第5話 話をしよう───【下】
「ね〜お兄さーん?」
「……」
「ねぇってば〜」
「……」
少し歩くと景色が変わる。
記憶にある通りの景色が、記憶にない距離で繋がっている。
レンガ通りから少し、先ほどの少女らが曲がった電柱の辺りまで来ると、途端に人々の喧騒に飲み込まれる。
というか、数十歩移動しただけで季節まで変わるのはおかしいだろ。
「ねぇ〜返事してよ〜」
ごった返す人混みの、賑やかな声だけが響く不可思議な街に、人の姿は俺と爆弾女の2人だけ。
金髪の言葉を思い返す限り、過去やらにタイムスリップしたわけではなく、記憶の中から再現してるだけなのだろう。
アイツの言を借りれば、そうやって他者の記憶を覗き見る。また自在に閲覧できる…というのが金髪の“能力”とやらか…
「ぁだっ、ちょっと急に立ち止まんないでくれる〜?」
「っせぇなさっきから」
「な〜んか“ガラ”悪くなってなーい?いやまあ私は“素”を知らないけどさ〜」
爆弾女といい、金髪といい、俺も含めてこの“能力”とやらが、どんな基準で、どういう理由で、そんな事を出来るのか知らないが
「っとに趣味悪りぃ…」
「うわぁ〜、燃えてるねぇ」
炎に包まれ燃え盛る一軒の家屋。
肌に感じる寒風を思えば、火事などそう珍しくもないだろう。
しかし、それを眺める野次馬の反応は、異様とも奇妙とも呼べない異常なものだったが……
「……ほんとに趣味悪いよなぁ……気持ち悪いぐらい底意地腐ってんじゃねえのかテメエ!」
叫ぶ。
怒声と呼ぶには冷たく、声を出した自分が信じられない程に氷塊のような感情が喉を突き通った。
と同時、何度も体験してきたマイナスな気持ちがスッと抜け出る感覚。
“影”が動いたのだと理解する。
────かくして世界は終わりを告げる。
終末世界な映像を写しながら、記憶を象った夢が覚める。
白く醒めていく意識は、ひどくスッキリした気持ちのまま、「世界の破滅がこんなに美しければ良いのに」と、確かにそう感じていた。