次の超人
9-7
二人の刑事が焼津に到着したのは夕方に成って、井尻船長の友達と言う事にして夕食に参加する事に話が纏まっていた。
香澄達の乗ったタクシーは善通寺に到着したが、既に超人の姿は無かった。
テレパシーで探すのだが消えていた。
「眠っているのかも?」
「眠って居たらコンタクト出来ないの?」
「完全に眠って居たら無理よ」と二人が話をしていたら、石巻運転手が「何の話し?超人と話が出来るのか?」
「実はね、この人も超人なのよ」
「えー、本当、可愛いお嬢さんが?」と驚き声を上げる運転手だ。
「だから、協力してよ、超人が目覚めるまで此処で頑張って!」
「嘘だろう?信じられない、週刊誌の記者だろう?」
「じゃあ、見せてあげる、アクセル踏み込んでも車走らないから」
「えー、何故?」
「車が浮くのよ」
「嘘だろう」そう言いながらアクセルを踏むとタイヤが空回りをした。
「わー、本当だ、判った!降ろして」
「アクセルから離して下さい」
「凄い、物をうごかせるのか?イギリスの超人と同じなのか?」
「あの人は、私より数倍強い力を持っているのよ、私は一トン程度までね」
「一トン?凄い、協力するよ、何でも協力します」と笑顔に成って、貸し切りの値段まで自分が自慢出来ると考えて安くしてくれたのだ。
記憶は香澄の能力で消される事も知らないで付き合ったのだ。
村中保は井尻船長の自宅で魚ちり鍋を振る舞われて上機嫌、二人の刑事は船長の友人で参加していた。
ビールを飲んですっかり、酔っ払うと村中は眠ってしまった。
「弱いですね、もう寝てしまいましたよ」
「ビール一本で?」一人の刑事が呆れて上着を脱がせた。
「同じだ」
「ハサミ有りますか?」
船長がハサミを持参して、布を切ろうとしたが全く切れない。
「切れませんよ、不思議な布ですね」
「全く普通の人間だな」
「幾つだろう?」
「ああ、三十六歳と話していました」
「海を泳いでいたのですよね」
「はい、何も持たないで、何処から来たと尋ねたら、指で空を指しましたよ」
「飛行機から落ちたのかな?」と一人の刑事が言うと「太平洋の真ん中に一人で?」と不思議そうに言った。
「この謎は解けないだろうな?」
「じゃあ、写真を持ち帰ろう」そう言いながら、携帯で数十枚の写真を撮影した。
村中は全く泥酔状態で眠ったままだった。
「どうしましょう?村中さん?」
「県警に連れて帰りましょうか?」
「そうだな、このまま船長に預けても身元は判らないから、名古屋の件も有るからな」
三人で抱えて車に乗せて、静岡に戻る二人。
「今晩何処に泊めます?」
「犯罪者ではないから、俺の家か!」
「ですね、独身ですからね」
「折角、家を借りたのに、最初のお客さんが変な男か?」
「奥さんの為でしょう」
「判るか?」
「当たり前ですよ」
刑事は最近一軒家を借りていた。
交際相手が一軒家を希望したから、二人でお金を出して借りたのだ。
もうすぐ、結婚だとみんなも知っていて、この刑事的場の自宅には毎日の様に英子が来ていたのだ。
その夜も酔っ払った村中を、的場が自宅に抱えて連れ込んだ時には英子が来ていて「どうしたの?この人?」
「こんばんは、酔っ払いです」と若い刑事小林が英子に会釈をした。
的場が「今晩泊めてやる事にしたのだよ」
「えー、こんなに、酔って何を飲んだの?」
「それが、ビール一本」
「えー、ビール一本で?何よ、それ?」
「すみません、犯罪者でも無いし、身元が判らないからね、小林のマンションは手狭だから頼むよ」と的場が英子に謝った。
「水飲ませてみたら」全く酔っ払って正体の無い村中に、英子がコップの水を飲ませた。
しばらくして目覚める村中に「あっ、気が付いた」英子が嬉しそうに微笑むと「此処は?船長は?」
「私の家だよ」と的場が言うと「的場さん」小林を見つけると「小林さん、すみません、急に気持ちが良くなって眠ってしまいました」
「今夜は此処で泊まって下さい」
村中の酔いが覚めて、リビングのソファに座ってテレビを見始める。
英子はコーヒーを作って台所から持って来る。
テレビでは天才の対決番組を放送していた。
村中は楽しそうに見ながら「幼児の番組?」と尋ねた。
英子はコーヒーをテーブルに置いて「物理とか数学の計算をする番組よ、私にはこの人達の頭の構造は判らないわ」と言った。
するとテレビを見ながら「これは、二番の男性が正解だ」と口走った。
