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妄想都市(仮)  作者: 春に狂う
序章 始まりはいつだって理不尽に
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第2話 燈矢と魔女

 夕日はとっくに沈み、雲間から見える星空と、それを埋めるように宙を舞う瓦礫と黒服の男たち

 結構な高さまで吹き飛ばされているが、落ちて死んだとしても運が悪かったとして観念してもらうしかない。

 距離的にも若造1人というマンパワー的にもどうしようもないのだから…



「えぇ…なにあれ…?」



 道路から剥がれた白線レベルでどうでもいい男たちよりも、問題はこちらだ。

 先ほど起こった爆発を、自らの仕業と言い放った少女。


 一笑に伏し、そそくさと退散するのが最善だろう。

 そもそも信憑性が無ければ、“自分を巻き込む爆発を起こしたのが目の前の少女であろうと他の誰であろうと自分には何も関係ないのだから”



「う、うわぁ突然建物が壊れて人が飛んでいったぁー!それじゃあ俺はあっちに逃げるから!」



 あの影が他人に見えた事はない以上、それらしき発言は控え、一般人を装いこの場を離れる。

 決まれば早いか、破壊が起こった方向とは逆へと駆け出す─────



「──お兄さん、こーんなか弱い女の子置いて…自分だけ逃げるの?」


「うっわ気持ち悪ぃ…」



 しまった。

 耳に纏わりつくような甘い猫なで声に、つい本音が出てしまった。



「ひどい!ていうかあの黒い影お兄さんのでしょ!ここに来てからずっとお兄さんに付いて回ってたのと同じヤツでしょ!!」


「いや何の話か分からないな、取り敢えず俺はあちこちで爆発が起こるこの場から逃げたいだけだからこの手を離せ」


「そうはいかないよ〜あの影はお兄さんの能力だって私の勘が言ってるんだもん。だったらこうしてお兄さんを掴んでいれば…」


「おい馬鹿やめろ、俺をイラつかせんな」



 なんだこの女、こっちはお前とお前を追っていると思われる黒服の奴らのせいで日曜夜7時に放送される農家の番組を見逃してるんだぞ。

 明日はふつうに学校があるから夕飯も早く準備しなきゃいけないっつーのに…



「ふ〜ん?イライラがファクターなのね、でも今私を攻撃すればお兄さんも巻き添えになるから手出しできないよねぇ〜?」


「クソうぜぇ…」



 そのニヤついた表情が、その言い分が、“甘んじて受け入れろ”と世の理不尽さを体現しているように思えて、いくら心の中で落ち着けと冷ましても、怒りが連鎖的に燃え上がる。

 “発端はいつも通らない道を通ろうとした自分なのだから、元凶は自分だ”と考えてみたものの、“なんで俺が悪いんだ”と自分の感情は取りつくシマもない。


 気怠いイラつきが、泥のように心にへばり付いている。

 道路に飛び散った泥のような、散らされた水たまりのような、脱力感が身体を襲う眠気のように感情を覆っていく。

 乾いた笑みで茶化してみても、そんな可愛げのある表現では的外れな苛つきが、制御できない自分に尚のこと憤る。



「あ"〜うっぜぇ…ほんとにうぜえ…」


「あ、観念した?観念したなら私についてきてもら───」


「──全ッ部テメェの自業自得だ馬ァァァァ鹿!!」



 影が大きな挙動で地面を叩く。

 抉れたコンクリートが梃子のように加えられた力を回転させ、ベクトルを変換する。

 依然、巨大化したままの影が与えた力は人間2人程度は軽く吹き飛ばせるほどに強力で、大きな衝撃が足元から襲ってくる。


 不規則に割れたコンクリートは俺と女を別々の方向へと吹き飛ばし、運良く上ではなく横方向へと飛ばされた俺は、着地と同時に地面を転がり、廃ビルの壁にぶつかったところで停止した。



