マフラー
『マフラー』
麻子は最近ご機嫌である。大学の友人が「何かいいことでもあったの?」と聞くと、自慢げに麻子は言う。
「彼氏ができたの。」
ゆるんでしまう頬を両手で押さえているが、それでも笑みはこぼれてしまう。嬉しくて仕方がないようだ。そんな麻子に友人は聞く。「どんな人?何歳?何してる人?」しかし麻子は全ての質問に「秘密」と答えた。友人にはなかなか言えない。自分の彼氏が高校生であるなんて。
朝から慌ただしく家を出る麻子。今日は日曜日。十二月の朝は息が白くなるくらいに寒い。駅の改札で十時に待ち合わせなのだが、緊張のあまり夜眠れなくて寝坊した麻子は、案の定遅刻ぎりぎり。
「遅れてごめん!」
「大丈夫ですよ。」
年下の彼は、さわやかな笑顔で麻子を出迎えてくれた。最近恋人になったばかりのため、彼はまだ麻子に敬語を使っている。
「敬語じゃなくていいのに。」
「ごめんなさい。まだ慣れなくて……」
「まあそうだよね。」
それもそのはず、麻子と彼はアルバイト先の知り合いであった。年下の彼から突然告白されて、麻子とめでたく恋人同士となったのだ。2人は五歳差という仲なので、話が合わないときもある。けれども、大学生で自分よりも五つ年上で仕事もバリバリこなせる麻子に惹かれた彼は、気持を伝えることに成功したのだ。麻子も、相手が五つ下の高校生で、自分とは釣り合わないと思ったのだが、つい母性本能が働いて、彼の事を知りたいと思うようになった。
昼間だというのに、気温は低い。慌てて家を飛び出したため、麻子はマフラーを忘れてきたのだ。
「寒いねー」
「マフラー忘れてきたんですか?」
「うん。慌てたから忘れてきちゃった。」
麻子がそう言うと、彼は何も言わずに自分のマフラーを取った。
「どうぞ。」
「え?いいよ。祐くん寒いじゃん。」
「麻子さんが風邪ひいたら困りますから。」
麻子は、彼の優しさが嬉しくて今日だけは甘えようと思った。
「ありがとう。」
麻子がお礼を言うと彼は照れくさそうに笑った。お礼にと言わんばかりに、麻子は自分の手を彼に差し出した。年上の麻子が彼をリードしてあげたいと考えていた。彼は嬉しそうに麻子の手を取る。外の気温は寒いけれど、麻子は彼がいれば暖かい気持ちのままでいられるようだ。
寒い空気に抵抗するように、麻子の首に巻かれた白いマフラーが踊っていた。
END
『熱』『マフラー』は2013年11月25日に書いた小説のようです。大学生のころに書いたもの……恥ずかしすぎる……。