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第1話 住むシティ8 DX(デラックス)

 住むシティシリーズの最新作にて最高傑作と話題の街作りシミュレーションゲームが本日発売された。


 いつになっても新しいゲームやおもちゃを手にした時のワクワク感といったら、尋常ではない。


 彼もそれに違わず胸を高鳴らせて、新作を大事に抱え自分の部屋に入る。



「きたぜぇぇぇ! やっときたぜぇぇぇ! 住むシティ8(スムシティ)! これをプレイする日を俺がどれだけ待ちわびたか……!」



 彼は目を爛々とさせながらPCデスクに座る。さすがゲーマーと言うべきか、彼のPCデスクの環境はなかなかにして凄い。


 正面の巨大空間ディスプレイに、空間タッチパネル、パノラマサウンド。正直住むシティには過剰スペックなのではないかと思われる環境だ。



「このっっ!気持ちがっ焦るとっ、梱包が上手く開けれないぜぇぇぇ!」



 ディスクの梱包をはずすのに、気持ちが焦って無理やり破いているので、結局時間がかかっている。

 箱がぐちゃぐちゃに変形しつつも、ようやくディスクを取り出し、ドライブに挿入する。


「箱が変形しちまったぜ……。売る時安くなっちまうんだよな、ん、いや!これは売らねぇからいいんだよ!一生遊ぶんだ!」



 心地よい音を立てて起動音がする。


 目の前のモニターにはランチャーらしきものが出現した。



「まぁな、まずはインストールからだな。焦るな俺。すぐにはできねぇのはわかってるって」


 彼はランチャーのインストールボタンをタップし、住むシティのインストールを始める。


 しばらくすると、インストールが終わり、モニター全画面でゲームが起動した。


「おお!流石最新のSSDは早いな!」



 画面にはリアルな景色と近未来的な街並み、それとゲームの住人などが表示されている。その後、大きく「住むシティ8 DX」とロゴが表示され、スタートボタンが浮かび上がった。



「よっしゃ!!いざ!」



 彼はスタートボタンをタップするが、始まったのはデータのダウンロード。



 DOWNLOADING NOW……



「なんだよ!!はやく!!」


 デスクをバンバン叩きながらまるで子供のように地団駄を踏む。

 最近のゲームはインストールにデータのダウロードに、アップデートやらなんやら、始めるまで非常に待ち時間が長い。


 せっかくの高揚感が、ここで一旦クールダウンさせられる経験はないだろうか?


 しかし、彼の高揚感が少しでもクールダウンする事はなかった。




「よっしゃ!ダウンロード完了、準備万端スタートだ!」



 独特な効果音の後、モニターの端っこには「サウンド、マイクシステムを起動します、よろしいですか?」というポップアップが表示され、彼は適当に了承しすぐにポップアップを画面から消す。


 すると、突如画面が暗くなり、正面に人物のシルエットが浮かび出した。


 だんだんとシルエットが形作られると、それは真っ赤なスーツを着たスラっとスタイル抜群の女性。



「こんにちは。 私は貴方の秘書を務めさせて頂きます、ナタリーと申します。よろしくお願いしますね」



「おおお!秘書ね、確かシリーズ4くらいから市長には秘書がついて、最初は色々と教えてくれるんだったな。8も秘書システムは変わらずって事だな」


「はい、その通りでございます。何かわからない事がありましたら、どうぞ私にご相談くださいませ」


 なんと、彼の独り言に反応してナタリーと名乗った秘書が話し出したのだ。


「な、なんだと!音声認識システムが搭載されてるのか?」



「はい、その通りでございます。どうぞお声掛けくださいますようお願い致します。さて、早速ですが、これから街づくりを始めたいと思いますがよろしいですか?」


「おお、もちろんだぜ!」


「ありがとうございます。一緒にがんばっていきましょう! それでは、まずはどのような街を作りたいか希望はございますか?」



 秘書のナタリーがモニター側を紹介するように手を上げると、画面には超近代的で眩い都市や、工業的でスチームパンクのような都市、またドがつくほどの田舎の風景などが表示される。