「痛っ……てぇ…」



 擦りむいた手や頬、ぶつけた背中がズキズキと痛む。

 何度も転がったことで視界も歪み、全身を酩酊感が襲う。



「ぅオェッ…気持ち悪…」



 喉元までせり上がってきた吐気を何とか堪え、やっとの思いで顔を上げ爆発音が鳴り響く空(・・・・・・・・・)の様子を窺う。


 日の沈んだ空の、瞑色(めいしょく)より濃い闇を写す巨大な影と、その闇に星を瞬かせるように空を飛ぶ少女の姿がそこにあった。



「アハハハッすごいすごい!何やっても壊れない…こんな強い“悪”初めて!」



 少女は背中に小型のロケットのようなものを背負い、手をかざした宙空に次々と爆弾が出現していく。

 事ここに至って疑うべくもないだろう……彼女が巷で話題のテロリスト───と言うのは少し語弊があるが、まあそう呼ばれている人物なのだろう。


 世俗的な言い方をすれば、彼女の“能力”というのは【パイロキネシス】と呼ばれる超能力になるのだろうか…

 先ほどから少女は爆弾や、小型のロケットらしき物体を影にぶつけるばかりで、雷だとか水だとか、はたまた念動力のような力は使っていない。



「ふふ〜ふ〜んふんふ〜ん♪テーテッテレー!」


「仮面…?」



 日曜朝の、ゴールデンタイムに放映されている戦隊モノの、赤いヒーローの仮面を取り出した少女は、(恐らくその戦隊モノの)鼻歌と効果音を口ずさみながらその仮面を装着する。



「さあ強大な悪よ!お前が何者か、詳しいことは分からないが、平穏な街を破壊し、私を捕らえんとするあの黒服たちの手先だというのは分かっている!」


「誰が手先だ!誰が!!」


「……………」


「何黙ってんだお前!まさか碌に知らないとか言う気じゃねえだろうな!?」


「………街を荒らす悪人め!このボンバーレッドが退治してくれる!!」


「聞けよ!!」



 少女の背負ったロケットが、どういうことか噴出する炎を矢の形に変え、影へと突き立てていく。

 影に突き立った矢は小さく、影も気にした様子はなく宙を舞う少女目掛けて拳を振り回す。


 背のロケットの噴射と、時折少女が空中を蹴り細やかな方向転換を行い、影の攻撃は空を掠めるばかり。



 少女は“能力”と呼称した。

 であれば彼女は自身の持つ能力(ちから)を把握しており、見ている限りでは制御も出来ている…

 しかし、こう言っては何だが、あの少女に自力で“そこまで”辿り着ける頭があるようには思えない。



「どこだ……?」



 この場所が廃ビルが建ち並ぶ廃墟とは言え、俺が来た道からすればすぐそこに、まだ人が歩いている大通りがあり、そもここが廃墟群とは言えあくまで街の中でしかない。

 そんな場所で大きな爆発を起こしたり、今も空を飛んだりと、隠す気がないとしか思えない行動を起こしている。

 ニュースでは爆発犯の素性は割れてないと報道されていたが、この女の今までの行動から、“そんな事はあり得ない”だろうと結論が出ている。


 決定的なのは今まさにこの状況で、これだけ爆発音が鳴り響き、巨大な影が薄暮れの空に闇を浮かべても、野次馬どころか響めきすら聞こえない。



 確実に、人払いのような事が出来る奴が近くにいる筈だ。


 ───と、視界の端に違和感を覚え、ジッと注視してみると、色彩というか明度というか、光源や諸々に違和感を覚える場所が1箇所…

 とある廃ビルの窓がそうなっている事に気付いた。



「あそこか…」



 手頃なコンクリ片を拾い、軽く助走を付け遠投の要領で投擲する。

 やや山なりの直線軌道を描き、コンクリ片は廃ビルの壁を音もなくすり抜けた。


 フッと、頭にかかっていた霞のような無意識が解れる感覚と共に、少女と影を放って帰路に戻れば良いのだと思い至った。

 今までそれを考えつかなかった謎を思うと、これが爆発音や影に野次馬が集まらなかった理由なのだろう。


 催眠術のように、“この道を通らない”といった無意識の選択を人に強いるような能力だろうか…



「くだらねぇ…」



 俺は何をバカ真面目に考察しているんだろうか


 先ほどの廃ビルからは、叫び声のようなものが聴こえてくるが、まあ気のせいだろう。

 催眠術だとか能力だとか、仲間だの組織だの…そんな非現実的で非日常な事態は俺のあずかり知らぬところでやっておいて欲しい。


 そんな中学生の妄想のような物語はいらない。

 誰に嫌われようと

 何に呪われようと

 1人であれ2人であれ、ただ大人しく生活する分には問題も気苦労もない。


 今も続く背後の爆発みたいに、眩しく、そして騒がしいのは性に合わない。

 ともすれば、それを傍から眺めるだけの暗がりに居たい───



「──────なぁーんて、センチメンタルな感傷に浸ってるのかな〜?」(質問)


