全女子校を制覇?
「で、ハヤタ、どうだった?」
二人の女の子の姿が遠ざかると、ヒロが待ちきれなかったと言わんばかりに口を開いた。
「ああ、上手くいったよ。次は二人で会おうって誘われた。」
「ちくしょう~、どうしてハヤタだけ上手くいくんだよ。ボクなんて、ヒロくんって楽しい人ね、で終わりだよ。連絡先すら教えてもらえなかった。ハヤタ、お前、本当にナンパは初めてだったのか。もしそうだとしたら、お前、生まれつきナンパの才能があるんじゃないか。馬鹿馬鹿しい。もうこれからはお前一人でやれ。」
ヒロが恨めしそうにまくし立てた。
「そんなことないよ。全部ヒロのおかげだよ。ところで、ヒロ、少し話しがあるんだけど、まだ時間大丈夫か?」
そんなヒロをなだめるように、オレは言った。
「大丈夫だけど、話しって何?時間のかかる話しなのか?」
「いや、そんなにかからない。この店に戻ろうか。」
オレが誘うと、ヒロはこころよく応じてくれた。
オレは、ヒロとさきほどのカフェに戻ると、今度は、店の奥の方にある二人がけのテーブル席に着いた。
店の中では、少し暗くなっていて落ち着いたスペースだ。
そして、もう一度コーヒーを二つ注文し、コーヒーが運ばれてきたのを見計らって、オレは話しを始めた。
「オレの『運命の女性』探しについては、ランチのときに話したよな。」
オレは、『運命の女性』についての話しをヒロに思い出させるために、こう言ってから、話しを続けた。
「それでさ、その『運命の女性』を見つけるために、オレは今日から高校を卒業するまでに、西ブロックにある全女子校を制覇しようと考えている。」
「制覇?」
ヒロが聞き返した。
「そう、制覇。簡単に言えば、全女子校でそれぞれ一番の美人を口説くってことさ。」
「お前何言ってんの?いったいこの西ブロックに女子校が何校あると思っているんだよ。しかも、各校で一番の美人って、お前本気で言っているのか?」
オレが話した目標というか願望に対し、ヒロはあきれたように言い放った。
「無理、無理、あきらめな。そもそも、各校で一番の美人を探すだけでもどれだけ時間がかかると思っているんだ。」
「だから、ヒロに協力してもらいたいんだよ。オレ、このままだと一生、女性を好きになれないまま過ごすことになるんだよ。そんなのあんまりだろう。友だちなら、力を貸してくれよ、なあ、ヒロ。」
オレは、今日友だちになったばかりのヒロに、無茶ぶりをしていることは重々承知していたが、そのころには何故かヒロに協力してもらえば何とかなるような気がしていた。
それまでは、あきらかに非協力的な態度を取っていたヒロが、急に、オレの顔をじっと見ると、真剣な表情で聞いてきた。
「ハヤタ、もしかしたら、ボクのことなんか知っているのか?」
「いや、何も知らんが。」
「知らずに、ボクに協力を求めているのか。」
「そうだ。」
オレは、ヒロの矢継ぎ早な質問に素直に答えた。
「お前ってやつは、本当に……。分かったよ。協力してやるよ。というか、ボクなら協力ができると思う。」
オレは、ヒロの言った言葉の意味を理解できなかった。理解できずに、怪訝な表情をしているオレに向かってヒロが言葉を続けた。
「ボクが協力すれば、西ブロックにある全女子校の各校で一番の美人を簡単に探し出すことができるっていうことさ。」