表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第2話 道路を作る

「俺の予想が正しければ……」


 伊藤市長はそう言うと、作ったばかりの火力発電所をタップする。


 すると、火力発電所から何やらポップアップウィンドウが立ちあがった。


「ほらな!大体住むシティシリーズの発電所は出力設定ができるんだ。デフォルトはMAXに設定されてる。まだ建物も何もないのに、発電量をMAXにする必要はねぇ。これを最小にする事によってかなりの運用コストを抑える事ができるんだぜ!」



「さすがです、伊藤市長」



「当たり前だろ!俺を誰だと……、まぁいいや。 それで次は道を作るんだよ!普通は人が住んでから道ができる。それが自然なんだが、ここは違う。時を止められるんだから、発電所のコストを止めている間に先に区画整備するんだよ。まずは道路からだ!」



「なるほどです、伊藤市長。では道路パネルを表示致します」



 ナタリーがそう言うと、建設できる道路が表示される。

 道路にもかなりの種類があり、三車線四車線あるような幹線道路から舗装すらしていない砂利道まであった。


 伊藤市長はニヤニヤと笑いながら、資金欄すら見ずに、太い道路の大通りを選んだ。


「街の中心に東西南北と伸びる大通りを作るぜ!この中央分離帯のある太い大通りだ」


 丁度地形の中央、ひらけた平地に十字を描くように大胆かつ正確になぞった。道路はなぞると同時に、またもや心地よい効果音と共にすぐに建設されていく。


「初期費用がもったいないからと言って、道路をケチらない方がいいと俺は思う。結局あとあとになって、交通渋滞が発生し、一度作った道路を壊してまた大きい道路にグレードアップしなきゃなんねぇからな」


 チラっとナタリーの方を向いた伊藤市長だったが、ナタリーはすました顔をしている。


「確かに、そうでございますが、今シリーズより道路のグレードアップは既存の道路を壊す事なく上書きするようになぞる事によってグレードアップ可能でございます」


 ナタリーは腕を少し身体の横、胸辺りまで上げてヘルプ画面を表示させた。


 そこには、しっかりと道路は一度壊す事なくアップグレードできるようになったと記載されている。


「マジ? な、なかなか便利になったじゃねーか。6あたりに俺が道路の事で出した要望意見が反映されたと見た。まぁしかし街の中心の大通りは最初からあっても良いだろう、アップグレードだって金はかかる」


「はい、さすがです。伊藤市長」



 にっこりとほほ笑み、首をかしげるナタリーに、少し皮肉的なものを感じながらも、その美しい顔立ちに伊藤市長はすぐに許してしまう。


「まぁな。えーと、次は今引いた大通りに小さめの街路を加えるぞ。これで碁盤の目を作り区画整備だ」



 東西南北に延びる大通りを中心にテニスラケットの網のように道路が次々と引かれる。「おっと忘れてた」と、砂利道で発電所までの道も通した。


 そして、いよいよ住宅区、商業区、工業区の区分着手に乗りかかるのである。


「よーし、ある程度道路もできたから、いよいよ住・商・工だな」


「はい、いよいよ、スム達がこの街エゾシカにやってきますね!楽しみです!」


 ナタリーのこぼれるような笑顔に見とれつつも、そう言えばエゾシカっていう街の名前だったと適当に付けた事を後悔し少しうなだれる。


「……あ!マジやばい。初期費用が既に半分減ってるぜ。せっかくこれから住宅やらを建てようと思ったのに足りるかな、いきなり借金生活は嫌なんだが」


 イスにもたれかかりながら、頭を抱える。


 そんな市長の様子に、何か問題でもあるのかと平然とした顔でナタリーは近づく。


「伊藤市長、今シリーズより住宅区、商業区、工業区の設定には費用はいっさいかかりません。どこからどこまでを住宅区にするかなどを、なぞって頂くだけで、あとは勝手にスム達が建物を建てるシステムとなっております」


