生還
9-11
「二人の反応が有るわ、移動しているから、船だと思うわ」と香澄が叫ぶ。
「この先は定期航路が有る、もしかしたら小笠原からの船の可能性が有る」と井尻が言うと「出来るだけ船に近づけて下さい」
「まだ、半時間は掛かりますよ、そんな遠い場所迄判るのですね」
「海は遮る物が少ないからです」と微笑む。
機関室の会話を知らない小林達は「気持ち良いですね、船旅の様だ」
「遠くに船が見えますよ」
村中が小笠原丸を見つけて「あっ、あれだ!」と叫んだ。
「どうしました?」
「あの船に仲間が乗っています」
「えー、そんなの、判るの?」
「香澄さんはもう随分前に判っていたと思います」呆れ顔の三人なのだ。
しばらくすると船が大きく成る。
「早いのでこれ以上近づくと危険です」
「大丈夫よ、もうすぐ停船しますから」と香澄が微笑んで、予定通りに小笠原丸は停船した。
「あれよ、香澄さんの能力は!」と輝が嬉しそうに言う。
「何が凄いのか判らないな」と小林が言う。
漁船が小笠原丸に近づくと、甲板に水谷洋子と瞳が出て手を振る。
すると二人が宙に浮かんで、漁船に飛び乗る様にフワフワと飛んで来た。
小林も小笠原丸の乗客も夢を見ている感じに成ったのだ。
甲板に二人が降り立つと「離れて!」と香澄が井尻船長に言う。
漁船は小笠原丸から離れると、甲板で大学生三人が唖然として眺めて居た。
小笠原丸の機関室で「船長、あれは何です?知っていて停船したのですか?」
「そうだ、そうなのだ、人命救助だ」と意味不明の言葉を発していた。
小笠原丸が再び波しぶきを上げて航行を始めて、漁船はフルスピードで焼津港に向かって行くのだ。
二人の刑事の目に衝撃が焼き付いた。
四人は何やら相談をしている。
「小林先輩、今来た二人モデルの様な美人ですね」
「お前の嫁さんと比べても、スタイルでは負けているな」
「大負けですよ、若くてスタイルは最高ですね」
「でも、宇宙人だ」もう小林は何も疑わなくて、宇宙人に決めつけていたのだ。
「刑事さん、判ったでしょう、香澄さんの凄い能力」
「判った、納得した、日本の警察と云うより世界の警察も勝てない」二人の刑事はしきりと納得を繰り返している。
「小林さん、焼津港にパトカーを用意して下さい、彼女達を病院に運びます」
「判った」もう小林達は下部の様に指示に従うので、それを見て輝は笑いを噛み殺していた。
携帯のメモに一杯、有った現実を書き留めて、和美姉さん驚くわ、この事実!携帯の写真と文章は保存されて貯まる。
大西洋に故障で沈没したアトランティス号には秘密が有った。
アトランティス号の内部で反乱が起こって、一部のロボットが宇宙船の心臓部を破壊してしまったのだ。
大勢のアール人が大陸に移動中に爆発を起こして沈没、半数近くの人々が母船と共に水没したのだ。
アトランティス号の沈没は大西洋から巨大な津波と成って、地球全体の潮位を上げ、一足先に地球に到着して移住作業をしていたムー号をも飲み込んでしまった。
予期しない事態にムー号は対処出来ないで、水没してしまった。
アトランティス号の反乱ロボットは、遅れて到着する超人達の宇宙船にも細工をして、殆どが水没する様に母船から信号を送り、特にリーダー的な超人の殺害を画策していた。
ムー号とアトランティス号には殆ど交流が無く、その事態をムー号の指導部が知る事が無かった。
このロボット達の反乱で地球の発展が異常に遅れて、香澄達が到着した今、予定とは異なる環境に成っていたのだ。
二隻の母船の科学技術を使い、地球にアール人が永住出来る環境を早い時期に作り上げて、香澄達超人の力を使って、惑星間移動のシステムの構築、将来はアール星と地球の往来で、天災を避けて人類の発展を試みる計画だった。