「あぁ、なるほどね。まずは目標を決める事ができるのだな?やはりなんとなく作るってのはダメだよな、これを考えないのが原因で《《詰む》》奴もいるんだ。そうだな、やはり最初なんで、実際にあるどこかの街を参考にしようか……」



 彼は参考にする街はどこがいいかと、なんとなく周りを見渡す。


 ゲーマー環境丸出しの彼の部屋にはアイディアが浮かびそうなものは何も無いようなきがするのだが、上を向いたり、斜めを見たりと、しばらく考えてみてから。



「俺の住んでいる街にしよう、サッポロ。まず歴史的に言えば、比較的新しい街だし、区画整備や道路も計画的にしてるから碁盤の目。人口もそこそこだし、最初に目指す街の形としては理想だろ?」


「畏まりました。それでは、こちらの地形でどうでしょうか?」



秘書のナタリーがそう言うと、画面にはだだっ広い平地に大きい川が一本と複数の小さめな川、北側にはうっすらと海が見え、西と南には山林が少しある地形が現れた。



「うん、なかなかいいね、ここにしようぜ」



「畏まりました。ここの地形は冬が少々厳しく-20℃下がる日などもございます。なお、まずは300万人都市を目指しスタートという事でよろしいでしょうか?」


「300万か、確かサッポロは200万人いないんじゃなかったっけ? まぁ、ゲームだからそのへんは誤差だな、それにまったく同じのを作るわけじゃないしな! オーケーだぜ」



「畏まりました。それでは、始めましょう」





 歴代住むシティのメインBGMがパノラマサウンドで響き渡る。画面はぐるんと一回転し、スタート地点にクローズアップされた。



 画面上にシステムエディタのようなボタンが浮かび上がり、タップ可能な状態になっているようだ。




「ようこそ、まずは市長のお名前をお聞かせ下さいませ」



 ナタリーが事務的な笑顔を作り話しかける。

 しかし、良く見ると本当にリアルだ。そして美人でもあるので、彼は少し見とれてしまっていた。


「おお……、名前な。伊藤だ」



「伊藤市長、次に街の名前を決めてください」


「まずはそれだよな、ええっと……。まぁ適当でいいか、<エゾシカ>で」



「畏まりました。ちなみになぜ<エゾシカ>なのでしょうか?」



 秘書は首をかしげながら不思議な顔をして尋ねた。これもどのような名前にしても聞くようにプログラミングされているのだろうか。


 彼、いや伊藤市長は若干イレギュラーな質問に面食らった感じはあったが、すぐに持ち直して答える。


「ああ、適当だよ、適当。サッポロはホッカイドウだろ?ホッカイドウはエゾだろ?エゾだけならヒネリがない。だから動物の名前をつけてエゾシカ、実際いるだろ?エゾシカ」



「畏まりました。良い名前ですね。それでは始めて行きましょう」



 ナタリーはニコっと事務的な笑顔を見せ、操作パネルを表示させた。



「まず街作りに必要な操作方法を学ぶ為にも、チュートリアルを表示させましょうか?」



「チュートリアル?いやいやいや、いらねぇよ。俺を誰だと思ってるんだ?」



「伊藤市長です」



「……お、おう。伊藤さんだぞ……、んなことより!俺は住むシティのシリーズ1から歴代全部プレイしてるんだ!正直大体の事は感覚でわかってる、チュートリアルはいらねぇよ」



「畏まりました。チュートリアルは飛ばしますね。チュートリアルはいつでも表示させる事ができますので、必要な時はおっしゃってくださいませ」


「おう、まぁ必要ないけどな。さて、さっそく街を作っていくぞ!」


 伊藤市長は操作パネルを一通り眺めると、施設の発電所を選んだ。施設の欄には、様々な公共施設や建物などがグラフィック付きで用意されている。


 発電所には風力、火力、水力、地熱、原子力、太陽光、など数種類あり、それぞれ建設コストや維持コストなどが表示されていた。



「初期資金は1,000,000C(コイン)か、今のところ、多いのか少ねぇのかわからんな、まぁいい。とりあえず、電気だ。人が住むには確実に電気がいるんだ、電気さえあればスム達は住みつきやがるんだぜ」



