「何も始まっていないのに何かが終わってしまった人」
俺にはトビーという友人がいるのだが
どうも俺はトビーのことを見放せない
トビーのことで呆れる度に
二度と気にしないでいようと誓うのに
どうしたってトビーのことを気にかけてしまう
トビーはとても悲しんでいる
トビーは今日、愛が終わってしまったようだ
トビーは愛の終わりに気を落とし
失意に暮れて今に至る
でもトビーは気づいていない
トビーに愛の終わりは訪れていない
始まりも訪れていないのだから
終わりなんて存在していない
トビーはいつもそうだ
何も始まっていないのに
何もかも終わってしまったと
そう思い込んでしまう
きっとトビーは何も始まってないことを
本当の終わりまで気づかないのかもしれない
トビーはまたしても悲しんでいる
トビーはついに、夢がかなわなかったようだ
トビーは夢の終わりに膝をつき
何もない空を見上げている
けどトビーは気づいていない
トビーの夢は終わってはいない
始まりも訪れていないのだから
終わりなんて来る訳がない
トビーはやっぱりそうだ
何も始まっていないのに
全てが終わってしまったと
そう思い込んでしまう
きっとトビーは何も始まっていないことを
真の終わりまで気づかないのかもしれない
トビーの悲しみは確信的なものとなった
トビーはとうとう、世界が終わると知った
トビーは己の終わりに想いを馳せ
諦めに似た境地に立っていた
だがトビーは気づいていない
世界はまだ終わってはいない
まだ始まりも訪れていないのだから
終わりなんてある訳がない
トビーは結局そうだ
何も始まっていないのに
何かが終わってしまったのだと
そう思い込んでしまう
何かが終わるには
何かが始まっていなければならない
けれど今のままではトビーは
何も始まっていないことに気づかないかもしれない
トビー、君は気づいていないだろうけど
まだ終わってなんかいないよ
君は、生きている