ロボット達の計画は移住の阻止、人工知能を持った優秀なロボットがアール人達に反乱をしたのだ。
隕石の嵐の過ぎ去った惑星アールの征服と地球の征服を、高性能ロボットは画策したのだ。
その為にはムー号の超人達の行動を阻止しなければ、この地球の人達がまた移住すれば困るので、アトランティスの超人達は大多数が葬られた。
ムー号の超人達も多数を誤作動で海に沈めたのだ。
残ったアトランティスの超人はロボットの支配下に成っていた。
いつの間にかA-3を下部にコントロールしていたのだ。
超人A-3は科学者でテレパシーも使える。
香澄のテレパシーの能力よりは遙かに劣るが、人工知能ロボットに捕らえられて、チップを埋め込まれて配下とされていた。
ロボット(アトラン)はアトランティス号沈没を画策して、沈没の前に脱出して、エーゲ海の無人島に基地を持って居たのだ。
(アトラン)自体は行動の出来ない大型の人工知能ロボットで、既に一万年以上この島で待っていた。
アトランティスの超人とムー号の超人達を抹殺の為に、アトランティスの超人達で生き残った八名を基地に誘導して配下としていた。
(アトラン)は修理ロボット、資材、戦闘ロボットの脱出が終わると、母船を破壊した。
地球に上陸した人々は(アトラン)には大した驚異では無かったのだ。
超人達が驚異で(アトラン)は母船の中枢のロボットで、自分自身のプログラムで進化を出来る様に科学者が改良したのだが、それはロボットの自覚を生み別の成長をしてしまった。
ロボットの反乱だ!科学が生んだ産物が今、驚異の力を持っていた。
焼津港の岸壁で待つ二台のパトカー、一台には諸星刑事、もう一台には警官が乗っていた。
水谷姉妹、小林が車に乗り込み、警官から井上の運転に代わった。
諸星の車に輝、香澄、村中が乗車して赤色灯を点けて発車した。
井尻船長は手を振ったが、我に返ると自分が何をしていたのか疑問に成っていた。
香澄のコントロールが切れたからだ。
「助かりますか?」輝が香澄に尋ねると「命が有れば、助かります」
「後、何名生きて居るか?」
「そうですね、天才数学者の村中さんだけでは、ムー号は造れませんからね」と笑う香澄。
「今の病院の男性は?戦士?」
「多分ね」高速を全速力で名古屋に向かう。
名古屋の警察で、的場刑事は懸命に愛知県警の上層部に有田の釈放を懇願していた。
「静岡県警さんの頼みでも、あの男の釈放は無理だよ、香川の県警からも一任されているからな」
「何も特別犯罪はしていないのでは?」
「窃盗、食べ物を盗んで、警官を遊んだ、それにあのジャンプ力と刀、特殊部隊だよ」
「違いますよ、異星人ですよ」
「ハハハ、的場さん、年齢に似合わず漫画好きですな」
その時携帯に小林刑事が「もうすぐ、病院に到着します」
「どうしたのだ」
「驚かないで下さい、火傷を瞬時で治す、エスパーを連れて行きます」
「何!判った」と電話を切ると「課長さん今から、私と病院に行きましょう」
「何処の?」
「あの、火傷の男性を治す者が来るそうです」
「何!意識不明の全身火傷を治す?」
「そうです、今同僚の小林が向かっています」
「そんな事が出来たら、君の話を信じよう」二人は警官の運転で半信半疑で病院に向かった。
東京に到着した小笠原丸の乗客はあの光景を見てから、パニック状態に成っていた。
当然大学生三人も、用事を忘れる程の衝撃が残って居た。
ニュースで名古屋に超人が居て、警察に捕らえられている事を知って、もう三人は名古屋に行って、彼女達にもう一度会いたい。
そして不思議な出来事の解明がしたいのだ。
物理工学の学生には興味が大いに有るのだ。




