第1話 燈矢と爆弾女
街の景色は白を基調とし、人の営みが飾りとなる今日この頃
行き交う人々の喧騒が、ガヤガヤと大通りを賑わせるそんな中、1人の青年が世を嘆かんばかりのため息を吐いていた。
なにせ……
「よぉ〜、燈矢く〜ん?今日は君をぶちのめしにやってきましたーぎゃははは!」
「で、どちら様でしたっけ?」
「2週間前にお前にドロップキックされて歩道橋から落とされた矢場 伊人だよ!!このやり取りすんのも何回目だよアァ!!?」
路地裏に連れ込まれ周囲を取り囲む野郎の群れ。
クリスマスも近いこの時期に何の嫌がらせなのか
「いやースマンスマン、偶々むしゃくしゃしてたところにいつも俺に絡んでくるストーカーがいたもんだからついな、許してくれても構わないぞ」
「テメーなんで上から目線なんだおい!」
「いつも背後から金属バット振り下ろしてくるお前を許してるからじゃね?」
「覚えてんじゃねえか!!もういいやっちまえ!!」
元気な事だ。
最近この街で起きている無差別爆発テロで世間は厄介事を引き起こす奴らを警戒してるのに、なんでこういう連中はすぐ騒ぎを起こそうとするのか───
「おい!お前たち何をやっている!」
「げっ、ポリ公だ!テメエ等逃げろ!」
「こら待ちなさい!」
やはり、警察が駆けつけてきた。
巡回する人員を増やしているのだろう。
今朝あったニュースでは、不審な爆発が相次いでいながら、テロリストからの要求などは何もないとあった。
何かしらの騒ぎが起こればすぐ対処出来るよう、この街の至る所で警察が目を光らせている筈だ。
「君、大丈夫かね?」
「ああハイ、ありがとうございます。助かりました」
おっといけない、警察にまで目をつけられてたまるか
笑顔で対応し、速やかにこの場を立ち去った方が良いだろう。
「随分怖い思いをしたようだな、顔が引き攣っている…」
「………」
俺の笑顔はそんなに変なのだろうか…
「それじゃあ俺は用事があるので」
「あっちょっ君!ほんとに大丈夫かねー!?」
そんな警官の声を尻目に、路地裏を抜け、大通りの人混みを駆け抜ける。
目的地である生鮮食品店まであと少しといったところで、学校の同級生らがたむろしている事に気付く。
フードを目深に被り、すれ違う───
「──ん?」
「どーした?」
「いや、野呂がいたような気がしてさ」
「えー!勘弁してくれよぉ〜あんな奴と休日にまで会うとかさ〜!」
「?野呂って誰だっけ…?」
「ほらアイツだよ、入学早々関わった連中が大怪我しまかった“呪いの野呂”!」
「まあ、今のは気のせいだろうしさ、噂をして影が来んのも嫌だし鍋パの話に戻そうぜ」
「────チッ」
「(自分たちの自業自得で怪我してる奴らばかりだっつーのになんで俺が悪く言われてんだよ)」
高校に上がって、先ず絡んで来たのは教室の隅で1人読書に耽っていた俺を心配した担任の教師だった。
邪魔だったので、無視して教室を後にし、以降休み時間に俺が教室にいる事はなくなった。
次に絡んで来たのは、そんな俺の態度が気に食わなかった委員長のような奴で、ギャイギャイと喚き立ててきた。
鬱陶しかったので、邪魔とだけ言い捨て、自分勝手に泣き始めるソイツを無視して教室を後にした。
風に聞く限りでは、親が病気にかかり、ソイツ自身も階段の老朽化による事故で足を骨折したらしい。
次は委員長(仮)に対する一連の対応が癇に障ったらしく、男子が3人絡んできた。
名前を覚えていないので佐藤、山田、鈴木としておこう
委員長(仮)に謝れとか、アイツあの後怪我したんだぞとか、俺に関係のない事まで説教し始めたので、自業自得じゃないのかとだけ返して教室を後にした。
3人とも、部活動中に器具の故障で大怪我をしたと言っていた。
