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第一話 成り立ち

 いつからか、この世界から音は消えた。

 最初は僕、だと思う。知る限りで、僕より早く音をなくした人はしらない。だけど、それから一ヶ月もたたないうちにそれが世界中に広がっていることがわかった。その時には僕の世界から音は消え去っていたため、母親が筆談で教えてくれた。母親も父親も例外なく音をなくした。それがいつのことだったのか、正確なところを僕は教えてもらっていない。

 僕が無音の世界になれてくる頃には、音を有している人間の方が珍しく、世界の混乱が平定することには、音を有す人間はいなくなった。

 この病を学会では 「突発性聴覚閉寡症」 と命名したらしいが、それは世間一般に浸透しなかった。ただ単純にマスコミが取り上げた、 「無音の病」 が通称となっている。

 けれどその名を口にする人はもう誰もいない。理由は簡単だ。もはや音を持っている人間はいない。病ではなくなってしまったのだから。耳は聞こえなくなってしまったが、それは誰もがそう。最初は違和感を覚えつつも、いつしかその考えが定着してしまった。

 世界の混乱は凄まじかった。

 音がなくなっても僕個人の生活に大きな影響はない。強いて上げれば音楽を聴けなくなって残念なことぐらいだ。けれど世界の多くは音に頼った生活をしている。例えばさっき上げた音楽にしてもそう。ミュージシャン、作曲家、ピアニスト、オーケストラ、彼らは職を失う。

 観衆の耳に訴えかけ感涙を誘う彼らにとって、音は何よりも欠かせないものであった。それがなくなってしまえば、どれだけピアノを上手に弾ようとも伝わらない。それまで失業率が一パーセント上下するたびに右往左往していたが、今回の伸びは半端じゃない。様々な国で様々な対策が執られたらしいが、それがどのような対策なのか僕は知らない。僕はテレビを見ないし、見たとしてもよくわからなかっただろう。テレビに聾者対策なるものは施されていなかった。

 数え挙げればきりがないが、一番のネックが意思の疎通であった。情報交換と言い換えてもいい。人が情報を集める方法はいくつかある。その中で最も多用されるのが視覚と聴覚だ。電話然り、テレビ然りだ。不思議なことに視覚に異常を訴える人間はおらず、最近までは口の動きで何とか意志の疎通を図ってきた。しかしそれも長くは続かなかった。耳が聞こえなくなると声を忘れるという。そう、口の動きが思い出せなくなってしまったのだ。

 今ではジェスチャーが母国語となり、顔色を窺うような生活をしている。そして、この病が発症してから二年が経過するが、回復する目途は立たず治療方法も一切見つかっていない。

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