「…は?」



 唐突に…そう、なんの前触れもなく目の前に“ふざけた格好”をした女が立っていた。


 木製の飾りを紐に連ねたアクセサリーを揺らし、風にはためくのは膝先まで届く黒のマント。

 後ろ手に組んだ指が掴んでいるのは、先端が丸まった木の杖。

 極め付けは前屈みにこちらを覗く、女の頭に被った大きなとんがり帽子。


 絵本に描かれる魔女のような───いや、魔女そのものの格好をした女だ。



「はいはーい、魔女のお姉さんだよ〜♪」(歓喜)


「帰れ金髪」


「初対面で開口一番それかい!?」(驚愕)


「知るか、あとなんか口調が凄えうざったい。じゃあな」



 ネットで目にする一言一言に顔文字を付けた文のような、そんな余計なものを押し付けられたような鬱陶しさが、その女の言葉にはあった。

 有り体に言えば“軽い”とでもなるのだろうか、あと初対面を先に出して開口と邂逅をダジャレみたいに被せる辺りがメチャクチャうざい。



「まあまあまあ燈矢くん、お姉さんとお話しよ?

 ────鎭姫(マキ)ちゃんや緋色(ヒイロ)ちゃんのこと、聞かせて欲しいなぁ」(懇願)


「──ッ」


「キャっ……もう〜乱暴しないでよね」(呆れ)


「テメエ、どこで知った?」



 気付けば、女をビルの壁に叩きつけるように、力んだ拳で追い詰めた体勢になっていた。


 ──小柄な女だ。

 オレの身長が175だとすると150あるかどうかだろうか

 一回りも二回りも大きな異性に人気のない路地裏で迫られているというのに、余裕な表情で、その朱い勝気な瞳で見つめ返してくる。


 ──思わずたじろぐ



「まっ、燈矢くんになら構わないんだけど〜、初めてが外ってのはハードル高いし、今は私以外の女の子で頭いっぱいっぽい?」(疑念)


「………ッ"あ"!くそっ、お前の話し方は調子が狂う!」


「ありゃりゃ、ざーんねん♪」(誘惑)



 スルリと抜け出した女は、迷いなく我が家への帰路と同じ道を歩み始める。



「ん?どうしたの?」(疑問)


「………」


「燈矢くん家に帰るんでしょ?私もお外は寒いし早く帰ろうよ」


「割と本音っぽいな…てことは本気で上がらせてもらえると思ってんのか」



大きく溜息を吐く。

ここに留まる事に意味はないし、その気もない。


だったら、見ず知らずの女が1人増えようと、手早く家に帰り女の話を済ませる方が良いだろう………いや、決して良くはないが



「好きにしろ…」


「イェーイ!お招きに預かっちゃいましたー!」(興奮)




雪化粧に包まれた冬の街で、魔女を自称する頭のおかしい女と出会った。

女は初対面と言ったが、何故だろうか、俺には少し…ほんの少しだけ、コイツのことを“懐かしい”と感じた───────

設定という名の蛇足

“魔女”(本名不詳):絵本で描かれる魔女の格好をした女性。小柄であどけない表情をするが成人済みであり、タバコは吸わないがお酒は好き。

長い金髪を編みとんがり帽子の中に収納している。

朱色の瞳と金髪は生まれつきで、日系の血統は少ししかないが幼い頃から日本で暮らしている為、日本語に不自由はない。

魔女っ子生活(ウィッチタイム)と呼称する能力を持ち、世俗的に語られる“魔女”が行う能力の凡そ総てを扱える破格の能力者。

しかし現代で爆発的に増えた魔女の能力は使えないらしく、絵本や物語など、“昔のお話”に出てくる魔女に限られる。

空中浮遊、瞬間移動、未来予知、薬の練成et cetera


お姉さんと自らを表現するが、自分でもそう見えないことは自覚しているので大人っぽい女性が苦手

燈矢のことを色々知っているが、本人はその理由を明かさない

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