まだ幾つもあるが、思い出す度にムカついてきたからここらでやめておこう…
「お会計7242円になります」
「この割引券ってまだ使えますか?」
「えー…あっ使えます大丈夫です。では10%割引でお会計6518円ですね。はい、では7000円からのお預かりで482円のお返しとなります。ありがとうございましたー」
切れていた食材を買い足し、帰路を急ぐ。
馬鹿どもに絡まれた所為でお気に入りの番組時間に間に合わないかもしれない。
ケータイを開き、時刻を確認する…
いつもの道を通っていては、走ってもギリギリといったところだろうか
「…と、ここ突っ切れるか?」
日も暮れ、辺りが暗くなる中、街灯もない路地に目が向く。
ここから一直線に突き抜けられればかなりの時間短縮になる……が…
「〜〜ええい!迷ってる方が時間の無駄か!?」
いつもなら通らない路地裏、周囲のビルに遮られ、夕暮れの頼りない光だけが、僅かに窓に反射している。
ふと、路地裏にしては幅の広い通りに出る。
辺りを見渡せば廃れた建物が立ち並び、大通りとは景観がガラリと異なる。
「初めて来たな…こんなとこあったの───か!?」
突如、背後から体を拘束される。
すんでのところで食材を落下を防ぐ。
「貴様、あの女の仲間か?」
「───はぁ?」
声からして男だろうが、投げ掛けられたのは突拍子も無い質問で、“あの女”と言われても、対象がざっくばらん過ぎて先ず誰のことを聞いているのかすら分からない。
「何言ってるのか分かんねえけど、どこの世界に食材の入ったビニール袋持った学生にそんな質問ぶつける奴がいんだよ…」
「大人しく質問に答えろ、あの女の仲間かと聞いている」
「だぁから!先ず“あの女”って誰だよ!?知るかンな奴!答えはNO!『知らない』だよ!」
「ちっ、だったらこんなとこウロついてんじゃねえ」
「テメーが勝手に絡んで来たんだから自業自得だろうが!!」
拘束を解かれると同時、怒りに任せた回し蹴りを放つ。
内心しまったと思いながらも、まあ知って逃げようなどと呑気に考えている。
男は間抜けな悲鳴を上げながらノビてしまった。
「…………よし、逃げよう」
どうせ家に帰る途中だったのだ。
ここに留まっていても自分に益はなく、番組の時間にも遅れてしまう。
この男が言っていた“あの女”とやらに興味が無いでもないが、所詮は誰とも知らぬ他人の事情であり、気にかけたところで何にもならないし放っておこう。
踵を返し、再び帰路を辿ろうとした瞬間、少し離れた廃墟で爆発が起こる。
「はぁっ!?」
これが巷で話題の爆発テロというヤツか、成る程今日は随分と厄日みたいだ。
急な事態にも関わらず思考は随分と冷静なようで、まるで他人事のように平常運転。
恐らく廃墟で爆発が起き、近くでノビている男と同じ格好の奴らが爆風に吹き飛ばされているのを目にした脳が視界情報の処理を諦めたのだろう。
「っておいおいおい…!」
爆発は別々の場所で断続的に巻き起こりながら、少しずつこちらへと近づいてくる。
まるで敵を排除するかのように、機械的で好戦的なも意思を感じる。
コンクリートの地面を踏みしめ、全力で駆ける。
少しばかり爆発の方が早いだろうか、耳に聞こえる爆発音は少しずつ距離を詰めて来ている。
それに比例して爆風に乗って飛来するコンクリ片が増え、辺りの地面に衝突し大きな音を立て崩れていく。
「うおおっ!?」
目の前に落下して来た一際大きなコンクリ塊を避け、廃ビルを曲がり小さなボロ屋へと入る。
ここまで爆発は直線的に移動していたので、横に曲がれば避けられると考え、実のところその目論見は当たっていたらしい。
先ほど曲がった地点から数メートル先の地点まで爆発は進み、最後の爆発が起こってから数十秒が経っていた。
「ッはぁ…!何だったんだ一体…」