 スムというのは、この住むシティで作られる街に住む住人の事を表す用語だ。住むシティをよくプレイしている人なら常識中の常識である。



「伊藤市長、電力発電施設には複数種類がございますが、どれに致しましょうか?」



「もち、火力発電。建設コスト的には結構食うんだが、初期はこれ以外に選択する余地はねぇ。長年住むシティやってる俺が言うんだから間違いねぇぜ」


「畏まりました。火力発電は大気汚染を伴い、地価を大幅に下げますが、よろしいでしょうか?」


 火力発電は建設コストが少し高い、しかし維持費と発電量を見ると他の発電所よりも圧倒的に発電効率が良い。

 ただし、秘書が言うように二酸化炭素、PM2.5などの大気汚染が発生する。


 大気汚染が発生すると、その辺りの地価が下がり、スムは住みつき辛くなるし、もしその辺りに住民が居れば苦情が来る。


 発電量が少ないが大気汚染がほとんど起きない水力発電や風力発電もあるのだが……。


「大丈夫だ、まだスム達は住んでいねぇし、火力発電の建設場所は西の山奥にする、こうすればこれから発展させようとしている街の中心に影響は少ない」


「畏まりました。ただ、風向きをご覧ください。この地形は全体的に北西の風が吹くようです、大気汚染の影響は風に左右されますので、中心部より離れた場所に建設するならば南の方がよろしいかと思います」


 ナタリーがそう言うと、風向きビジョンマップに画面が切り替わる。

 地形全体に立体矢印のようなアイコンが多数表示されていて、確かに基本的に北西の風が多いようだった。


「マジか!8では風向きもシステムに加わったんだな。なかなかリアルだな。OKだぜ、南の山奥、そうだな……。このあたりに建設だ」



 伊藤市長は南の外れ、森林が多い場所に火力発電所を建設する。

 操作パネルから火力発電のアイコングラフィックを建設目標にドロップすると、「ポンッ」と心地よい効果音を立てて一瞬で火力発電所が出来あがった。



「シリーズのシステムが変わって無ければ、火力発電の周りにある森林は僅かだが大気汚染を和らげてくれるはずだ。そして、地価を下げるってナタリーが言ったが、正直初期に地価がどうのなんて気にする事はねぇ。地価を気にする人間……、いや、地価を気にするスムってのは、高度な教育を受けた高所得の上流階級のスムだけだ。初期にはそんなスムはいねぇ、みんな貧乏で底辺だらけなんだよ。文句は言ってくるが大気汚染もなんのその、奴らはどこでも住んでくれるぜ?」


「その通りでございます、伊藤市長。さすがですね」


「だろぉ?俺を誰だと思ってるんだ?」


「はい、伊藤市長です」


 こうして、何も無い地形にポツンと火力発電所が建てられた。

 大気汚染ビジョンマップを表示すると、発電所の周囲が《《まっかっか》》だったが、これはかなりの汚染が既に発生しているという事である。


 しかし、住宅区域を設定していないのでスム達が住む住宅はない。


「伊藤市長、発電所が建設されましたね、次は何を致しましょうか?」


「ん、ナタリーはどう思う?」


「はい、まずはスム達をこの街に住まわせないといけません。人口が現状は0ですので街とは言えないですからね。住宅区域を設定し、スム達を呼び寄せましょう」


 人口が0なのに、発電所は稼働しているのはなぜなんだろうと、疑問に思う所ではあるが、その辺はゲームなのであろう。


「ナタリー……。俺の秘書としてはその回答は25点だな」


 伊藤市長は、片方の口角を上げて少々いやらしい顔つきになっている。


「え……。も、申し訳ございません!それでは伊藤市長は次に何をすべきだと?」


 ナタリーは意外と感情を顔に出し戸惑っているようだ、この秘書システムはAIと音声認識システム両方兼ね揃えているのであろうか。


「ふう……、いいか、ナタリー。まずは時を止める!!」


 伊藤市長は操作パネルの端っこにある、一時停止ボタンのようなマークを押した。


 すると、今まで風が吹いてなびいていた森林や、雲、発電所の稼働の様子、様々な事が停止した。

 伊藤市長は一体何をしようと言うのだろうか。


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