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短編集  作者: 時雨
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『熱』


 目の前にある数字を見た途端に、だるさをはっきりと感じた。朝起きてなんとなく全身が熱いと思って、体温計を手にしたのだった。「37度」とはっきり表示されているのを見ると、更に体のだるさを感じる。

気のせいであってほしかったが、その数字を見てしまえば、風邪をひいたことは否めない。これでは大学にはいけない。一人暮らしのため、看病してくれる者もいないのだ。

やることがない私は、大輔にメールを送った。仕事中だと知っていながら、つい送ってしまう。少しでも心配してほしいと思ったから。大輔は恥ずかしがり屋なのか、あまり恋人らしく振る舞ってこない。大輔と恋人になってから、「好き」や「愛している」と言葉にされたことはない。もう少し積極的に振る舞ってほしいものだ。メールの返事が来ることを期待せず、私は薬を飲んで眠りについた。



 どれくらい眠っていたのだろう。ぼーっとしている頭の中で、今の今まで見ていた夢を思い出す。確か……大輔が会いに来てくれた夢だ。夢だとわかった途端、虚しさを感じる。夜ご飯とかどうしよう。冷蔵庫の中には卵しか入っていない。何か買っていればよかったなぁ。そんなことを思っていると、枕元に置いてある携帯のバイブがなった。慌てて携帯を取る。


「もしもし?」

「寝てたでしょ。ドア開けて」


言われるがままにインターホンのモニターを見ると、そこには大輔の姿が映っていた。アポイントなしの急な訪問だから何も用意していないし、私今きっと髪の毛ぼさぼさだ……。いそいで髪を梳かして鏡に向かって笑いかける。「今行く」と声に出してドアの鍵をあけた。


「急にどうしたの?」

「メールくれただろ。」

「仕事大変なのに……わざわざありがとう。」

「別に。まあ俺もたまたま早くあがれたし……」


相変わらず素直じゃないくせに、手にはきちんとコンビニのビニール袋。「何買えばいいかわからなくて、適当なものだけど……」そう言いながら大輔はテーブルに、レンジでチンするだけの卵がゆと、グレープフルーツゼリーを置いた。なんだかんだと言っても、グレープフルーツゼリーは風邪ひいたときに小さいころから食べていた私のお気に入りのデザートである。同い年だけど、彼はやはり働く男性だけあって、頼りがいがある。


「おかゆ、自分で食べられるだろ?」


スプーンを渡しながら言う彼に、少し甘えてみたくなる。「ねえ、食べさせて?」彼は慣れない対応に戸惑って、「子どもじゃないんだから。」とあっさり私の甘えをかわした。そんな彼に対して、ぷくっと頬を膨らませ睨むてにらみつける。


「うわ、ブサイクだ。」

「ひどい!」


なんとも恋人らしくない会話をする二人。いつもクールで甘えてこないけど、そんな彼に私は今もドキドキしている。それに対して余裕がある彼が少し憎らしい。


「明日の朝は美那子の家から仕事行くから。」

「ってことは今日泊ってくれるの?」

「まあ……心配だからな。」


照れながら呟くように彼は言った。私のことを心配してくれていると知ったら、嬉しくて仕方がない。思わず彼に抱きついたら、「風邪がうつる!」と引き離されてしまったが。彼には本当に油断も隙もない。だけどそんな彼だからこそ、私は甘えたくなるのだ。


「一緒に寝よう!」

「風邪がうつるからダメ」


こんなときでも彼はクールぶっている。恋人なんだから一緒に寝てくれたっていいのに。まあ風邪移しちゃったらまずいし、今日のところは我慢して一人で寝るか……。そう思っていたのに、彼は照れ臭そうに「今日は寒いから、2人で一緒に寝たほうがいいだろ。」なんて言うものだから、私は思わず笑ってしまった。最初から素直に言えばいいのに。小さくそう呟いて私は彼に抱き着いた。

明日は良くなりますように……。



                            END

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