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      無常なる無音の日々 下

 さて、本日の学校行事の過半数を占める始業式。もちろんこれは新入生がメインとなり、僕らは人数合わせのようなもの。体育館に向かう足取りも、期待と緊張で動きの鈍い新入生とは異なり、気怠さと憂鬱で鈍くなってしまうのも無理もない。どのような時代であろうとどれだけ世界が変わろうとも校長先生の話ほど退屈なものはない。どのような形式で話を進めるのか気にはなっているが、おおかた想像がつく。意識せず、足取りは重くなる。

 隣を歩く夏紀を横目で見ると、夏紀の右手には文庫本が握られていた。いくら夏紀が珍妙な存在であっても校長先生の話を楽しむことはできないようだ。夏紀がはにかんでいるのはこれから読書をすることができるからだろう。あとで本のタイトルを聞いておくか。

 そして始業式はやはり僕の想定通りに行われた。

 新入生はあらかじめ配布されていたプリントの通りに座り、生徒全員にプログラムが配布された。その中身には有難いことに校長先生のお言葉がつらつらと書き連ねられている。数十分後にはゴミ箱を埋め尽くすであろうプリントを眺めていると、どうにかして再利用できないか考えてしまうのだが、やはり良いアイディアは浮かばない。新任教師や簡単な部活動紹介欄に目を通してポケットに仕舞った。

 教師陣には明確なマニュアルが配られていなかったようであり、舞台の上では下手な子芝居が繰り広げられているようにみえた。司会進行にマイクを用いることはもちろんできず、プロジェクタを使用していた。けれど、そこに浮かび上がるものは映像ではなく文字。しかも映しているものは配布されているプログラムである。新任教師の名前を映し、その名の教師が頭を下げる。そして次の教師の名を……。欠伸が出た。目の端では失笑している生徒もいる。夏紀にいたってはプログラムを放り投げ読書に耽っていた。途中までは緊張に身をおいていた新入生も、ついには姿勢をくずしはじめる始末。致し方ないさ。教師の何人かは憤りよりも恥ずかしさに身を縮めている。その中で、ひとりだけ凛とした佇まいを維持している教師がいる。たぶん新任教師だ。若いな。使命感かなにかだろうか。残念ながら名前は見そびれてしまった。あとでプログラムを読み直そう。

 というか始業式と入学式は違うのだろうか? 僕が入学したときは、始業式とは別に入学式が開かれていたはずだ。とすると、新入生もこの退屈な儀式は二度目ということになる。入学式はどんな形式で行われたのだろう。確かひとりずつ名前を呼ばれたような記憶があるが。気が向いたら調べるとするか。

 どうやら終わったようだ。儀礼的に拍手を送る。 

 音はしないけれど、暖かさは伝わったんじゃないかな。




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