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三題噺

サラブレットのセカンドライフ

作者: あきまさ

 山奥にある山小屋に一人の男と一頭の馬がやってきた。


「今日からおまえは、ここで暮らすことになった。風はよく通るし、空気もいい。おまえにとっても悪い条件ではないはずだ」


といい男はさきほどから語りかけていたであろう馬に対し、優しくたてがみや背中を撫で、馬の元を離れて行く。


 馬の方は男の言葉を理解はしていなかったが、彼とは二度会えないそんなきがしていた。


 馬の名前はオルフェといい、品種はサラブレットであり、自慢の黒髪と鮮やかな茶色い毛が特徴的である。かつてオルフェは競馬のレースにも出場経験があり、入賞経験も存在するいわゆる名馬とも言われていた。

 

 先ほどの男は騎手と呼ばれる、馬を操縦する人であり馬にとってのパートナー的存在ともいえる。

 彼との栄光の日々は永遠に続く物だとオルフェはそう思っていた。

 だがあるレース中の馬同士の不慮の接触事故により、オルフェは走ることが出来なくなってしまったのである。

 通常走れない馬は処分されることが多いため、オルフェ自身もそうなるだろうと本能でわかってはいたのだろうか事故後は人を見るだけで暴れ始めていたのである。

 騎手はそんなオルフェを見捨てるような真似は出来ず、事故によって怪我を治療した後、足のリハビリにも成功させ、子供を乗せたり、歩くことが可能になり、ここに配属されたのである。

 騎手の方も年はそこまで若くないため、騎手の専門学校の講師となったため、オルフェと別れたのである。


「………別れは済ませたか。こっちにこい」


 オルフェは小屋の主人と思わしき人物に手綱を引かれ、小屋の方へと連れて行かれるオルフェは再度振り返り、最後の主人の顔を見てかつての友の姿を記憶に刻み込んだ。

 

 小屋に入ると、何頭かの馬が並んでおり、皆無心に尻尾を振りながら餌を食べていた。そして小屋の仕切りに手綱を繋げられ、今日からここへ暮らすことを体が実感した。

 

 「今日からここへ暮らしてもらう。競馬の時みたいに贅沢は出来んができうる限り不自由はないようにするつもりだ」


 小屋の内装はさほど綺麗ではないが、手入れはされているようで、土も馬に優しい作りになっていたため蹄が痛むことはなかった。


「疲れただろう。明日から仕事もある。しっかり休んでおけ」

 

といわれ、小屋に設置された電気が消され、オルフェは静かにまぶたを静かに閉じた。

そしてこれからどうなるんだろうという不安を抱えたまま夜を過ごしていった


 そして小屋に配属されて数ヶ月が過ぎた頃ーー

 

 オルフェはこの小屋についていくつかのことがわかった。

 一つはこの小屋では一般公開されており、馬にふれあうイベントや乗馬訓練などというのを行い、生計を立てているのだという。

 次にこの小屋に来る馬のほとんどが訳ありなのだと言うことである。人から暴力を受けていた馬、オルフェのように事故を経験した馬、などと様々な事情を抱えている。セカンドチャンスを与えられる場なのだとオルフェは理解した。

 

 主人は気難しい性格なのだろうか、あまり笑顔を見せることはせず、淡々とブラッシングや餌の補充を行っていた。

 馬は人の言葉を理解することはないが、表情を読み取ることは出来るそうで、オルフェはあまり小屋の主人のことを特別好きになることはなかった。

 だが同時に怒っている顔も見たことはなかったのである。

 感情をあまり表に出さないタイプなのであろうが怒らない人間は初めてであった。このときから不思議な人という印象が脳内に残り続けた。

 

あるとき、オルフェがいつものように子供や初心者をイベントで乗せていると、急に外から怒号が聞こえ


「どういうことですか!?これは!!」


 初めて主人が怒っているのを見た。

 多分トラブルであろうか、主人とカメラを持った男がもめている。後にわかったことだが、このとき訪れたのはとある新聞記者で小屋のイベントについての記事の件で批評的な書かれ方をしていたので反論したのであった。


「私はともかく、馬たちを馬鹿にしたようなマネはやめてもらいたい!」


といわれ、観念したのか、記者は非礼も言わず、逃げていく。

オルフェが悲しそうにしていると、主人はハッと気がつき


「すまんな………馬に対しては大声は厳禁なのに。つい場所もわきまえず、すまなかった」


 といいオルフェのたてがみを撫でる。このときからオルフェは主人に対しての謎の嫌悪感はなくなっていた。

 撫でられる瞬間に鼻を伸ばし、目を細めると主人は照れくさそうに笑顔を浮かべながら、オルフェに対し


「おれは感情を表に出すのが下手なんだ………。これからも迷惑をかけると思うがそのときはよろしく頼む」


と目を合わせ言われる。それはかつての友人であった騎手にも同じようなことをオルフェは思い出す。

 そしてオルフェはセカンドライフをここで生きていくことを胸に誓い、今日も人を乗せ、前のように走ることは出来ないが人間達と歩き出すことを続けている。




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