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10、お弁当、その後!


「本当にお騒がせしました! 貴方様には感謝してもしきれません!!」


傷を負ったドラゴンにはあの後、制止を振り切って無理矢理に僕達を背中に乗せ、休み休みアレイスター宅まで飛んでくれた。そして彼女がアレイスターの手当を受けている途中に、僕が抱えていたドラゴンの妹が目を覚ましたわけである。


その第一声として彼女は先程の謝罪を述べ、僕の目の前で土下座を決行しているこの状況に至ったのだった。


「いやいや。君も本意では無かったんだろうし――と言うか、覚えてるの?」

「お、覚えてます。私が貴方様と、その、……お姉様に、どんな事をしたのかは」


そう言って、次第に潤んでゆく黄金色の瞳。相対すように真っ白いその髪がふわりと舞い、僕は一瞬見惚れかけた。ぶっちゃけずとも、美少女。ドラゴンも素晴らしく綺麗であることに間違いはないのだが、あれはあれで性格に難がある。

だがこちらの妹に関してはもう、文句のつけようのない――。


「うう、私は。悪い子です。ううう、こんな私はこれからどんな顔で……生きて……」

「あ、はは。大げさだって大げさ。きっとドラゴ……姉さんも気にしては――」


突然。彼女の首が――ブレる。


「どんな顔でええええ!! 生きてゆけばあああああああああああああああ!!」

「何故に突然自分の額を地面に叩きつけてんのおおおおおおおお!!」


前言を全力で撤回。

彼女の性格には、非常に大きな難がありました。






「……人の妹を土下座で放置の上、抱きかかえようとするとはどの様な――」

「がああああああ!! 違う違うこれは彼女が勝手に!!」


全力で自らを罰している少女を僕は全力で止めようとした。しかしその作戦は敢え無く失敗。己の額の痛みで土下座したまま燃え尽きてしまった少女を介抱しようとした所に、手当を終えたらしいドラゴンとアレイスターが入って来たのだった。

詰まるところ――僕の尊厳絶体絶命!?