「なに?なるほど。リアルの都市計画法みたいなもんだな、用途地域を設定して建築物を制限するっていう」


「さすがです、伊藤市長。実際の行政にも詳しいなんて」


 気のせいか、ナタリーの頬あたりが少し赤く染まったように伊藤市長には見えたようだが、それは彼の願望なのではないかと推測する。

 住むシティはあくまで街作りシミュレーションゲームであり、断じて恋愛シミュレーションゲームではないはずである。


 ちなみに、伊藤は恋愛シミュレーションゲームジャンルにおいても、かなりのプレイ履歴をもっており、ドキドキプラスというゲームは吐血するほどやったという。


 睡眠不足で吐血したのか、何が理由なのかは不明なのだが。


「OKだ。さっそく、街の中心部に商業地区を設定する。そしてその周りを囲むように商業地区の3倍くらいの広さの住宅地区を設定する」



 商業地区アイコンをタップし、画面上をなぞると薄く青いグラフィックで地区が設定された。

 その周りは薄い緑のグラフィックで住宅地区を設定する。


 ちょっと素人にはわかりづらい説明だとは思うが、地形や地図の上に薄い透明色のレイヤーが重ねられたようなイメージだ。

 まぁわからなくたっていい、住宅区はここからここまでだ、という風に目印の色が付いたと認識して欲しい。


 次に工業地区だが、工業というのは火を使ったり、水を使ったり、色々な面で環境を破壊する。しかし、商業に比べて労働者の雇用をしっかりと大量に確保できる。

 初期段階において工業地区無しではやっていけないのである。


「貧乏くさいスム共は(あきな)いなんてしない。奴らはもくもくと煙を吐き出す工場で鉄くずにまみれながら働くんだ。それが初期の雇用確保、給与所得税の発生、税収アップと繋がるんだ」


「伊藤市長、確かにそうですが、低層工業は大気汚染、水質汚濁、感染症などいろいろなデメリットがあります。それに低所得のスム達も立派な私達の市民なのですから、敬意をもって接しないといけませんよ?」



 ナタリーは少し前のめりになって、子供にお説教するような困ったような厳しいような顔をしながら、人さし指を立てて顔を近づけてくる。


 こういうプレイもありなのかと、伊藤市長は思いつつも、ブンブンと顔を横に振り、背もたれにもたれかかった姿勢を正す。


「わ、わかってるよ、ナタリー。そんなに顔を近づけるなって」



 リアルな映像だと空間ディスプレイは精神的にやばい部分もある。良い意味でも悪い意味でも。



「工業地域は南の山の麓あたりに広めに設定しておく。奥には火力発電所もあるからな、ここいらはちょっと公害的にやばいかもしれないが、都市が発展するとはそういう事だ」


「畏まりました。では、これで住・商・工の地域が設定されました」


 南側には薄い黄色いグラフィックで工業地区が設定された。


「よし、それじゃ時を動かすぞ」


 操作パネルの端っこの再生ボタンを押す。


 世界は静かに動きだし、雲が流れ、風が吹き、木々がささやく。



 やがてぽつりぽつりと薄い緑のグラフィックが設定されている場所に、バラック小屋のようなみすぼらしい住居が建ちだした。


 伊藤市長はややしばらく、その状況を見ていたが、何かがおかしいと首をかしげる。



「あれー、なんかおかしいな。この設定状況ならニョッキニョッキとは言わないが、

もっともっとバラック小屋が建ちまくるはずなのに、全然いかんな」



「そうですね、住んでいるスム達に話を聞いてみる事にしましょうか?」



「おお、前シリーズでは歩いているスムとかをタップすると吹き出しで会話が表示されたが、あれみたいなもんか?前シリーズではゲームにまったく関係ない事ばっかりしかしゃべらなかったけどな!」



「ええ、今作ではスム達の話を聞く事がひとつの重要な要素になります。伊藤市長、VRヘッドマウントディスプレイはございますか?」


「VRヘッドマウントディスプレイ?スマートグラスの事だよな。もちろんあるぜ。結構最新式のがな!」



 そう言って、PCデスクの一番下の深い引き出しを開けるとVRヘッドマウントディスプレイを取りだす。これはゴーグルのように頭に装着し、VR(バーチャルリアリティ)の世界を体感できるPC周辺機器だ、VRゲームにも精通する伊藤には所持していて当たり前だった。


 VRヘッドマウントディスプレイを住むシティに登録し、装着する。


 すると、空間ディスプレイによって相当リアルで3Dに表示されていたナタリーが、さらに現実感あふれる存在としてそこに立っていたのだ。


「ナ、ナタリー。住むシティはVRも対応しているってのは知っていたが、君も対象なんだな?」


 驚く伊藤市長は「美人過ぎるぜ……」と小さくつぶやいた。


「い、伊藤市長!お世辞は言わないでください。業務に関係ない事はセ、セクハラですよ?」


 と、明らかに、いや確実に顔を赤らめてナタリーは発言した。


 住むシティってこんなゲームなのかと、伊藤市長は別の淡い期待を胸に抱いた。


しかしながら、ヘッドマウントディスプレイをしてると呟き声でも拾ってしまうらしい。



「さ、さて、伊藤市長。今からVR(バーチャルリアリティ)で住宅地区に行きますよ。そこで実際にスム達と話し、問題を解決してくださいね」



「お、おう。ゲームだとわかっているが、VR(バーチャルリアリティ)だと実際に人と話すのとほとんど変わらないから、かなり緊張するな……。俺意外とコミュ障なんだよ」


「大丈夫です。私がついておりますから」



 「さぁ」と手を差し伸べるナタリーの手に触れると、目の前が暗転した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