間共」