「あら、判るの?」
「幼児教育ですね」
「はあ?」正解は二番の男性だった。
次の問題に成ったら「これ正解は無いよ」横に座って英子が興味を持つ。
「的場さん!コーヒー入っているわよ」と隣の部屋の二人を呼んだ。
村中は「これは、3.66が正解だよ」と独り言の様に英子に話す。
テレビで正解が発表されて「的場さん、こちらに来て!」と今度は声が大きく成った。
「どうした」と二人がリビングにやって来た。
「村中さんって天才よ」
「何が?」
「この問題次々と答えて、幼児教育だと言うのよ」
テレビでは次の問題が出て司会者が今夜の最大の難問ですと発表した。
すると村中は僅か数秒で「8,297が正解だ」と言ったのだ。
テレビの画面ではパネル一杯に計算式が書かれて、三人の回答者が必死で計算をしている。
三人の目がテレビに釘付けに成る。
五分が経過しても答えが出ない、録画だろう、字幕スーパーで時間が表示されて十分で一人が答えを書いたが村中の数字と異なっていた。
すると村中が「最後から、五番目の計算が間違っているよ」と笑ったのだ。
「村中さん、あの計算が判るの?」
「はい、簡単ですよ」と微笑んで答えた。
やがて一番時間の掛かった男性が村中と同じ数字を書き込んで優勝した。
三人は改めて村中の顔をのぞき込んで「貴方、何者?」と英子が不思議そうに尋ねた。
二人の刑事は応接室に入って「不思議な人物だ、明日、名古屋の警察と相談してみよう」
「僕、帰ります、朝また来ます」
「頼むよ」小林は自宅に帰って言った。
香澄と輝はタクシーで待機をしていた。
夕食を食べてから、またタクシーに戻ってきたのだ。
石巻は自分の会社に「超人の調査に週刊誌の記者を乗せて、貸し切りです」と報告をして「これで、トコトン付き合うよ」と気合いが入っていた。
しばらくして「反応が有った、北よ」
「判った」と車が発進した。
「近く?」
「距離が有るから、届かない」と香澄が言うと輝が「このまま北に行くと海よ」
「いや、橋かもしれない」
「橋?」
「はい、瀬戸大橋を移動しているのかも」石巻が言うと「そうかも、高いから」
「近づいているの?」
「はい、もうすぐ、テレパシーの範囲に入ります」車は瀬戸大橋が遠くに見える場所に来て居た。
「捕まえた」と香澄が言う。
「やった」と輝が喜ぶ。
「警察もマスコミも居ないわよね、夜だから、昼間寝て夜に移動を始めたみたいよ」
輝が「何処かで待ちましょう」
「車止められる、場所に行って」
「よっしゃー」石巻は嬉しそうにナビで探して公園に向かう。
誘導する香澄、海岸近くの公園に車は停車した。
「彼は早いから、すぐに来ます」香澄が言ってしばらくすると、サーベルを背中に着けた大柄な男性が車の前に立った。
直ぐさま香澄が車から出て二人で話しをしている。
背中のサーベルを手に持って香澄と一緒に来て「トランクに刀を乗せて」
「判った」
トランクが空いて、男はサーベルを入れて「乗せてあげて、何か食べ物を」
「コンビニに行くか」石巻は車をコンビニに向かわせた。
助手席に輝が乗って後部座席に二人が乗り込んで、判らない言葉で話している。
しばらくして「食べ物の次は服が必要ね、この服は目立つから」と香澄が言う。
「この人ね、名前は有田俊って言うのよ、よろしくね」と言うと俊が会釈をした。
香澄が地球の作法を教えた様だ。
コンビニで適当に食べ物を買って輝が戻ると、待ちかねた様に食べ出す有田、随分お腹が空いていたのか?美味しいのか?食べるのが早い。
「美味しいの?」と輝が尋ねると「地球の食べ物最高です」と香澄が笑いながら言う。
有田も食べながら微笑む、満足したのだろう。
「今の時間、衣服を売っている店無いですね」石巻が言う。
「そうだ、このまま岡山まで行って新幹線で帰ろう」輝が言うと石巻が「岡山迄行けば、夜明けに成る、始発で帰ると良いよ」もう時間が三時に成っていた。
運転手の石巻が自宅に行って適当な服を有田に渡して、車は岡山に向かった石巻は自分がヒーローに成った気分だったのだ。
輝は貸し切り運賃の二倍を支払うと、石巻は大喜びをして新幹線の始発まで、タクシーを休憩室代わりに三人に利用させた。
刀を持って居るから、飛行機には元々乗れないから新幹線しか移動手段が無かった。
別れる時に、香澄が石巻の記憶の一部を消したのは当然の事だった。