「冗談です。その子の自虐的な性格はよく分かってます」

「――え? ああ、そうか。なら、良かった」


どうやら彼女は元々あんな感じの性格らしい。――とは言え、あれは自虐的なんて程度の言葉で済ませられる程可愛いモノでもないと思うのだけれど。

そんな風に首を傾げていたら、唐突に目の前の金髪幼女アレイスターが豪快に笑う。


「なっはっは!! 此奴がドラゴンの妹でギーヴルの正体か! 流石の美少女姉妹じゃな!!」


なんてジジ臭い事を豪快に言ってのける9歳児なのだろう。

いっそ、清々しすぎて涙が出そうだ。


「美少女姉妹ではありません。『特』美少女姉と『並』美少女妹と――」

「牛丼姉妹かお前らは!!」


妹があれなら、姉も大概だった。


「と言うか、主よ。いつまでその子を抱えてる気だこの変態が?」

「がああ忘れてたほら起きろ起きろ!! 頼むから起きてくれ!!」


ペシペシ、そしてベシベシと頬を叩くと――僕の必死で決死で、切実な思いが彼女の夢の国にも届いたのか、彼女は何とか目を覚ましてくれた。

そして、その半開きの双眸をコチラに向け、アチラに向け、最後に自分の姉を見据えて。


「……あ、ああ。姉、様。私……私!」

「……うん。大丈夫」


また、あの暴走が起きるかも――と、この時の僕は身構えていたのだが。


その心配は、無用だった。


「姉様ああッ!! 会いたかった! 私、ずっと! ずっと会いたかった!!」

「うん……うん。私も、会いたかったよ」


がっしりと抱き合い、さめざめと泣く二人の美少女を見て。

少し涙腺が緩みかけたのは。決して僕のせいじゃ無いだろう。






「隣、良いですか?」

「――ん? ああ。ドラゴンか」


夜。満点の星空の下。宝石みたいな――なんて、その程度の表現しかできないけれど。本当に、胸が詰まるくらいに綺麗な星空の下で、僕たちは肩を並べて座った。

彼女のぬくもりが微かに感じられる位の距離で、僕はドラゴンに問いを投げかける。


「結局、思い出せたのか?」

「――いいえ。呪いですから。思い出せないのは仕方がないことなんです」


思い出せない。これは、彼女達の『名前』の話だった。


「…………」


自分の名前を。生まれた時から慣れ親しんだはずの名前を――捨てる。それがどれ程辛いかなんて想像もできないし、なんて声を掛けたら良いかも僕には分からない。

だから、僕は少し『ずる』をした。


「そっか。でも、いつかは――」

「いえ、良いんです」


そう言って、天を仰ぐドラゴン。

キラキラと煌めく星たちがその綺麗な瞳に反射して。


それはそれは。それは――もう。


「ドラゴンと、ギーヴル。これが、『今』を生きる私達の名前です」

「――そっか」


馬鹿な僕は、ここに来て彼女の言わんとしている事をようやく理解した。

彼女は自分の名前を捨てたんじゃない。


手に、入れたんだと。

そう考えることにしたんだと、ようやく、分かった。


「それで」


ドラゴンが、言う。


「貴方は、帰るのですか? 元の世界に。妹さんの所に」

「勿論、帰るさ」


そう言うと、ドラゴンは少しだけ目を細めた。――けど、それだけ。それ以上ドラゴンは何も言わないし、表情にも出さない。

だから代わりに、僕が彼女にこう言った。


「お前達は、どうする?」

「……私、達は」


ドラゴンは、俯いていた。


「あの子、ギーヴルが、言っていたんです。自分の友達も、悪い魔女に怪物にされて、苦しんでいると。私は彼女達を何とかして助けてあげたいと、彼女は――言っていた。だから、私は」

「妹を手伝う――と?」


俯いたまま、ドラゴンは、頷く。


「――はい」

「そうか。分かった」


そうやって相槌を返すものの、既に僕の考えは固まっていた。

乗りかかった船。騎虎の勢いと言うやつだ。


奴だ――が。


「それじゃ。僕たちはここでお別れってことかな?」

「――――っ!」


この時の僕は、ちょっち、意地悪したい感じの気分だった。


「まあ、今日は散々ボロクソ言われたしい」

「――それはっ!」

「頑張ったのにまだお礼もあんまり言われてないしい」

「そ、それは――今それを言いに来てっ!」


心細そうな顔で焦るドラゴン。尋常じゃないレベルで可愛かった。


「まあ。あれなんだ」

「あ、あれと言うと?」


僕はここで少し間を置き、告げる。


「ドラゴンが、どうしても着いてきてほしい――とか言ってくれたら」

「――――っ!?」

「ついて行くんだけど――な?」


ちろりとドラゴンの顔を見ると、彼女の表情は目まぐるしい速度で移り変わっていた。

滅茶苦茶面白いと思いながらも、流石にこれ以上は僕も性格が悪すぎるか――と。


勘弁しようとした、頃に。


「よ、よければ、少しの間だけでも、私達に付き合っては――くれ、ませんか?」


真っ赤になりながら、上目遣いでお願いしてくるドラゴン。

これにはもう、僕は全力で首を縦に振るしか無いわけで。






次の日、僕達三人はドラゴンと二人で最初に訪れた『マルゴス』という街に来ていた。

理由、と言うかその目的は至極単純、お金を手に入れるためだった。僕達はアレイスターに様々な借りが有るし、幾つかの水晶を弾丸に使ったりかち割ったりと駄目にしてしまった。

