対戦!
そして、試合開始時刻がやってきた。
七階A競技室には、五十名をはるかに超えるギャラリーが集まっていた。
正面スクリーンの反対側にある簡単な観覧席は、満員で、立ち見がでているほどであった。
それほどに、この対戦は、注目を集めていた。
どこからか、師弟対決という情報が流れていたことをオレはあとで知った。
もちろん、その情報をながしていたのは、ミツキさん自身だ。
まだ照明を落としたままの競技室内の正面のスクリーンに、オレのアバターとミツキさんのアバターが立体的に映し出された。
スクリーン上に大きく「ミツキVSハヤタ」という文字が浮かび上がると、その下に開始までのカウントダウンを表す数字「60」が表示され、その数字が「59,58…」と一秒刻みで減っていった。
そして、その数字が「0」になると同時に、「FIGHT!」という文字が映し出されて競技室内の照明が明るくなり、オレとミツキさんの試合が始まった。
ミツキさんは、いきなり槍は使わず、まずは体術勝負を挑んできた。
オレごときが相手であれば、体術のみで足りると考えたのかもしれない。
しかし、オレも、ミツキさんから特訓を受けていた当時のオレではない。
その後の実戦により、かなり体術のスキルは上がっているので、ミツキさんとほぼ対等に闘うことができた。
これも想定の範囲内であったのか、ミツキさんは体術勝負により約十分が経過すると、槍を使い始めた。
オレも、直ぐに槍を用意した。
ミツキさんは、オレの身体をめがけて、リズミカルに槍を突き出してきた
オレは、これを必要最小限の動きでかわそうとするが、ケンの棒のときのようにはいかなかった。
棒と違って、槍はしなるため、そのしなりを計算していないと、ギリギリでかわしたつもりが、身体にヒットしてしまうのだ。
オレは、槍のしなりに慣れるまでに、結構なダメージを受けてHPゲージを三分の一ほど減らしてしまった。
また、この間、ミツキさんの攻撃を避けるのに精一杯で、まともに攻撃をすることができなかった。
仮に、そうでなくても、槍の扱いに慣れていないため、十分な攻撃はできなかったであろうが……。
オレは、この時点で、HPゲージを三分の一ほど減らした見返りに、ミツキさんの槍での攻撃を見切って、全てかわすことができるようになっていた。
問題は、ここからどうやって反撃するかだ。
相手が槍を使っている以上、こちらも槍で攻撃するのがベストであろうことは分かっている。
しかし、オレは、不慣れな槍を使って、ミツキさんに勝てるとは到底考えられなかった。
(無謀かもしれないが、ここは一か八か、賭に出るか。)
オレは、自分の体術と剣に賭けてみることにした。
オレが槍から剣に持ち変えると、観覧席がざわつくのが分かった。
しかし、オレには、これしか逆転勝利するイメージが浮かばなかった。
オレは、剣を右手に握ると、ミツキさんに向かってトップスピードで近づいていった。
ミツキさんは、これまでよりも速いスピードで槍をくりだしてきた。
オレは、その槍の動きを見切りながら、ギリギリで避けつつ、ミツキさんに接近していった。
あと一歩で剣の間合いに入れると思った瞬間、ミツキさんのくりだした槍が予想を超えたスピードとしなりでオレの身体のど真ん中、腹部あたりに突き刺さった。
観覧席で見ているギャラリーの全て、ミツキさん、そしてオレ自身もそう思った。
(これで万事休すか……。)
しかし、ミツキさんの槍はオレの身体には刺さっていなかった。
ミツキさんの槍が貫いていたのは、オレの左の手の平であり、オレは手の平を貫かれた左手で槍を身体の左側に避けており、オレのHPゲージはまだ残っていた。
どのように避けたのかは、自分でもよく分からなかった。
自分の意思で避けたというよりも、左手そのものが意思をもって、勝手に動き、避けたとしか思えなかった。
ここで、オレに迷っている暇はなかった。
ミツキさんは、オレの身体を槍で突き刺して、とどめをさしたものと確信したのであろう。
そのとき、わずかに見せたミツキさんの隙を見逃さずに、剣の間合いに入っていたオレは、渾身の力で、打撃力強化のスキルも使って、剣でミツキさんの身体の左胸を突き刺した。
この剣のヒットにより、ミツキさんのHPゲージは一気にゼロになった。
その瞬間、スクリーンに大きく「ハヤタ VICTORY!」の文字が映し出された。
それでもしばらくの間は何が起きたのかが分からなかったのか、観覧席は静まりかえったままだった。
「ハヤタくん、やったね!」
観覧席から、ミカの声が聞こえ、これでみんな我にかえったのか、そのあとに大歓声と拍手が鳴り響いた。




