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ナンパ成功!

 そして、約一時間が経過した。


 オレは、やはり無計画にナンパで『運命の女性』を探すなんて無理だったのだと、半ばあきらめ始めていた。

 しかも、もしオレの好みの女の子が通りかがったとしても、ヒロのナンパが上手くいくという保証は全くない。


 オレが、あきらめて帰ることをヒロに提案しようとしたとき、ヒロがまた確認を求めてきた。

「今、左から歩いてくるグレーの制服を着た二人組はどうだ?」


 オレは、それまでにも何度となく繰り返したように、ヒロに言われるがままに左方向に目をやった。


 すると、これまでとは違って、そこにはオレ好みの女の子が、横にいるカワイイ系の女の子と楽しそうに話しをしながら、こちらに向かって歩いてくる姿が見えた。


「ヒロ、ばっちり、オレの好みだ。」

 オレは、少し興奮気味に答えた。


「よし!」

 ヒロは、そう言って立ち上がると、あっという間に、その二人組の女の子の方へと歩み寄って行った。


 カワイイ系の女の子の方に何やら笑顔で話しかけている。

 そして、おもむろにオレの方に向き直ると、右手でオーケーサインを出し、オレに来るように手招きをした。


 オレは、あっけに取られながらも、ヒロたちのところまで行った。


 すると、ヒロは、オレの方を向いたままで二人の女の子の右横に立って、言った。

「左の子が、サキちゃんで、右の子がアコちゃん。それで、こいつはハヤタ。」


「姫野ハヤタです。」

 オレは、どうしていいか分からないままに、とりあえず名乗ったが、ヒロはお構いなしに話しを続けた。


「このハヤタがさ、サキちゃんに一目惚れしちゃったらしくて、よかったら一緒にコーヒーでも飲みに行かない?」

 ヒロは、あたかもオレが左の子に一目惚れし、ヒロに誘ってくるよう命じたかのような口ぶりでナンパを始めた。


 オレは、てっきりヒロが既にナンパに成功して呼んでくれているものと勘違いしていたので、あわててヒロの話しに合わせなければならなかった。


「そう、一目見て、君のことが気に入ったんだ。少し話しができないかな?」


 オレは、サキちゃんの左横に立って、その卵形の顔にバランス良く配置されたパーツのうち、大きな瞳を見つめながら、話しかけた。

 オレは、正直かなり慌てていて、しかも焦っていた。


 ただ、幸いあまり表情には出ない方なので、サキちゃんからは、冷静な口調で話しかけているように見えたかもしれない。


「少しなら、いいですよ。」

 なんと、サキちゃんから、オーケーの返事が返ってきた。



 それからオレたち四人は、その複合施設内にあるカフェで約二時間ほど、とりとめもない会話をして過ごした。


 カフェは、大手のフランチャイズ店ではなく、ヒロが選んでくれた少しレトロ調の落ち着いた雰囲気の店に入った。


 店に入ると、焙煎したコーヒーの良い香りが店内に広がっており、ちょうどいい音量のクラシック音楽が流れていた。

 オレたちは、入口から入ってカウンター奥にある四人がけのソファー席に男女が向き合うようにして座った。


 オレの正面にはサキちゃんが座った。

 かすかに、柑橘系のいい香りがする。


 オレとヒロはコーヒーを注文し、サキちゃんたちはパフェを注文した。


 ヒロが司会進行役のように、各自簡単な自己紹介をするよう促し、まず自分から自己紹介を始めた。

 オレは、ヒロの次に、通り一遍の自己紹介をした。


 サキちゃんたちは、明和女子高校の一年生で、入学式の帰りということだった。

 二人は同じ中学校の出身で、中学時代からの友だちらしい。


 全員の自己紹介が終わると、どのクラブに入るのか等の、いかにも高校の新入生らしい話題から会話が始まった。


 そのうちに、ヒロは、カワイイ系のアコちゃんとだけ話し始めたので、オレは自然とサキちゃんと話しをすることになった。

 話しているとサキちゃんが、少し照れた表情でオレに聞いてきた。


「さっき、私のことが気に入ったとか言っていたけど、あれって本当?」


「ああ、本当だよ。」

 オレは、まさかヒロの話しに合わせただけだとは言えず、そう答えるしかなかった。


「本当かな……、ハヤタくん、あまり楽しそうに見えないんだけど。じゃあ私のどんなところが気に入ったの?」

 見た目は大人しそうに見えるサキちゃんだが、意外と積極的に追及してきた。


 オレは、少々困ったが、それを表情には出さないように気をつけながら言葉を選んだ。


「感覚的なものなので、上手く説明できないけど、強いて言えばフィーリングというか、全体的な雰囲気かな。なんか引きつけられるものがあって……。実際に話してみて、それは当たっていたよ。きみからは、何かホンノリとした暖かいものを感じる。柑橘系の香りも好きだし、特にその少し潤んだ瞳がとても魅力的だ。ごめんね、オレは、楽しくても、あまり感情を上手く表現できないタイプなんだよ。」

 オレは、しどろもどろになっていた。気の利いた台詞も出てこない。


「へえ、そうなんだ。私も、ハヤタくんはタイプだよ。」

 にもかかわらず、サキちゃんは、少し顔を赤らめながらそう言うと、オレにメッセージアプリのID交換を求めてきた。


 オレは、断る理由もないので、それに応じた。


「試しに送ってみるね。」

 サキちゃんがそう言うと、直ぐにオレの腕時計型の端末にメッセージが入った。


(次は、二人で会いたいな。)


 オレは、そのメッセージを確認したが、ニヤつかないように気をつけた。

「じゃあ、オレも試しに送ってみるよ。」


 淡々とそう言うと、オレもメッセージを送信した。


(オレもだよ。また連絡するね。)


 ヒロは、カワイイ系のアコちゃんと話しこんでいたはずだったが、オレたちのこの一連のやりとりをしっかりと見ていたようで、すぐに茶々を入れてきた。


「ハヤタ、なに二人でコソコソやっているんだよ。」


「別に何もやっていないよ。ただ、連絡先を交換しただけ。だよね?」

 オレがサキちゃんに同意を求めると、サキちゃんは、笑顔で頷いた。


 それからは、また四人で入学した学校の印象などの話題で盛り上がり、約二時間後、買い物の続きをするというサキちゃんらと店を出たところで別れた。


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