まあつまり、その弁償分の代金を稼ぎに来たという訳だった。


「――という訳で、ギーヴル討伐分の報酬金、貰えます?」

「は?」


僕達が居るのはこの街の冒険者ギルドの本部。そこで、多大な懸賞金が掛けられている白い蛇『ギーヴル』の討伐者として、正々堂々お金をふんだくろうと言うのが、僕達で考えた作戦。

――いや、正直に言おう立案率アレイスター100%による素晴らしい作戦なのだった。


「冒険者登録は一応さっきしてきたし、確かギーヴル討伐は早いもの勝ちの特殊依頼。という訳で報酬金――下さい!」

「…………では、討伐の証拠として全体の5%以上を締める集収品をお見せ下さい。鑑定します」


頷き、僕はアレイスターに借りた腰のポーチから、一つの水晶を取り出す。


「この中に、閉じ込めたんだけど」

「…………お引き取り下さい」


ですよねえ、という事で、僕は当初の作戦を実行に移す。


「分かった分かった、証拠を見せるけど……良いんですね?」

「……はあ」


てな感じで受付嬢さんの許可を取った僕は、その水晶を――地面に、叩きつける。

――と、同時に。僕は収納していたギーヴルを、外に出した。


『ギャオオ(うおー)! ギャシャアア(食べるぞー)! ギャギャ(食べちゃうぞー)!』


つまり、この水晶を壊した瞬間に、本部の中にギーヴルが出現したわけで。これこそが、さっきの水晶の中にギーヴルが捕らえられていたという何よりもの証拠なわけで。

この受付嬢は、どうやったてその結論に行き着いてしまうのが――当然なわけで。


「せや」


隣でうねうねうねっているギーヴルに拳を食らわす。


『ギャアアア(うわー)! ギャブブブブー(やられたー)!』


その場にバタリと倒れるギーヴルに駆け寄り、僕は腰のポーチから新しい水晶を取り出す。そして、あたかもその水晶にギーヴルを捕らえるように、見、せ、か、け、て、彼女をスキルで収納した。

これで、周りの人間には、僕が颯爽とギーヴルを殴り倒し、水晶に封印したように見えたはずだ。


「――と、これで報奨金、貰えます?」

「あ、あ、ああ」


口をパクパクさせている受付嬢。

魚みたいだなー、と。呑気にそんな事を考える僕は、果たして性格悪いのだろうか。






「もう、行ってしまうのか?」

「ああ、悪いなアレイスター。ホント世話になった」


後日。その水晶は預かるという形で報奨金を受け取った俺達は、アレイスターとその大金を半分に割り、ちょっとした小金持ちになっていた。

つまりは旅の資金も整ったわけで。これ以上、彼女に世話になる訳にもいかない、わけで。


「有難うございました。アレイスターさん」

「うむ。ドラゴンの娘っ子も、達者でな」


達者でなとか――ジジ臭いどころの話じゃないぞ、と僕。


「本当に、短い間でしたがお世話になりました! ご飯美味しかったです!」

「うむ。姉と違って心の篭ったいい挨拶じゃな。ギーヴルの嬢ちゃん」


何だろう、最年長者としての――みたいな、この貫禄。

地味に9歳児なんだろお前。


「――まあ、何かアレば何時でも頼ってくれてかまわないぞ」

「ああ、そうさせてもらうよ。全部終わったら元の世界に返してくれる約束も、忘れないでくれよ」

「無論じゃ。が、今度は全部終わる前にほっぽり出すことは許さぬからな?」


そう言って、ニヤリと笑う金髪幼女を見て。

僕も、ニヤリ――と、笑う。


そして。




「――行くか、不幸な怪物達を、救いに!!」






これにて『ドラゴンにお弁当として召喚されたよ!』閉幕となります。処女作という事もあり、色々と拙い所も合ったと思いますが、お付き合い頂き本当に有難うございました。

現在は他にも連載小説を一本投稿しております。もし宜しければそちらもお読み頂けると幸いです。


最後までお読み頂き、本当に有難うございました!

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