・ゲームならゲームとして私は開き直る
避暑の季節が終わり、ハスタとあのチビが王都へと帰ってしまった。普段図太い私が別れに涙を流す姿を見て、父さんは『娘の泣き顔を見てホッとしたの初めてだよ』と失礼なことを言っていた。
それだけ私にとって、侯爵令嬢ハスタトゥースは特別な人だった。
同じ女性として見てもまだ小さいのに綺麗で、それに同じ過去を持っていて、気弱なところが庇護欲を誘った。
ともあれ避暑が終わった。別荘地のお金持ちたちも大半が己の土地に戻り、テーバイ男爵領は元の日常を取り戻した。
ということで、さあ始めよう! 私はツルハシを担ぎ、今日のために新調したヘルメットを斜めにかぶり直してお屋敷を出た!
今日も朝から爽やかないい天気だ。今日から気持ちを入れ替えてがんばろう。この世界はゲームだ。ゲームならゲームで私は別にかまわない。それにあの攻略本が正しいならば、鉱山で働くと筋力と根性が飛躍的に上がる。この情報は収穫だった。
「お待ち下さいお嬢様っ、どこへ行くおつもりですか!?」
そんな私の背中を、うちのメイドと執事が大騒ぎで追いかけてきた。
今日も綺麗な庭だ。お金持ちの接待にもなって、暮らす私たちも気持ちがいい。管理された広い庭とはいいものだった。
「どこって、炭鉱だけど?」
「炭鉱だけはお止め下さい! 私たちが旦那様に叱られます!」
「あんなにやさしくてかわいかったお嬢様がなぜこんな、肉体労働が大好きなある意味理想的な労働者になってしまったのだ……」
どうしてと言われても、この新しい身体を動かすとそれだけで楽しいからだろうか。おまけに炭鉱に行けば、レベル上げになるならやるっきゃない。
「お婿さんを頼りにするなんて間違ってるよ。私は愛するこの土地を、自分の力で繁栄させていきたいの。だから炭鉱に修行に行く! お父様にはそう言っておいて」
「お嬢様っ、お待ちをっ、どうかお待ちを! ダナエーお嬢様ーーっっ!!」
なんだかこういうの、昔読んだおてんば姫の物語みたいだ。私はツルハシを背負って石炭鉱山まで走って、細く狭い坑道で汗水をたっぷり流した。
・
結果は期待通りだった。力が見る見るうちに成長して、1年間ガッツリと炭鉱に通ったら、なんと大岩をツルハシ一撃で破壊できるようになってしまった!
凄い、まるで少年マンガみたいな身体だ! 乙女ゲーとやらにこういうキャラがいていいのかはわからないけれど、私は凄く強くなった!
攻略本によると引き替えに慎ましさとかいう、どうでもいいステータスが下がるらしい。下がったところでなんの意味があるのか私にはわからない。だから何も問題なしだった。
ということで9歳になったので、今日からは炭鉱を卒業して別のことを始めることにした。今日もメイドと執事が飛んできて、私を見送ってくれた。
「お嬢様、お待ち下さいっ、炭鉱だけは止めて下さいと、あれだけ言っているではないですかっ!」
「炭鉱のバイトはもう止めたよ。ちょっとそこまで行くだけ」
「ちょっとそこというのは具体的にどの辺りですか!?」
「王都行きの荷物待ちのバイトだけど?」
「あの……なぜお嬢様が、そんな仕事をされるのですか……?」
「ええ、それもまた日雇い労働者たちの仕事ではないですか……」
「うん。でも魅力と取引スキルが伸びるらしいし、都に行けばハスタに会えるし、いいことしかないじゃない。ということで、行ってきまーす! あ、父さんたちには、社会勉強に行ってくるって伝えといて!」
パワーでゴリ押すのが私の好みなのだけど、将来を考えればこの2つは役に立つ。私は愛する男爵家の未来のために、護身用のツルハシを担いで旅に出た。
「危険ですお止め下さい! まだ貴女は9歳の男爵令嬢なのですよっ!?」
「大丈夫! 悪い奴はこのツルハシでドカン!だから。父さんには半月後には帰るって言っておいてね!」
「半月ッ?! 半月はいくらなんでも長すぎです、お嬢様……っ」
あの攻略本に載っていた仕事は、王都でなければできない物が多かった。
こうして私は荷物を抱えて徒歩の旅をした。やがて王都にたどり着いた私はハスタの屋敷を拠点にして、あの攻略本をまた見せてもらいながら、アレに載っているありとあらゆる仕事を身に付けていった。
もし少しでも気に入ってくださったら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。
次回更新、短くなります。