短い人生ながら、たくさんの人に憎まれてきた自覚はあるが、流石に爆発テロを起こす様な輩と知り合った経験はない。
それらの憎悪だって大概が自分勝手なもので自業自得で損をした連中のモノばかりなのだ。ここまでされる謂れは自分にはない………と、思いたい。
緊張と運動で荒れた息を鎮め、辺りを確認し────
「………」
「…………」
───ようとしたところで、隣に見知らぬ女子がいる事に気付いた。
歳は15ぐらいだろうか、黒髪を両サイドで結び、サイズの合っていない帽子を被っている。
身につけている衣服は動きやすさを重視しているのか、厚手パーカーと冬だというのに短パンで生脚を曝け出している。年頃の少女というのは何故こうも生脚を晒すのだろうか…
しかし、それにしても、こんな廃墟が立ち並ぶ路地で、1人探検をするような格好には見えない。
「……お兄さんは、黒服の人たちの仲間ですか?」
「はぁ?」
同じような質問をされた。
恐らく少女の問うた“黒服の人たち”というのが先ほど自分に頓珍漢な質問をして来た男を含めているのだろう。
となるとこの女があいつの言っていた“あの女”という事になるが……
「何のことか知らんが俺は家に帰らせてもらうぞ、お前もさっきの爆発見ただろ、さっさと家に帰っとけ」
関わると碌な事にならなそうなので、テキトーに場を切り抜ける事にした。
少女の放つ雰囲気だとか、巻き込まれた厄介ごとだとかで、色々疑問はあるし正直何もかもぶっ壊れてしまえと思ってしまいたいところだが、“それを俺が考えるとシャレにならない”のでさっさと家に帰って今日のことは忘れた方が賢明だろう…
「ああ、さっきの爆発ね、“アレ”起こしたの私だよ」
「……は?」
風が、空気が、辺りを漂うナニカが変わった。
肌を刺すこの感覚は、殺意に似ているが違う、そういった直線的なものではない。
例えるなら油の近くで燃える火を見ているような、そういった漠然とした“死”が身近に置かれた感覚。
少女が…いや、少女から放たれる雰囲気が、辺りを死の脅威で埋め尽くしているような錯覚に囚われる。
そして、そんな脅威を肌に感じながらも、自分の中で恨み辛みが募っていくのも実感する。
「へー、お前かー…さっき爆発起こして俺が死にそうな原因お前かー…」
ああ、“影”がいきり立っている。
俺の近くを漂う“影”が、俺の感情で暴れようとしているのが分かる。
日頃の鬱憤まで晴らそうとしている。今回のはかなり大きなのになりそうだ。少女の小さな身体などひとたまりもないだろう
ああ、ダメだ。
もう、“影”がその怒りをぶつけ────
「居たぞ爆弾女だ!発砲を許可する。どうせこの辺りに人は住んでない!!」
「うるせぇ!テメエ等は黙ってろモブの格好しやがって!!!」
先ほどと同じ黒服に身を包んだ連中が、ぞろぞろと現れたのでつい、怒りをそちらに向けてぶつけてしまった。
途端、黒服たちが出てきた道の周辺が大きく吹き飛ぶ。
巨大な物体に大地を丸ごと抉られたかのように、地面にはその傷跡が刻まれた。
「え…なにあれ」
「やっちまった…………」
辺りに撒き散らしていた死の雰囲気はどこへやら、困惑する少女を尻目に、これまで堪えてきたものが全て無駄になったことを悔やんでいた。
そして、辺りに鳴り響くメロディで気付く。
番組の時間が来てしまった事に…
踏んだり蹴ったりだったこの日が、爆弾女こと『華瀬 白凪』と出会った日だった。
以来、この女は俺の家に居候するようになり、疫病神と俺はこいつを呼ぶようになる。
“爆発する正義”(ボンバーマン)
能力詳細
爆発物の具現化、一定範囲内で任意に爆発を起こせる、爆発を起こさない事も出来る。
これが白凪の超能力の設定になります。
簡単に言えばボムマスターですね!