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山ン本怪談百物語

廃墟のカラオケボックス

作者: 山ン本

こちらは百物語四十一話になります。


山ン本怪談百物語↓


https://ncode.syosetu.com/s8993f/


感想やご意見もお待ちしております!

 仕事の関係で、とある有名カラオケボックスの廃墟へ行った時の話です。


 このカラオケボックスは、営業中に店長が「行方不明」になってしまい、数日後にスタッフもすべてやめてしまったという「曰く付きのカラオケボックス」でした。


 どういうわけか、営業時に設置されていた機材もすべて残されており、当時使われていた書類やスタッフの私物も置きっぱなしという不思議な場所だったんです。


 私と先輩は封鎖されたカラオケボックスの駐車場に車を停めると、すぐに店の出入口へ向かった。


 「このカラオケボックス、鍵もかかってないんだよ。前のスタッフたちは何してたんだ…」


 カラオケボックスの中へ入ると、小さな受付とドリンクバーの機械が目に入った。


 「本当に置きっぱなしなんですね…」


 カラオケボックスの中は、全体的に埃っぽくなっていたが、すぐに営業が再開できると思えるほどちゃんとした状態を保っていた。


 「俺はスタッフルームを見てくるから、お前は個室の状況を見てきてくれ」


 先輩はそういうと、受付の奥にあるドアの中へ入っていった。


 「全部しっかり確認しろよ!何かあったらすぐに俺を呼べ!」


 私は先輩の声に返事をした後、すぐに近くの個室へ入ってみた。


 「ここも埃っぽい…機械も置きっぱなしだし…本当にどうなってるの?」


 個室はすべて同じタイプだ。どの個室も荒らされた形跡は少なく、営業時とほぼ変わらない状態だったと思う。しかし…


 「ひぃ!?ゴ、ゴキブリ!!」


 どの個室にもネズミやゴキブリがたくさんいた。荒らされている場所は少ないが、人が住める場所ではない。


 しばらく個室を見回っていると、とある個室から奇妙な音が聞こえてくることに気がついた。






 ♪…♪…♪…


 (さて…こ…の…さい…きょ…わ…)






 「…音楽?」


 一番奥にある個室から、音楽のようなものが聞こえてきた。誰かが話しているような声も聞こえてくる。


 「えっ?このカラオケボックス、一応廃墟だよね?」


 よく見てみると、明かりのようなものも見える。予想外の状況に立ちすくんでいると、調査を終えた先輩が私の元へやってきた。


 「おい、そっちはもう終わったのか?」


 近づいてくる先輩に向かって、私は音楽が聞こえてくる個室を黙って指さした。


 「…なんだありゃ?」


 先輩も予想外だったらしく、しばらく私と一緒に黙って個室を見続けていた。


 「お前、あれ…どういうことだ…?」


 「し、知りません…!誰か…いるんですかね…?」


 混乱して動けない私とは逆に、意を決した先輩が声をかけてみた。


 「すみません、私たち〇〇から来たものです。どなたかいるんですか?」


 先輩が声をかけても、個室から返事は返ってこない。


 「開けっ放しのカラオケボックスだ…誰かが勝手に住んでいるのかもしれん…」


 先輩は個室の前へ立つと、勢いよくドアを開けた。


 「ちょっと!勝手に入っちゃダメで…えっ?」


 個室の中を見た先輩が急に固まってしまった。私も慌てて個室の中を覗き込んでみる。


 「な、なにこれ…?」


 個室の中は、とても綺麗な状態だった。カラオケの機械に電源が入っており、テーブルの上には食べかけの料理が置かれていた。


 それは「ありえない」ことであった。


 「そ、そんな…店の電気は止められているはずだぞ?」


 この個室には、人のいた気配がはっきりと残っていた。テーブルの料理はまだ温かく、店のロゴが入った皿の上へ綺麗に盛り付けられている。


 「ちょっと課長へ連絡してくる!ここで待ってろ!」


 焦った先輩は、携帯電話を持って勢いよく外へ飛び出していった。


 先輩が個室から離れて数分後…






 プルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルッ!






 個室に設置されていた内線電話が突然鳴り始めた。


 「ど、どうしよう…」


 私は少し悩みましたが、思い切って電話に出てみようと思いました。先輩が内線の状態を確認するためにかけてきた可能性も考えられたので…


 「…もしもし?」


 電話に出てみると、受話器の奥から砂嵐のような音が聞こえてくる。


 「あの…先輩ですか…?」


 こちらから問いかけてみても返事はない。


 「だ、だよねぇ…廃墟の内線なんだから…」


 安心した私は、すぐに受話器を戻そうとした。次の瞬間…






 「ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」






 受話器から謎の「奇声」が聞こえてきた。


 驚いた私は、思わず受話器を床に落としてしまった。私はそのまま勢いよく走り出すと、先輩がいる駐車場へ向かった。






 数分後…






 私は先輩と一緒に、再びあの個室の前へ戻ってきました。先輩に事情を話した後、2人で恐る恐る個室の中を覗いてみる。そこで見たものは…


 「な、なんだ…どういうことだ…!?」


 ボロボロに劣化したあの個室だった。個室の中は埃だらけになっており、テーブルの上に置かれていた料理はカラカラに干からびていた。


 「先輩…確かにこの部屋でしたよね…?」


 念のためにほかの個室も確認してみたが、どの個室も同じような状況だった。私たちが見たあの個室は、すっかり消えてしまっていた。






 数分後、会社の上司から連絡があり、すぐに会社へ戻ってくるように指示を受けた。今回の仕事は「中止」という結末で幕を下ろした。






 数日後、私は上司にあのカラオケボックスについて話を聞いてみることにした。すると…


 「あぁ、あそこはねぇ…霊能力者の人が見たところ『霊界に半分入ってる場所』なんだって。お祓いしても意味がないから、もう立ち寄らないほうがいいみたいだよ」


 あのカラオケボックスは、霊能力者の間では有名な「禁足地」だったらしい。


 土地や建物に幽霊が憑りついているわけではなく、あの場所自体が半分「霊界」に入っているというとんでもないところであった。


 数ヶ月後、あのカラオケボックスは取り壊されたと聞きました。しかし、作業中に作業員の怪我が続出し、通常の2倍以上時間がかかったそうです。






 禁足地といえば、古い神社や立ち入り禁止の森などを想像しますが、案外身近なところにも存在するかもしれませんね…

ゴールデンウィークということで「廃墟」の短編怪談を3話書きました。


こちらで最後の短編になります!


来週は急な用事が入ってしまったため、百物語はお休みにします。


ごめんなさい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少し前まで人のいた気配があり、食べかけの料理が残っている所は、マリー・セレスト号の怪談を思い出しました。 空間ごと霊界に入りかかったカラオケボックスには、長時間留まっていた人も霊界に行って…
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